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世界規模で展開するラグジュアリーブランドが「日本」を取り入れる3つの理由

世界中のラグジュアリーブランドが集まる東京・銀座

日本のファッション産業を強化していこうと、経済産業省で始まった「JAPANブランド育成支援事業」。その取り組みをさらに推進するために、今の日本に必要なこと、それは教育である──。マリ・クレール編集長、田居克人が月に一度、読者へのメッセージを綴ります

ファッションは文化である

5月に経済産業省の方々が弊社にお見えになり、省内に設けられた「これからのファッションを考える研究会」がまとめた「ファッションの未来に関する報告書」に対しての説明を受けました。

この報告書は激変するファッションの動向を的確にとらえていくために、継続的に広く多くの方々からの意見を聞き、国のこれからのファッション政策に生かしていこうというものです。メンバーの中にはデザイナーやファッションエディター、ファッションブランドの経営者も含まれています。

ミラノやパリのように、ファッションを文化としてとらえ、新しい時代にふさわしいファッション産業を国が支援することは、以前からファッション業界で働く人たちから望まれていたことです。

経済産業省はこれまでも「東京コレクション」の運営体制の転換の時や、「クールジャパン」の活動など、日本のファッション産業への支援を行ってきました。2020年代に入ってからは、消費の二極化や多様化、気候変動の問題、またこれからの市場で重要な役割を担うであろう新世代(Z世代)の登場、さらにはデジタルの世界をはじめとする自己表現の場の拡大など、消費者を取り巻く環境の変化に伴い、ファッションの在り方についても大きな転換期を迎えているととらえ、これらの変化へ対応すべく、またファッションの未来を見据え、国として本格的に支援していこうという意図です。

経済産業省の支援の中でとくに興味をひかれたのは、「JAPANブランド育成支援事業」です。

報告書では「我が国が持つ豊かな芸術文化や伝統工芸、繊維産地のポテンシャル、デジタル技術やバイオ技術は、世界最高水準と言っても過言ではなく、いかにして、これらを組み合わせ、日本独自の創造性を発揮し、ファッションの『未来』づくりをリードしていくかが、我が国経済社会の持続的成長を検討する上で重要である」と述べています。

大学に「ラグジュアリー・マネージメント」学部を!

もとはと言えば、ラグジュアリーブランドの世界的な成功は、日本が発端になっていると言っても過言ではありません。ラグジュアリーブランドの持つ、物語性や歴史、伝統、品質は、日本人の美意識や価値観にうまくマッチすることができたのです。そして世界規模で成功したラグジュアリーブランドは、今度は逆に日本の職人技術の確かさ、伝統、またその美意識に注目し、自社の製品に欠くべからざるものととらえて積極的に「日本」を取り入れようとしています。そのトレンドをふまえての経済産業省の「JAPANブランド育成支援事業」だと思います。

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私もその方針には大いに期待しているのですが、ここでさらに必要になってくるのは、「ブランドマネージメントをどうするか」ということだと思います。

数十年前からイタリアやフランスの大学には「ラグジュアリー・マネージメント」という修士課程があるそうで、今では世界各国でそのプロが活躍していると聞きます。日本の大学にこのようなプログラムが存在しているとは聞いたことがありません。JAPANブランドを育て、守っていくためには、こうした教育面を充実させることも急務であり、そこでの国のバックアップが重要になってくるのではないでしょうか。

今年3月に中央公論新社から発刊された『究極のブランディング 美意識と経営を融合する』(長沢伸也、石塚千賀子、得能摩利子著)では、実際にラグジュアリーブランドのマネージメントに携わってきた方や研究者の経験や知見が紹介され、それぞれの視点でブランドの強さや存在意義について書かれています。

『究極のブランディング 美意識と経営を融合する』 中央公論新社 ¥1,760

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また『新ラグジュアリー 文化が生み出す経済 10の講義』(安西洋之、中野香織著、クロスメディア・パブリッシング)では、今なぜラグジュアリーが注目されるのか? と、新しいラグジュアリーについての幅広い考察が述べられています。2冊とも専門的な書籍ではあるのですが、ブランドマネージメントを考える上で、非常に役に立つ本であることを、最後に紹介しておきます。

『新・ラグジュアリー 文化が生み出す経済 10の講義』クロスメディア・パブリッシング¥2,068

2022年6月30日

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