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イタリアの就活で人気No.1。小さな村に本社を置くブランドが貫く哲学

細川護熙 作『六曲一双屛風 夜桜図』

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。今回は、あるアートイベントに出展されていた作品を見ながら考えた、ラグジュアリーブランド業界における企業のあり方について──5月26日発行号の巻頭言を掲載します

表参道にイタリアの村が出現

イタリアのラグジュアリーブランド「ブルネロ クチネリ」の表参道店で先月22日、“Incontro con L’artista アーティストとの出会い”というアートイベントが開催されました。

このイベントは「ブルネロ クチネリ」のフィロソフィーと共鳴する日本のアーティストや、彼らの作品を通じて、この表参道店を訪れた方々に新たな発見や、心の静寂、喜びを届けたいと、店のオープン時から半年に1回のペースで、作品展示やトークセッションを行っているものです。

「ブルネロ クチネリ」はイタリアのウンブリア州にあるソロメオ村を本拠とするラグジュアリーブランドですが、このソロメオ村にあるアートフォーラムをイメージしたアートスペースを表参道店の地下に設け、これまで陶芸家の辻村史朗氏、アーティストで書家である井上有一氏の作品を紹介してきました。

今回は政界引退後、湯河原の自邸「不東庵」で作陶をはじめ、書や水墨、油絵、漆芸などを手掛け、最近では襖絵の制作にも力を注ぐ、細川護熙氏の作品を展示し、東京藝術大学名誉教授の秋元雄史氏が解説するという試みでした。

「今」を映す作家の心象風景

展示されたのは『六曲一双屛風 夜桜図』と薬師寺慈恩殿の障壁画の下絵4点。

『夜桜図』は題名にもある通り屛風仕立てになっているのですが、絵が二つで対になっています。暗い空に、雲のかかっていないくっきりした満月が浮かび、それほど高くない山の中腹に点在する桜の木を照らしている絵です。桜の木は満開で一つ一つが力強く、静寂の中に、生命力の強さを感じさせます。

「ブルネロ クチネリ」表参道店B2Fのアートスペース
photo: Takahiro Arai

もちろん描かれているのは現実に存在する風景ではなく、作家の心の中の風景です。解説された秋元先生は、作家はこんな気分で今の時代を見ている、あるいはこんな風な穏やかさの境地にいるのではないかと語られました。奥ゆかしいが決して後ろ向きではない、むしろひそかに誇っているような強さを感じると。

薬師寺慈恩殿の障壁画の下絵は、仏教伝来や東西の交流に大きな役割を果たしたシルクロードに関係する絵画です。その中には東西の人と文化が入り混じったシルクロードのモチーフから、天女や異人種の人たち、ラクダなどがカラフルにフレスコ画の技法で描かれています。壁画は大小の壁、約157メートルに6年近くをかけて制作されたそうです。

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