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「甲州」の芯の強さ引き出す 創作料理との幸せなマリアージュ【三澤彩奈のワインのある暮らし】

春のブドウ畑では、美しい「ブドウの涙」を見ることができます。「甲州」の名を世界に広めた女性醸造家がブドウ畑の春と「甲州」に合う創作料理について綴ります。【三澤彩奈のワインのある暮らし】

春の陽にきらめく「ブドウの涙」

厳しい寒さに耐え、標高700mのブドウ畑に春がやってきました。もうすぐブドウの樹は萌芽を迎えます。萌芽前のブドウ畑では、剪定を終えた切り口から樹液が滴り落ちる「ブドウの涙」と呼ばれる光景が見られます。春の陽にきらめく雫はため息が出るほど美しく、心が高鳴ります。

海外のワイナリーで修業を続けていた頃、このまま海外で働くか、実家のワイナリーに戻るか悩んでいた時期がありました。ワイン産業がまだ始まったばかりの日本に戻れば、数々の試練が待っていることが分かっていました。それでも実家のワイナリーに戻ろうと思ったのは、家族や長年勤めてくれている社員と、甲州という日本をそのまま表したかのようなブドウの存在、そして日本の四季の美しさをワインに醸してみたいという気持ちがあったからでした。ブドウ畑の正面に構える南アルプスが春霞に浮かび上がる姿は何とも風情があります。

三澤農場と春霞

畑のそばの山菜を辛口の白とあわせて

畑の側らにはタラの芽やワラビなどの山菜が出始め、山梨ワインの代名詞でもある辛口の白「甲州」にとって嬉しい季節の到来です。甲州の余韻には、ピンクグレープフルーツの皮のようなアクセントを感じることがあり、山菜の上品な苦味とよく合います。高原地帯で育てられた山梨の野菜は、天麩羅でいただくとその力強さを存分に感じることができます。

春のお野菜や山菜の天麩羅に、是非甲州を合わせてみてください。

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甲州に合わせるフードマッチング大会 ロンドンで開催

今回は、甲州とお料理のお話を少し書かせていただきたいと思います。

2月のことになりますが、ロンドンで当ワイナリーの甲州に合わせるフードマッチングの大会が開催されました。これまでお料理との組み合わせに関してはソムリエの方にお任せしてばかりいたのですが、今や醸造家もお客様からワインに合うお料理を問われる時代です。

大会の最優秀賞に輝いたのは、鯖のお料理でした。甲州は青魚(鯖)でも全く違和感なく受け止めることができる懐の深いワインです。
『甲州 菱山畑』の味わいの厚みが松の実やリエットのコクと相性が良く、ワインの心地よい酸味とエルダーフラワーのジェリーとのバランスも期待できる一皿。
ヨーグルトを合わせた点も興味深く、何よりも甲州の繊細さの中にあるスパイシーさ(ここではクミン)を感じ取っていただき、完成度の高いお料理に仕上げていただいたことが受賞の決め手になりました。

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次点は、2点選ばれました。

一皿目は、甲州の繊細さの中にあるほのかなフェノリックとも言える余韻や、『甲州 菱山畑』に奥行きを与えているスモーキーさをよく感じ取ってくださっているお料理でした。
シーバス(スズキ)の繊細な味わいに、ルバーブのシャープな酸味の奥で余韻に残る根菜のような渋み、スモークしたオイルをプラスして洗練された印象を受けました。

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次点のもう一皿は、コーニッシュクラブ(カニ)やコールラビの繊細で優しい甘みが甲州の繊細な味わいとの調和を期待させます。
ワインのミネラルに貝のスープや海藻を合わせた点も秀逸で、コールラビ、りんごの食感やミントの香も良いアクセントとなっていて、とてもきれいなお料理です。すべてが的確なのですが、もう少しお料理のウエイトがあれば…という思いでした。

表面的な美味しさだけでなく、魅力を掘り下げる

醸造家として嬉しいのは、ワインの奥行きを探していただけること。甲州の香りや味わいの最初の印象は繊細ですが、その奥行きには複雑さや凛とした芯の強さが存在しています。ワインにお料理を合わせていただいた際に、ワインの表面的な美味しさだけではなく、その魅力を掘り下げようと向かいあっていただいたことが感じられると、造り手冥利に尽きます。

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Profile

三澤彩奈

山梨県の中央葡萄酒4代目オーナーの長女として生まれる。ボルドー大学ワイン醸造学部を卒業し「フランス栽培醸造上級技術者」の資格を取得。2007年に中央葡萄酒の醸造責任者に就任。栽培と醸造に取り組む。2014年に世界的ワインコンクール「デキャンター・ワールドワイン・アワード」の金賞を日本で初めて受賞。甲州ワインの名を世界に。「グレイスワイン」は海外で最も飲まれる日本ワインに成長。2021年11月、「甲州」の新たな魅力を引き出した「三澤甲州2020」を発売。
「グレイスワイン」のウェブサイトはこちら

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