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【妹たちへ】人間は「生きもの」 その当たり前を忘れない 中村桂子

中村桂子さん(JT 生命誌研究館名誉館長)

どうしたらいいかわからない……。 女性は人生の選択肢が多く、仕事でもプライベートでも迷うことは少なくありません。そんな時、ちょっと先を生きている「姉」たちの言葉から自分らしく生きるヒントを探してみませんか。

中村桂子(JT 生命誌研究館名誉館長)

敗戦国である日本は、まず貧しさから這い上がろうと、物の豊かさを目指しました。そして迎えた高度成長期。科学技術は便利なものを大量生産し、日本は大国の仲間入りをしました。人間の寿命も伸び、素晴らしい世の中になったと思います。私たちはそんな時代の流れの中で、一生懸命働いた世代です。途中で、環境問題に直面し、これを考えると新しい道を選ばなければならないと思いながら修正できないままきたことは、大きな反省点です。

そして今、異常気象、COVID-19パンデミック、ロシアのウクライナ侵攻の中で、これは私たちがつくりたかった社会ではない、これを次の世代に渡してはいけないと思っています。

新自由主義と金融資本主義によって格差社会が生まれ、子どもの貧困が見られるなど若い人たちが、夢を持って生きるのが難しい世の中です。

私たちは本当に豊かになったのでしょうか。幸せでしょうか。答えは、いいえです。

幸せは一律の価値観の中で競争して手に入れるものではありません。基本は共通でありながら、多様な私たちの中にいる私という一人の人間として一日一日を丁寧に生きることができたら、それは賢い生き方であり、幸せをもたらすでしょう。

そのような生き方のできる社会づくりに、もうしばらくの間、私も努めます。地球という星は40億年もの間、生命の営みが連なってきたところです。それはこれからも続いていくものです。

妹世代の皆さま。あなた方の世代からさらに先の未来の子どもたちへと続いていく中で、生命の営みがより豊かになり、生きものである私たち人間が笑顔で日々を送れる社会を創ってくださるようお願いいたします。

※本記事は「50代からの生き方のカタチ―妹たちへ―」(関西学院大学ジェネラティビティ研究センター編纂)から抜粋し作成しています。

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Profile

中村桂子(なかむら・けいこ)

生命誌研究者。1964年東京大学大学院生物化学専攻博士課程修了後、国立予防衛生研究所研究員、三菱化成生命科学研究所人間・自然研究部長、早稲田大学人間科学部教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。1993年に自ら構想したJT生命誌研究館を創立し副館長。2002年より同館館長、2020年より名誉館長。

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