【仏ミシュラン二つ星シェフの新店フレンチ】博多から世界へ発信する「時間を味わう料理」
2025.11.29
2025.11.29
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最後に、これだけの名作を作り上げるシェフの軌跡に少し触れたい。
そもそも、料理人を目指したのは中学2年生の時に好きな女の子にお弁当を褒められたことがきっかけだった。トマト農園の実家は両親ともに早朝から畑に出かける毎日。自分のお弁当を作るのは必然だった。だんだんと要領を覚え、腕を上げていき凝り出した結果、半年後には白米メインから彩り豊かなお弁当を作れるようになっていた。
それを見た意中の女の子が褒めてくれた。「褒められると素直にうれしい。料理をして褒められることがあるんだと発見でした」とシェフは思い出す。

転機は高校3年生になった時。成績もよかったため、周囲は当然のように大学進学を目指すものと思っていた。その時に、突然、中学校2年生の初恋の思い出がフラッシュバックして、進路相談で思わず「料理人になります」と宣言していた。当然、両親も担任も反対して大騒ぎになった。理由はもったいないから。そこを、やりたいことをやらせてほしいと説得し、九州の名門料理学校「中村調理製菓専門学校」の門をたたくことになった。
「実は、専攻は中華でした。ところが、特別講師で来校した料理の鉄人で有名だった坂井宏行シェフに感銘を受けたんです。オーダーメイドの白いコックコートを着た姿も堂々として、靴までおしゃれ。話し方、料理のプレゼンテーションにも憧れて、坂井シェフのようになりたい!と思いました」
120名ぐらいが参加している授業で、情熱のままに「シェフの研修を受けるにはどうしたらいいですか?」と質問すると、「君ならOK」と返事が返ってきた。迷わずチャンスをつかむ姿勢に、現在の成功した濵野シェフの片鱗(へんりん)を感じたのかもしれない。今でも交流はあり、坂井シェフは応援してくれている。
「いつも変わらず現役で、謙虚で、努力家でおしゃれ。師匠を超えることはできませんが、壁の前ぐらいには行きたいと奮闘しています」。その宣言の証しのように、濵野シェフの足元にはスタイリッシュなシルバーのスニーカーが光っていた。

卒業後、約束の通り東京の「ラ・ロシェル」で8年半修業をし、その後、単身で渡仏。フランスの複数のレストランでも修業を積み、2017年に独立してブルゴーニュでオーナーシェフとなった。2018年にはミシュラン二つ星を獲得し、2023年に帰国するまで6年間、星の数を落とすことなくキープした。日本に拠点を置くのは、実に20年ぶりだという。そのきっかけは、自分や妻の年を重ねていく両親たちを思ったからだった。
「よくミシュランの星を返上して、帰国するのかと驚かれました。でも、人生の最優先事項は家族です。料理は場所を変えて、また一からやればいいだけのこと。今は、やりたいことの通過点。料理は楽しいものだと多くの人に知ってもらうための啓蒙(けいもう)活動をしたいと思っています。このレストランをアジアの拠点にして世界に向けて発信していけることにワクワクしています」
そのレストランを目的にわざわざ旅をしたくなる“デスティネーション・レストラン”として、リュニック・ラボと濵野シェフがどう進化していくのかも楽しみだ。2026年には2019年に特別版が出されたままの九州版ミシュランガイドの出版も期待されている。新たなフレンチブームの震源地として、博多の地が刻まれるのも遠くないかもしれない。

リュニック・ラボは、ランチと ディナーを用意。3時間フルに五感を駆使した味覚体験をした後、すぐ日常に戻りたくない人には隣接の「ホテル イル・パラッツォ」で1泊することをおすすめしたい。ランチなら前日に宿泊するのもありだが、やっぱり食後のステイがベターだろう。
1989年に創業したこのホテルは、20世紀を代表するイタリア人建築家のアルド・ロッシと日本を代表するインテリアデザイナーの内田繁がコラボレーションした日本初のデザインホテルとして有名だ。

夢の続きのような幻想的な空間デザインが魅力で、客室内も広々としたベッドでくつろげる。時計台のふもとにあるバルコニーがついた部屋なら、「L’Unique labo」の余韻に浸りながらワインのグラスを傾けることも可能だ。ランチの後に宿泊したなら、ディナーの楽しみもついてくる。地下にあるラウンジ「エル・ドラド」では、宿泊者がフリーアクセス可能なオールダイニングブッフェを用意しているからだ。いつもの博多とは違う美食体験をぜひ堪能してみては。


information
リュニック・ラボ
福岡市中央区春吉3丁目13−1(HOTEL IL PALAZZO 敷地内)
不定休
ランチ 12:00〜 / ディナー 18:00〜(各回 約 3 時間)
コース「Menu L’Unique」 27,500 円(税込み・サービス料別)
完全予約制
http://lunique-labo.jp/
ホテル イル・パラッツォ
tel. 0570-009-915
https://ilpalazzo.jp/
text: Rica Ogura
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