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【仏ミシュラン二つ星シェフの新店フレンチ】博多から世界へ発信する「時間を味わう料理」

「フレンチはもっと自由であってよい」

用意される料理はコース全11皿の「Menu L’Unique(メニュー・リュニック)」の一択である。メニューにはフランス語の言葉と日本語で書かれた素材が記されたのみのため、想像しながら待つ。そこに想像を超えた料理とともにシェフ自らの説明が加わり、最高のタイミングで料理が供される。

「コースを2回体験するようなイメージでメニューを組み立てています。前菜にもメインと同じように魚と肉の料理を意識しています。11皿になったのは、メインから遡って考えて納得のいく並びにした結果です。個人的に奇数が好きということもありますが、料理には“奇数の法則”があって、盛り付けも奇数が美しいとされます。例を挙げるならソースを五つお皿に載せるとかといったことです」

一皿ごとに味のグラデーションが重なり、輪郭が深まるイメージ。緻密(ちみつ)な筆使いで描かれる点描画が思い浮かんだ。

「フレンチは、料理の中で最も一皿を完成させるのに手間と時間がかかるといっても過言ではないでしょう。一番採算が取れないとも言い換えられます。それでも、作り手である自分たちが一番楽しんでいる。相当ストイックでなければ続かないでしょうね」

一皿ずつ異なる趣向が凝らされているが、どの料理にも共通するニつの要素が含まれている。一つは多様な形で生かされているフルーツで、もう一つは随所にちりばめられたエディブルフラワーだ。

「誰にも負けない武器となるものを探し求めて修業に出かけたフランスで出会ったのがフルーツを使った一皿の魚料理だったんです。フレンチではよくある平目のムニエル、オレンジソースがけ。伝統的なレシピなら、このソースはオレンジジュースを煮詰めて、バター、コンソメ、フォンを加えて作ります。それが、フレッシュなオレンジを搾った果汁を煮詰めて塩、こしょう、オリーブオイルを加えたソースがかかっていたのです。フォンを使わずにおいしいソースができるということに衝撃を受けました。その時、フルーツを使うだけでフレンチのセオリーは崩さずに独自性を追求できると閃(ひらめ)いたのです。フルーツは料理に軽やかさ、酸味、華やかさを加えてくれます。ワインと料理を結びつける役割にも。フレンチは、ワインあっての料理であり、料理あってのワインという考え方がベースにありますがフルーツはこれを成り立たせる最良の武器になるとも思ったのです」

試行錯誤のすえに10年かけて極めたフルーツを使った料理は、その後シェフの代名詞となった。

エディブルフラワーは、装飾としてだけではなく栄養価や独特の味わいにも着目して選んでいる。「そこまで食べてもらって完成する一皿にしています」と力を込めて語る。フランスに行く前から交流があった神奈川県伊勢原市の「加藤花園」と福岡県糸島市の「久保田農園」のものを取り寄せている。勉強のために、自ら収穫に行くこともあるそうだ。

「いつも花のある生活をしたいので造花は一切使いません。フランス時代から、生花にこだわっています。レストランは生き物。だからこそ、水を飲んで呼吸をするフレッシュなものが似合うのです」

その思いは、空間デザインにも生かされている。先に紹介した花びらを模した照明やガーデンをイメージしたウエイティングスペースに表れている。

また、帰国してから時間をかけて福岡の生産者を回るうちに、福岡という土地のポテンシャルの高さを感じたそうだ。

「フランスに行く前に東京で働いていた時に、有機栽培のブランド野菜を食べる機会がありました。土の香りがするといわれて口にしましたが、地元の糸島の野菜の方がおいしいと感じました。離れてみて初めて気がついたクオリティの高さ。今は、それがさらにグレードアップしているようです。福岡は海あり、山ありでどちらにも隠れた名産があります。加布里(かふり)と呼ばれる土地で11月から採れる大きくて肉厚の天然はまぐりや一貴山(いきさん)豚は、その一例です。はまぐりは出汁をとってジュレにするなど、冬のメニューの楽しみになります」

ここで、秋のメニューを紹介したい。多くの人が、一瞬で心をつかまれてしまうのがコースの幕開けとなる「ミニャルディーズ・サレ」。リラックスしてもらうために、導入に遊び心のある演出を仕掛けているそうだ。三輪車に乗っているのは生ハムとグリーンオリーブのマドレーヌ。口の中でスポイトに入ったぶどうジュースのジュレを注入していただく。濃厚な味わいでワインも進む。

3種で構成された「ミニャルディーズ・サレ」

ジュエリーボックスに収められているのは2種のマカロン。糸島産の豚のリエットを間に挟んだバラの風味と、イタリア産ペコリーノロマーノのチーズを利かせたカレー風味だ。イヤリングスタンドにかかるフワラーモチーフはポルチーニ茸のチュイール。小さなハート形のレモンピールが爽やかな酸味を添える。

次に登場したのは「はじまりの唄」というアミューズで3品が並ぶ。右はカップにトウモロコシのムースやジュレ、ゴールデンキウイや大分産の塩雲丹(うに)、イベリコ豚の生ハムなどを合わせた一品で、スコップ形のスプーンでいただくのが面白い。中央はライムのジュレをのせた海老とアボカドのタルトレット。左にあるのは、宮崎県産の竹炭を使った真っ黒なアメリカンドッグだ。花やハーブが添えられ、アクセントになっている。

3品目は「私のスペシャリテ」で、フラワーガーデンのような美しさ。ズッキーニのシャルロットに、カニと白菜のエチュベ、カボチャのエスプーマにイタリア産のオシェトラキャビア、エディブルフラワー、レモンのコンフィチュールを合わせている。添えられているのは、瞬間燻製(くんせい)したタプナードのワッフルだ。

続く一皿は「愛の色」と名付けられた魚の前菜。ブルターニュ産オマール海老と西米良産サーモンのタルタルをクスクスと一緒にフラワーロールにして、パイナップルのコンポートをゼリーにしたものやエシャロットが入ったパイナップル風味の生クリームを合わせている。ブロッコリーのグリーン、ビーツの赤、蕪の白のソースを絵具にして描き出した鮮やかな模様も楽しい。これらの彩りが表すのは“初恋の色” 。オマール海老をかたどったチュールやところどころにあしらわれたハートモチーフの葉など、細かいあしらいにも注目してほしい。

「ブルゴーニュのレストランがあった村の名前“サンタムール(聖なる愛の村)”へのオマージュとして、愛を表現する料理を出しています。飾ってある小物やカトラリーにもハートモチーフが見つかるので、ぜひ探してみてください」

「秋の輝き」と題された温前菜は、フォアグラにホロホロ鳥のミンチを合わせた一品。付け合わせはイチジクのキャラメリゼと赤ワインの煮込み、里芋のピューレ。イチジクは福岡ならではの希少な「とよみつひめ」だ。上には黒いダイヤとも呼ばれるオーストラリア産の黒トリュフがかかっている。トリュフ入りマディラソースにイチジクの葉を煮だしたオイルを加えたソースが味の深みを増している。「秋は香りが大切なので、実りの季節を感じやすいトリュフの香りで秋の雰囲気を一層高めました。冬はうまみ、春は苦味、夏は酸味を意識したメニューになります」

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