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「言葉が生きる力になる」俵万智が語る、SNS時代に言葉と仲良くなる方法

言葉と仲良くなるために

俵さんは、子育てのなかでも言葉の面白さを実感したという。

「子どもって手持ちの言葉が少ないからこそ、なんとか伝えようと工夫する力がすごいんです。息子は”おんぶ”を知らなくて、”背中でだっこ”と表現したこともあって。言葉がなくても伝えたい気持ちがあれば伝わる。そういう原点を、子育てを通して見せてもらった気がします」

そんな感覚は、息子さんにも自然と受け継がれているようだ。本書でも紹介されているのが、ある日、息子さんがゲームに夢中でお風呂に入らなかったときの出来事。俵さんが「シャワーくらい浴びなさいよ」と声をかけると、息子さんは「昨日風呂入ったっけ?」というラップ動画を見せて“逆襲”してきたという。

「なにかおもしろいことを言うと、目をキラキラさせて親が近寄ってくるから、たぶん“おもしろいこと言えばなんとかなる”って思ってるんでしょうね(笑)。言葉って、使えば使うほど広がっていくので、ただでずっと遊べるんですよ」

もちろん、言葉の使い方に迷う瞬間もある。ときにはけんかになって、気持ちが乱れてしまうことも。

「母のことを書いた章にもありますが、視野が狭くなると、つい言葉も荒くなってしまう。でも、嫌な言葉を使ったあとに一番嫌な気持ちになるのは、自分自身なんですよね。だから、できるだけ言葉は“笑顔になるような使い方”を心がけたいと思っています」

俵万智 新刊 インタビュー

心をひらく言葉の力

今、短歌に注目が集まっている。大学の短歌会や新人賞も盛り上がりを見せており、かつて『サラダ記念日』刊行の翌年に最多応募数を記録した短歌賞を、近年の応募数がついに上回ったという。

「決まりは五・七・五・七・七だけ。特別な道具も必要ないし、言葉をのせるだけでできる。何より『これ、歌になるかな?』と立ち止まる時間こそが尊いんです。その時間が持てたこと自体を、自分で褒めてあげていいと思うんです」

今の若い世代は、個人的な感情よりも社会的なテーマを詠む傾向があり、ペンネームもユニークなのが特徴。自分と距離をとりながら表現するスタイルが広がっているそうだ。

「でも、きっとどこかに“自分”は隠れていると思うんです」。言葉を通してじわりとにじませる自己。それは、今の時代ならではの表現のかたちなのかもしれない。

最後に、言葉と仲良くなる方法を尋ねると、俵さんはこう語ってくれた。

「誰かと仲良くなりたいなら、相手のいいところを見つけて“好きになる”こと。それと同じで、言葉もまず“好きになる”ことから始めてみてほしい。好きになれば、言葉もいい顔を見せてくれるようになります」

言葉は、ただのツールではない。感情の器であり、関係をつくる媒介でもある。心を通わせようとするその先に、「生きる言葉」が生まれていく――。俵万智さんが紡いだ言葉と向き合うヒントが、きっとあなたの心にも灯りをともしてくれるはずだ。

text: Tomoko Komiyama photo: Tomoko Hagimoto

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Profile

俵万智(たわら・まち)

1962(昭和37)年大阪府生まれ。歌人。早稲田大学第一文学部卒業。学生時代に佐佐木幸綱氏の影響を受け、短歌を始める。1988年に現代歌人協会賞、2021年に迢空賞を受賞。『サラダ記念日』『愛する源氏物語』『未来のサイズ』の他、歌集、評伝、エッセイなど著書多数。

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