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「言葉が生きる力になる」俵万智が語る、SNS時代に言葉と仲良くなる方法

歌集『サラダ記念日』で一世を風靡(ふうび)し、歌人として時代を見つめ続けてきた俵万智さんが、新著『生きる言葉』(新潮社)を刊行した。日常の会話やSNSでのやりとり、そして短歌に込めた思い――現代に生きる私たちにとって「言葉」とは何かを、あらためて問いかけてくれる一冊だ。俵さんは、どのようにして“心のある言葉”と向き合っているのだろうか。

書き言葉がお手軽になった時代に

『生きる言葉』が生まれたきっかけは、もともと「俵万智の生き方」についての企画だった。経緯について尋ねると、「言葉について思いっきり書きたくなってしまったんです」と俵さんは言う。

「言葉について書いている時間がいちばん楽しくて。編集の方に『すみません、言葉のことをイチから書かせてください』とお願いして、再スタートしたんです」

筆が止まらないほど書きたいテーマ。それが、「言葉」。

「自分は本当に言葉が好きなんだなあと実感しました。いくらでも書けるし、書きながら読者に問いかけたり、一緒に考えたりしたくなるんです。……我ながら言葉オタクだと思いました(笑)」

スマホやSNSの普及で、今は誰でも簡単に言葉を発信できるようになった。一方で、「とてもいい時代だけど、それは諸刃の剣でもあるなって思うんです」と俵さんは言う。

「以前は不特定多数に届く言葉には、ある種の覚悟や配慮がありました。でも今は誰もが気軽に書ける。その分、言葉だけが飛び交う世界では、声色や表情といった周辺の助けがないことを、心に留めておくことが大事です」

たとえば、自分はほほ笑みながら「遅い」とメッセージを打っていても、相手にはその言葉だけがズドンと届いてしまう。だからこそ、俵さんは「語尾に“かな”や“かも”をつけたり、絵文字を使ったりして、ニュアンスを調整する」と語る。

30年以上前にはやった「まふまふ言葉」では、「おそい」を「おしょい」と言っていた記憶があるという。言い切らないことで伝わるやさしさ。そんな言葉の温度調整は、現代にこそ求められている。

想像力は“リアルな人間関係”の中で育まれる

今は、伝える側だけでなく、受け取る側にも技術が必要な時代だとも俵さんは指摘する。

「前後の文脈を無視してひと言だけを切り取って傷ついてしまうのは、もったいない。相手の背景を想像することも、自分を守るために必要な力だと思うんです」

SNSの言葉を始めとしたあらゆる“言葉”に傷つかないためには、「受け取る側の想像力が大切」と俵さん。その想像力は、リアルな関係性の中でこそ養われるという。

「息子が寮生活をしていたときは、毎日が人間関係の練習問題みたいだったんです。こじれやめんどくさいことの連続で、失敗を繰り返していて。でも、そういった経験が“言葉をどう受け取るか”に役立っていると思います」

また、インターネットの世界では、ある種の知恵が必要だ。たとえば、『生きる言葉』でも取り上げている「クソリプの分類図」。これは、XがTwitterだったころに話題を集めたとあるツイートだ。

「『砂糖って甘いんだよなぁ』と書いただけで、驚くほど多様な反応がつく。クソリプの分類図を見て、“このリプはあのタイプか”と楽しむくらいの心の余裕が持てたら、だいぶ楽になると思います」

SNSは広がれば広がるほど、ネガティブな反応も増える。だからこそ、「そういう人がいる」とあらかじめ知っておくことも、自分を守る一手になるのだ。

「100%伝わることはないし、すべての人に届けようとしなくてもいい。リアルでもネットでも、ズレは拡大されやすいもの。だからこそ、想像力と知恵を出し合っていくことも大事なんですよね」

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Profile

俵万智(たわら・まち)

1962(昭和37)年大阪府生まれ。歌人。早稲田大学第一文学部卒業。学生時代に佐佐木幸綱氏の影響を受け、短歌を始める。1988年に現代歌人協会賞、2021年に迢空賞を受賞。『サラダ記念日』『愛する源氏物語』『未来のサイズ』の他、歌集、評伝、エッセイなど著書多数。

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