グラスに解き放たれる山の香気、梨山烏龍【お茶で世界を、覗こう】
2024.7.23

東京・目黒の碑文谷にある世界中のお茶を集めたティーアトリエ「MATRA」を主宰する、中村文聡さん。日本やインド、台湾、中国、ベトナムなど、世界中からお茶をセレクトし続けている彼がつづる、連載「お茶で世界を、覗こう」。第1回は、希少な梨山烏龍(リサンウーロン)を探しに台湾へ。
2024.7.23

東京・目黒の碑文谷にある世界中のお茶を集めたティーアトリエ「MATRA」を主宰する、中村文聡さん。日本やインド、台湾、中国、ベトナムなど、世界中からお茶をセレクトし続けている彼がつづる、連載「お茶で世界を、覗こう」。第1回は、希少な梨山烏龍(リサンウーロン)を探しに台湾へ。
透明なグラスに、くるっと丸まった緑の茶葉を指先でひとつまみ。お湯を注ぐと、丸い葉が生き返るように、その茎を、葉を伸ばし、あざやかに光を通し、そして、凜とした高い山の香りがただよいはじめる。

最初の淡く、繊細な味わいから、飲み進めるほどに甘さを増し、森林浴をしているような香りと長い余韻に体中が満たされる。半分くらい飲んだらまたお湯を注ぎ足していけば、回数を重ねるごとに心地よい渋みや花、フルーツのような香りが加わり、ゆらめくように風味が変化していく。
このお茶は、富士山の5合目の高さ、標高2,000mを超える高地で栽培された梨山烏龍という希少な台湾烏龍茶。新芽から数えて五枚もの葉が丁寧に丸められた茶葉の中には、亜熱帯の島、台湾の中央にそびえる高い山々の世界がぎゅっと凝縮されています。

カーブが幾重にも続く道を何時間も登り続けてたどり着く、複数の山々からなる美しい梨山エリア。山岳地帯ならではの水はけのよい礫質の土壌と、激しい昼夜の寒暖差、頻繁な霧の発生と、人が住むにはなかなか厳しい環境ですが、それらが結果として茶葉の成分を凝縮させ、台湾のみならず世界最高峰のひとつともいわれる、高品質なお茶の風味を生み出しています。
日本なら森林限界間近の高さでも、亜熱帯の台湾では針葉樹がうっそうと茂る森の中。山々を覆いつくす木々の合間を縫うように、古くからの名産品である梨やリンゴなどの高山果物の畑と茶園が点在し、少数民族が多く暮らす集落を囲みます。

原初の自然を思い起こさせるような果物と針葉樹に囲まれて育つ梨山烏龍の風味は、その土地のエッセンスを全て集めたかのように香り、変化し、しみわたる。台湾では通常、農家が生産したお茶は焙煎(ばいせん)師のもとへ運ばれ、熟練の技術とセンスでその味・香りが調律され、市場に出荷されます。しかし、梨山をはじめとする高山烏龍茶の多くは、保存に耐えうる最低限度の乾燥のみで農家から出荷されます。梨山の人々はみんな厳しさとほがらかさをたたえています。それは圧倒的な自然の力と常にともにあるからなのだと思います。

荘厳な山の香気を内包するこのお茶に、人は手を加えるのではなく、どれだけその風味を引き出すかに力を注ぐのです。
◼️梨山烏龍
産地:台湾 台中市 和平区 新佳陽
おすすめの飲み方:茶器はインド製のチャイグラス(100ml)を使用。手づかみで5粒ほどをグラスに入れて、約1分。開いてきたら、軽く揺らしてかき混ぜてから飲み始めます。半分になったらお湯を注ぎ足し、変わりゆく風味を7回は楽しめます。
text: Fumitoshi Nakamura
・自然とつながりその恵みをいただく。日本茶専門店「SABOE TOKYO」が麻布台ヒルズに誕生
・最新台北カフェ4選。おしゃれ贅沢ブランチやレトロ秘密基地を巡る
中村文聡
リンクを
コピーしました