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鮨(すし)職人 幸後綿衣【挑戦する女性たち #1】

内装は、デザイナーを入れず、修業している時から綿衣さんを知ってくれている施工会社にお願いした。角のないカーブを生かした柔らかいお店にしたいと。

「従来の鮨屋が持つ、少し緊張感のある感じはかっこいいですが、私の理想は食事するときに緊張しないこと。そのためには、何より自分が安らげる場所にする必要がありました。ヨーロッパ、特にフランスが好きなので、和だけにまとめた空間にはしたくなかった。カウンターはヒノキですが、店内にはオークやオリーブの木を使っています。普通だと竹とか使うことが多いですが、ソムリエの資格を取ったときに、父がオリーブの木のソムリナイフをプレンゼントしてくれて。思い出深い木をお店の一部に取り入れたいと思ったからです。ワインセラーは、『西麻布 拓』のカウンターの木が珍しく花梨を使っていたことが記憶深くて、花梨を使いました。店内のディテールには、自分が見てほっこりするこだわりが詰まっています」

お店を営むなかで一番好きな時間は、お客さんを迎えている時。それ以外の時間はほとんどを準備に充てているという。

「準備次第でお客さんがいる時間が雲泥の差になるので、営業中にできることでも、前もってやっておくようにしています。営業中は何が起きるかわからないので、味はもちろんですが、お出しする魚は全て営業前に食べます。営業時間に、待たせてしまうなど、少しでも不幸せな感情を持ってもらいたくありませんから、不安要素を絶対に残さないようにしています。

男女とも弟子たちにいつも言っていることで、『小さなことでも、絶対にリスクがある方を選ばないでね』と。その小さなことが結果に100%出るので、私は営業時間のために、日常全てを準備に充てています。休みは豊洲に行って、季節のものを見て、メニューやワイン、翌日に来るお客さんのことを考えます。レギュラー業務だと9時半に来て仕事を始め、1時間の休憩を挟み、17時の営業に向けて動きだす。私が握るお鮨一貫に、ライフスタイルや人生が詰まっている。休みの日には漁師さんに会いに行ってコミュニケーションとって。もうその動きは、やめられないんです。それがお客さんの幸せにダイレクトにつながっていると確信しているので」

女性職人としてのハードルと、生き方

女性の鮨職人のロールモデルもいなければ、白衣だって男性用のものしかなく、縮めて着ていたという。そんな業界にい続け、女性の鮨職人として注目されていること、男性の職人が多い世界で働く意味について聞いてみた。

「女性だから鮨職人を続けてきたという気持ちは一切ありません。でも、毎日修業を必死に頑張っていた頃から、マグロを卸す豊洲市場の『やま幸』の山口幸隆さんは、『めい、絶対やめちゃダメだ。女性として女性の鮨職人をいっぱい育てろ』と言って応援してくれました。業界を変えていってくれと。あるときから、その言葉を自然と意識するようになりましたね。親方に育ててもらって得たスキルを私の弟子に教えてあげたい。弟子は男女どちらでもいいんです。でも私がいることによって、女性がこの世界に入ってきやすくなったらいいなとは思います。そういう意味でも、周りの方は期待してくれているし、使命なのかなと」

続けて、女性の鮨職人としてカウンターに立つ重圧についても語ってくれた。

「例えば、『鮨 あらい』の個室で鮨を握っている鮨職人が女性で、そこに接待のお客さんが来たとします。もしかしたらそこに違和感を持たれるかもしれない。よっぽど、おいしかった、楽しかった、素敵だったとならない限り、女性が鮨を握るということはイレギュラーなものです。だから、これまでやってきたこと、できることをやって、男性の職人と変わらないと証明しなくてはならなかった。いくら私が性別は関係ないと言っても、お客さんからしたら関係ないことですから。与えられた場所で実力を発揮して、お客さんを幸せにする。おいしいのは当たり前、さらに柔らかい空間、気遣い、心地の良さを提供できるか。女性でも信用していただくために身につけたワインのスキルは生かされていると思います」

休みの日の癒やしはお酒。あとはサウナに行くことだという。しかし、その全てが仕事につながっている。

「元気に働きたくてサウナに行っています。ととのっている間も、発注の確認やお客さんの連絡に返信したり。営業中にカウンターに立つのって、本当に集中していないと耐えられない重圧。魚にほんの少しでも不安があると笑顔で握れないじゃないですか。『鮨 あらい』の時からですが、ここに来られるお客さんは、全国各地の美味しいものを知っていたり、企業の偉い方だったり、すさまじい方ばかり。逃げ場もないし、プレッシャーに耐えなければいけない。私自身がフルマインドでピシッとしていて、ハッピーでいて、仕事に臨みたい。そういう意味では、私にとって、毎日が挑戦の連続です」。

Photo: Kenta Kikuchi hair&make: Kouta text: Aika Kawada edit: Mio Koumura

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Profile

幸後綿衣(こうご・めい)

1989年徳島生まれ。福岡育ち、高校進学と同時に上京。上智大学卒業後、「すし匠」「西麻布 拓」「鮨 あらい」で10年にわたり修行。2018年には1年間フランスに留学しソムリエ資格を取得。2019年「鮨 あらい」に復帰し、2020年から2番手として腕を振るう。2023年11月に独立し、麻生十番に「鮨 めい乃」をオープン。

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