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ワインとサステナビリティーの関係は【三澤彩奈のワインのある暮らし】

2023年、私たちの農場の区画の一部に有機JASの認証が届きました。2016年に有機栽培の挑戦を始めてから、7年の月日が経過していました。

畑への取り組みこそが大切であり、認証を取得することは目的ではないという声もちらほら聞こえる一方で、有機栽培に挑戦してみて初めて分かったことがたくさんありましたので、今回は、ワインを取り巻くサステナビリティーについて綴(つづ)っていこうと思います。

当初は、梅雨や秋雨のある日本で有機栽培を行うことのリスクや、あくまでもクオリティーとのバランスを考えると、慎重に決断せざるを得ませんでした。しかし、少しずつ有機栽培へ転換を進めていく過程の中で、私の意識も変わっていきました。

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「(農薬や殺虫剤の使用を控えることで)自身の畑がダメージを受けることよりも、産地の環境が破壊されてしまうことの方がもっと恐ろしい」という、世界で最も著名なフランス・ブルゴーニュの女性醸造家、マダム・ビーズ・ルロワの言葉があります。

私自身、有機栽培を始める前からそのメッセージを尊いものと捉えていたものの、実際に申請し、認証を受けるまでの7年の間にその言葉が本当に意味するものに、少しだけ近付けたように思っています。有機の本質とは、自分以外の誰か、自社以外の何かを思いやることのような気がしています。

認証を得たのはまだまだ猫の額ほどの面積ですが、現在は有機栽培区を広げ、一つ一つの課題と向き合っています。

現在、山梨のブドウ畑では、あちこちで剪定(せんてい)作業の風景が見られます。

三澤農場では、山梨県が推奨している「4パーミルイニシアチブ」活動の一環として、剪定枝を炭化して土にまき、畑に戻す取り組みを行っています。これは、剪定枝を燃やす際に発生する二酸化炭素量を抑え、また、土壌の炭素量を毎年0.4パーセント(4パーミル)増やすことによって、経済活動で増加する二酸化炭素を相殺しようとする国際的な試みです。

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しかし、カーボンフットプリントとして、ワイン造りの過程における温室効果ガスの排出量を見える化した場合、パッケージングにかかわる二酸化炭素の排出量は、ブドウ畑で排出される量とほぼ同量か、それよりも多いくらいであることが示唆されています。

中でも特に問題視されるのは、ワインボトルの重量です。

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輸出量が生産量の4割近くを占めるグレイスワインでは、もともと容量750mlの瓶の重量が500gだったボトルを2011年から450gの軽量瓶にし、今春瓶詰めをするロットから390gのワインボトルを採用することになりました。これで包装や輸送に関わる二酸化炭素排出量を30%削減できると言われています。

SDGsが大きく推進されるようになった反面、自然「風」、オーガニック「的」なものが溢(あふ)れ、自然やオーガニックという単語が安易に使われてしまう時代にもなりました。実際に、日本で「自然派」の名のもとに流通している中には、第三者の調査を必要とする有機認証を取られていないワインも含まれていることがあります。

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醸造過程で亜硫酸が添加されていなかったり、やや濁ったりしたワインがそのように呼ばれることが多いと思いますが、亜硫酸について言えば、防腐剤とは異なります。亜硫酸は、ワインの中の成分と結合しますので、亜硫酸が入っていたからと言って、アレルギーなどでない場合、そのワインを口にした翌朝に頭が痛くなるということはありません。また、亜硫酸を添加しなくても、アルコール発酵の主役となる酵母は自ら硫黄を生成します。

また、濁りと一口に言っても、例えば、赤ワインは熟成の過程で、色素やタンニンと呼ばれる渋み成分が瓶内で結合し、沈殿することがあります。この沈殿物「滓(おり)」は、熟成を経て現れるブドウ由来の成分として「滓は飲むのではなく噛(か)む」と、教えてくれた醸造家もいるほどですが、その一方で、たんぱく質などが混濁した不安定な酒質の濁りもあります。酒質が安定しているために、濾過(ろか)をする必要がなく、ワインに濁りがなくても、濾過(ろか)を行っていないワインもたくさん存在します。見た目だけでは判断できないことも多いのです。

気候変動は、私たちが考えている以上のスピードで進んでいます。うわべだけの環境訴求「グリーンウォッシュ」にならないよう、環境に配慮した取り組みがマーケティングやビジネスに使われないようにすることも、私たちものづくりに携わる人たちの責任なのかもしれないと思う昨今です。

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Profile

三澤彩奈さん

中央葡萄酒株式会社 栽培醸造責任者 山梨県の中央葡萄酒4代目オーナーの長女として生まれる。ボルドー大学ワイン醸造学部を卒業し「フランス栽培醸造上級技術者」の資格を取得。2007年に中央葡萄酒の醸造責任者に就任。栽培と醸造に取り組む。 2014年に世界的ワインコンクール「デキャンター・ワールドワイン・アワード」の金賞を日本で初めて受賞。甲州ワインの名を世界に。「グレイスワイン」は海外で最も飲まれる日本ワインに成長。2021年11月、「甲州」の新たな魅力を引き出した「三澤甲州2020」を発売。
「グレイスワイン」のウェブサイトはこちら

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