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ステラ マッカートニーとヴーヴ・クリコのコラボとは【三澤彩奈のワインのある暮らし】

ラグジュアリーファッションブランド「ステラ マッカートニー」が、「ヴーヴ・クリコ」の名で知られる1772年に設立したシャンパーニュメゾン(シャンパーニュ地方のワイナリー)と業界初のコラボレーションを発表しました。

デザイナーのステラ マッカートニー氏は、レザーや毛皮を使わず、高いデザイン性の洋服やバッグ、靴などを生み出しています。環境負荷が大きいと言われるファッション産業において、昨今はサステナビリティーが大きく推進されていることを聞きますが、ステラ マッカートニーは、設立当初から地球環境や動物愛護に前向きな姿勢で製品を作り続けていることで、若者たちから絶大な支持を集めています。

このたびのコラボレーションで発表されたバッグやサンダルには、次世代のレザーの代替品として、植物油や天然繊維など、植物性であり、再生可能、リサイクルされた原材料を組み合わせたVEGEA®が使用されています。VEGEA®は、化石燃料をベースとする皮革代替品と比較すると、地球温暖化への影響を40%削減し、また水の使用量を50%に減らすことができます。さらに本コラボレーションでは、ヴーヴ・クリコ社がワインを生産する際に廃棄物となるブドウの茎を使用。他にも、サンダルの底には、通常廃棄されてしまうコルクが使われています。2月、発表会で実際にバッグやサンダルを拝見した際には、私自身よく知っているはずの原料がアートのようにアップサイクルされていると感じました。

クリコ・イエローと呼ばれる黄色のラベルが印象的な「ヴーヴ・クリコ」は、ワインがお好きな方であれば、どなたも一度は口にしたことのあるシャンパーニュではないでしょうか。2014年、ヴーヴ・クリコの醸造家と、ブドウの契約農家たちがグレイスワインを訪問してくださったことがあります。30名もの関係者たちが、ブランドカラーであるクリコ・イエローのスカーフを巻き、一斉に来社したときの姿はとても誇り高く、今も私の記憶に刻まれています。

グレイスワインがスパークリングワインを造り始めてから6年目のできごとでした。ブドウ畑や醸造所をご案内した後、私自身が手掛けたスパークリングワインを恐る恐るご紹介しました。そのワインを飲みながら、「大丈夫、きみは必ず成功する」と、おっしゃっていただいたことは、その後の試行錯誤の日々を支えてくれました。

「ヴーヴ・クリコ」の育ての親、バルブ・ニコル・クリコ・ポンザルダン(通称 マダム・クリコ)は、1777年にシャンパーニュ地方ランスで紡績事業を営む家に生まれました。27歳で夫を亡くし(=フランス語で「ヴーヴ」は「未亡人」という意)、義父が1772年に設立したシャンパーニュ会社のトップに立ち、事業を引き継ぎました。ビジネスの世界から女性が疎外されていた時代に女性起業家として道を拓いたこと、そして、シャンパーニュの造りに技術革新をもたらしたことで、シャンパーニュで最も偉大な女性「ラ・グランダム」と呼ばれています。

フランスのシャンパーニュ地方で造られ、製造方法や熟成方法など、一定の基準をクリアしたワインがシャンパーニュを名乗ることができます。スパークリングワインには様々な製造方法がありますが、最も高度な技術が必要とされる造り方が、シャンパーニュで規定されている瓶内二次発酵です。私自身も、シャンパーニュと同じ製法によるスパークリングワインを生産していますが、これほどまでにわずかな差が出来栄えを左右するワインは他にないと感じています。

中には、マダム・クリコの功績によって広まった技術もあります。例えば、瓶内二次発酵後に滓(おり)を取り除く動瓶台(ルミュアージュ台)を発明したのも、ピノ・ノワールをブレンドすることでロゼ・シャンパーニュを造り上げたのもマダム・クリコであり、私もその偉業の恩恵を受けている醸造家の一人です。

ヴーヴ・クリコは「品質はただひとつ、最高級だけ」をモットーに掲げています。複雑で力強いワインのスタイルに、マダム・クリコの品質への希求が、現在の11代目セラーマスター(最高醸造責任者)に至るまで途切れることなく脈々と受け継がれていること、そして、マダム・クリコ亡き後も、その精神は生き続けていることを感じます。

マダム・クリコが卓越性と品質を神髄としたように、今回のコラボレーションで感じたのは、ステラ マッカートニー氏の「生き物を大切にする」という一貫した信念です。その信念が、生み出されるものだけではなく、イギリスのオーガニック農園で育った背景からベジタリアンを貫いているというステラ マッカートニー氏自身の生き方にも反映されているということに感動を覚えるのです。

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Profile

三澤彩奈さん

中央葡萄酒株式会社 栽培醸造責任者 山梨県の中央葡萄酒4代目オーナーの長女として生まれる。ボルドー大学ワイン醸造学部を卒業し「フランス栽培醸造上級技術者」の資格を取得。2007年に中央葡萄酒の醸造責任者に就任。栽培と醸造に取り組む。 2014年に世界的ワインコンクール「デキャンター・ワールドワイン・アワード」の金賞を日本で初めて受賞。甲州ワインの名を世界に。「グレイスワイン」は海外で最も飲まれる日本ワインに成長。2021年11月、「甲州」の新たな魅力を引き出した「三澤甲州2020」を発売。
「グレイスワイン」のウェブサイトはこちら

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