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戦前にこんな自由な表現があった驚き。短命だった前衛写真のヴィジュアルを東京都写真美術館で堪能する【what to do】

平井輝七の《風》( 1938 年 東京都写真美術館蔵)があしらわれた企画展のポスターヴィジュアル

知的好奇心あふれる『マリ・クレール』フォロワーのためのインヴィテーション。それが”what to do”。今回は、1930年代から40年代にかけて一気に盛り上がり、あっという間にしぼんでしまった前衛写真を取り上げたい。その動向を本格的に紹介する企画展が8月21日まで東京都写真美術館で開かれている。題して「アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真」。「前衛」というと何やら難しそうだが、むしろ知識は無用。現代の視点で見直すと、直近の広告ヴィジュアルに使われていても違和感のない洗練された作品も多いからだ。それらが90年ほど前の作品だとは。当時の人たちが、写真という表現手段を通して、「自由」を謳歌していた様子も伝わってくる。

2021年3月、「写真の都」というタイトル中の言葉に惹かれて、名古屋市美術館を訪ねたことがあった。正式な企画展名は「『写真の都』物語―名古屋写真運動史:1911-1972―」。近代以降、文化発信の中心地は東京だと思い込んでいたが、写真についてはどうもそうではないらしい。そのことを展示を通して知った。特に戦前の前衛写真などはむしろ地方のアマチュア写真家たちによって先導されていたこともあったようだ。

前衛写真に関する展覧会の図録類。やはり地方発のものが目立つ(撮影・高橋直彦)

同じ頃、福岡市美術館では「ソシエテ・イルフは前進する 福岡の前衛写真と絵画」展も開かれていて、戦前、地方で広がった前衛写真の潮流に関心を持った。当時、大阪でも同様の取り組みが広がっていたという。「前衛」という何やら厳めしい語感とは裏腹に、いずれの活動もプロではなく、写真機材一式をそろえられる比較的裕福なアマチュアを中心とした「旦那芸」だったというのも痛快だ。

ウジェーヌ・アジェ《日食の間》1912 年

【関連原稿】7月から10月にかけて、東京・渋谷で現代映画としてのジョン・フォード作品を発見する【what to do】

Profile

高橋直彦

『マリ・クレール』副編集長。海外からの関心が高まっている背景には、コレクターのニーズもあるらしい。オリジナルの多くが戦災で焼失し、作品としてのレア度が高い上、今見ても斬新な構図の写真も多いからだ。しかも、泰西名画や現代アートの人気作家の作品に比べれば割安なのだとか。いずれにしても当方には無縁の世界だが、貴重な作品ができることなら日本国内に留まってほしいと無責任に思ったりもするのだが……。

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