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7月から10月にかけて、東京・渋谷で現代映画としてのジョン・フォード作品を発見する【what to do】

蓮實セレクションによる貴重な回顧上映

そして今回、開催されるフォードのレトロスペクティブである。上映する作品を選んだのは蓮實さん。スクリーンに投射された映像の細部より、その社会的背景を饒舌に解説したり、筋立てを重視する貧相なファスト映画なるものが社会問題になったりする中、フォードの作品が多彩な細部に満ちあふれていることを、蓮實さんの批評を通して教えられた。フィルムセンターの上映会のパンフレットにも「フォードと投げること」というタイトルの論考を寄せていて、当時、細部に眼を凝らすことで作品が艶めかしく立ち上がってくることをスクリーン越しに実体験した。

右側がフォード。左はシルエットだがジョン・ウェインだろう。何とも美しい装丁!(文藝春秋刊、税込3410円)

『ジョン・フォード論』は上映会必携の書物

そうした蓮實さんのフォードに関する論考をまとめた『ジョン・フォード論』が7月下旬に文藝春秋より発売されたのを記念して、彼のセレクションによる上映会なのだから面白くないはずがない。『ジョン・フォード論』の「とりあえずのあとがき」の中で「フォードに関する決定版的な著作」を執筆中だというソ連軍の将校のエピソードを引きつつ、蓮實さんも似た出来事を「ふと口にしてみたいなどと不遜なことをいいたい気がしないでもない」と記しているように圧倒的に充実した内容で、全編「映画のような書物」なのだ。本を読み終わると、映画で描かれる艶やかな毛並みの馬や大地にそびえる大樹、登場人物が無造作に行う「投げる」という身振り、そして荒野に翻る白いエプロンといった細部の豊かな変奏から目が離せなくなるはずだ。この本を参照しながら作品を観るか、作品を観てから自らの動体視力を同書で確認するかはお任せするが、いずれにしても今回の上映会には必携の書物である。

『アパッチ砦』(48)

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Profile

高橋直彦

『マリ・クレール』副編集長。ジョン・フォードの映画を観なくても、もちろん充実した人生を送ることはできる。ただ、好機をスルーするのがもったいない。内藤さんが「若い人に観てほしい」と言っているのも、そんな思いがあるのではないか。今流行の「スキル」やら「キャリア」とやらの蓄積とは無縁だが、フォード体験がいい意味できっと何かを変えてくれるはず。個人的には「女性に観てほしい」。特に『マリ・クレール』フォロワーのような美意識に敏感な女性たちが渋谷に駆け付けて上映会を盛り上げられたら、何と痛快なことだろう!

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