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ウェス・アンダーソン監督最新作『フレンチ・ディスパッチ』。フランスと雑誌文化への愛を描く

ウェス・アンダーソン監督の10作目となる最新作がまもなく公開される。『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』。フランスの雑誌編集部を舞台に描いたこの作品に、監督が込めた思いとは?

photo: AP/Aflo

『グランド・ブダペスト・ホテル』『犬ヶ島』など、洗練された作品で映画ファンを魅了してきたウェス・アンダーソン監督。ユーモラスな物語、こだわり抜かれた美術やカメラワーク、スタイリッシュなファッションが、唯一無二の映像世界を織りなす。最新作の舞台は20世紀のフランス、雑誌の編集部だ。

その雑誌とは、アメリカの新聞『カンザス・イヴニング・サン』の別冊で、架空の街アンニュイ=シュール=ブラゼに編集部を構える『フレンチ・ディスパッチ』。フランス在住のアメリカ人記者を抱え、フランスで刊行しているという設定だ。ビル・マーレイ演ずる編集長が急逝し、創刊者でもある彼の遺言に従って廃刊が決まる。最終号となる別冊・追悼版の記事という形で、複数の物語が進行するオムニバス形式の作品だ。

モデルとしているのは、監督自身の愛読誌『ニューヨーカー』。この作品は記者、編集者に対する賛辞でもある。登場人物について、監督はこう語る。

「『ニューヨーカー』の記者が、多くの登場人物のキャラクター造形にインスピレーションを与えました。映画に出てくるすべての記者にはモデルとなる人物がいますが、その人物と区別がつかないほど近いという役柄はありません。モデルとして参考にしているというところです」

柱になるストーリーは3つ。ティルダ・スウィントン、フランシス・マクドーマンド、ジェフリー・ライトが各記事の担当記者を演じている。描かれる人物は、服役中の天才画家、学生運動のカリスマ、警察署長お抱えのシェフとユニークだ。モノクロとカラーを織り交ぜながら、臨場感を持ってそれぞれ独自の世界観が立ち上がる。

監督は本作で、フランス、そしてフランス映画にオマージュを捧げている。テキサス州ヒューストンに生まれ、どのようにして愛情を抱いたのだろうか。

「出身はテキサスですが、いつもフランスに住みたいと思っていました。そもそも行き出した理由の1つに、大のフランス映画好きということがありました。映画でフランスに傾倒したとも言えます」

ビル・マーレイやエイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントンなどの常連組に加え、ベニチオ・デル・トロ、ティモシー・シャラメ、レア・セドゥ、リナ・クードリらが初参加。豪華キャストが集結する

きっかけとなったのは、『大人は判ってくれない』だという。

「フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』をヒューストンのビデオ店で発見したのはたぶん16歳の時。ポイントはタイトルだったと思います。今でも、原題の『Les quatre cents coups』のフランス語での意味を完全には理解できていません。英題は原題の意味を捉えていない。これはフランス流の表現で、何かきな臭い、騒ぎが起こる予感がする、ということ。『今夜、“les quatre cents coups”を挙行する』と言えば『、ひとあばれする』という意味です。英語の直訳の『The 400 blow(s400発)』ではまったくの見当違いになります。ですが、私はその誤訳のワナに引っかかって、そのVHSビデオを選び、そこからフランス映画を観ることになるのです」

撮影風景。ベニチオ・デル・トロ(左)とウェス・アンダーソン監督(右)

今回、ベニチオ・デル・トロが演じる天才画家のキャラクター造形には、ジャン・ルノワールの『素晴らしき放浪者』が影響を与えているという。学生運動の主導者を演じるティモシー・シャラメは、監督から参考としてジャン=リュック・ゴダールの映画を薦められた。彼が登場する物語には、ヌーヴェル・ヴァーグの影響が色濃く表れている。

©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ロケ地となったのは、シャラント県のアングレーム。街の中心部にある古いフェルト工場を借り上げて、撮影スタジオにしている。

「建物の積み重なりそのものが背景となるので、見映えのするセットを組むことができました。階段や坂道などがあり、つかみのある街だと瞬時に感じました。すべてを街の中でまかない、1,000人を優に超えるアングレーム市民の方々が出演してくれ、映画のパートナーとなってくれました。ゆくゆくは、この映画をアングレームで上映したいと夢をふくらませています。出演した自分の姿をスクリーンで楽しめる方々だけで席が埋まると思います」

©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

国際漫画祭が開かれるこの地との縁を大事に、作中にはアニメーションも展開される。制作したのは、アングレームでアニメーションを学んだスタッフだ。

ウェス・アンダーソン監督らしい、街や文化への深い愛情が込められた10作目。細部に至るまで、劇場で堪能したい。

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 1月28日(金)より全国公開 ©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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