パテック フィリップが見せる“もうひとつの極み”──ジュネーブで披露された「希少なハンドクラフト」展
スイス・ジュネーブに本店を構えるパテック フィリップが「希少なハンドクラフト」展(4月18日~5月9日)を開催した。世界最大級の時計見本市Watches and Wonders Genevaに合わせて毎年行われるもので、ドーム型テーブルクロックや懐中時計をはじめとする65点の新作を展示。複雑機構だけではない、同メゾンのもうひとつの真骨頂である装飾工芸の世界を披露した。世界中のコレクターの手元に渡る前に作品を一度に鑑賞できる、貴重な機会でもある。
装飾工芸──もうひとつの真骨頂
「希少なハンドクラフト」展は4月18日から5月9日まで、ジュネーブ本店で一般公開された。ドーム型テーブルクロック23点、懐中時計10点、腕時計32点の計65点が並んだ。
4月中旬に開催されたWatches and Wonders Geneva 2026では、今年も新たな複雑機構を数多く発表し、その技術力を示したばかり。しかし本展を通じ、装飾工芸もまたパテック フィリップのアイデンティティを形作る重要な要素であることが改めて披露された。機械式時計は古くから工芸品としての側面も持ち、職人たちはケースや文字盤を彩る装飾技術を磨き続けてきた。
「希少なハンドクラフト」展は毎年行われる催しだ。高度な職人技を必要とする装飾工芸を組み合わせた新作が継続的に発表される背景には、新作を生み出し続けることでこそ、ハンドクラフト技術と創造性が維持され、進化するという同メゾンの信念がある。
今回のメインピースのひとつ、ドーム型テーブルクロック「コンゴウインコ」では、卓上時計として初めて本格的に貴石をセッティング。アマゾンで舞うコンゴウインコを、48色ものエナメル(七宝)で鮮やかに描き出した。
緻密さの極みにある手仕事
パテック フィリップには、多彩なハンドクラフト技術が受け継がれている。一口にエナメル(ガラス質の釉薬を金属などに焼き付ける技術)といっても、その表現手法は多岐にわたる。
例えば、今回のもうひとつのメイン作品である懐中時計「フラメンコ」の文字盤には、ギヨシェ彫りを施した下地に半透明のエナメルを重ねるフランケ技法が用いられた。躍動するフラメンコダンサーを描いたケースバックには、透明度の異なる13色のエナメルを使用し、高温で合計20回もの焼成が行われた。高温焼成を繰り返すこのグランフー技法は、深みのある発色をかなえる一方、焼成の過程で割れるリスクがあり、繊細な工程を伴う作業だ。また、透明感のある赤色が印象的なスタンド上部の扇には、光を透過させるプリカジュール七宝が今回初めて取り入れられた。
懐中時計「フラメンコ」の文字盤
懐中時計「フラメンコ」のケースバックとスタンド
色や木目の異なる木片を組み合わせ、絵画のような表現を生み出す細密木象嵌(もくぞうがん)も、精密さを要する気の遠くなるような手仕事だ。懐中時計「ピューマ」の直径45mmのケースバックには、35種類の木材を用い、合計356個もの木片を組み合わせてピューマの姿を描写。今にも飛び出しそうな臨場感を生み出していた。
懐中時計「ピューマ」のケースバック
意外性に満ちたテーマの数々
ハンドクラフト技術の多彩さに加え、作品テーマの多様さにも驚かされる。
旅情を感じさせる作品も多い。154色ものエナメルを用い、ガウディ建築の象徴的な造形を表現したドーム型テーブルクロック「ドラゴンの家」もそのひとつ。
ドーム型テーブルクロック「ドラゴンの家」
メキシコの祭り「死者の日」に登場する骸骨の貴婦人「ラ・カトリーナ」をモチーフにしたユニークな腕時計も登場。時計の題材としては意外性のあるテーマが並ぶ。
腕時計「ラ・カトリーナ」
荒々しい溶岩流をテーマにしたドーム型テーブルクロック「マグマ」には、グランフー技法に加え、半透明のエナメルの下に銀箔(ぎんぱく)を埋め込むパイヨネ技法を採用。火山岩の質感をリアルに表現していた。
装飾表現の多彩さに、思わず作品ごとに足を止め、見入った。インスピレーションの広がりは、ハンドクラフト技術の進化に直結しているようにも思えた。
text: Shunya Namba @Paris Office