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<行定勲のシネマノート>第30回 『その瞬間、僕は 泣きたくなった -CINEMA FIGHTERS project-』

『海風』(c)2019 CINEMA FIGHTERS project

【10月31日 marie claire style】今までに私はいくつものオムニバス映画に参加してきた。『Jam Films』『カメリア』『アジア三面鏡2016 リフレクションズ』など、数人のクリエイターによって作られる、おおよそ15分の短編から40分くらいの中編作品の集合体である。企画によってテーマが与えられるが、これまでは、決まったテーマがないものや、一つの都市を舞台にすれば内容は自由なもの、アジアの未来という難しいテーマなどがあった。この度、私も参加したオムニバス映画『その瞬間、僕は泣きたくなった-CINEMA FIGHTERS project-』が公開されるが、今回は、EXILEや三代目J SOUL BROTHERSなどを世に送り出したLDH所属のアーティストの楽曲で作詞を中心に活躍する、小竹正人氏の詞の世界からインスパイアされた短編を作ることがテーマだ。三池崇史、松永大司、洞内広樹、井上博貴と私、行定 勲の5人の監督によって綴られた映画で、それぞれがこれまでの自分の表現のフィールドからはみ出した作品に挑戦しているように思えた。

 三池監督の『Beautiful』は自殺をはかる男が首を吊ろうとした瞬間、大地震がきてアパートが倒壊し、下の階の女と瓦礫の中で出会うストーリーで、生きていくことの尊さを描いた三池作品の中でも繊細さが際立つ映画だった。井上監督の『魔女に焦がれて』は恋愛のもどかしさを、洞内監督の『GHOSTING』は時空を超えて出会う最愛の人との愛の呼応を描いた。松永監督の『On The Way』はメキシコロケを敢行し、移民たちをサポートする若者が亡命するメキシコ人たちの気持ちに触れて成長する姿を描き、知られざる真実を突き上げてくるような作品だった。

 私の短編『海風』は、近年俳優として海外映画にも果敢に挑戦している小林直己を主演に迎え、社会に背いて生きてきた天涯孤独なヤクザと、愛する息子と別れ今でも彼が逃がした青いインコを探す中年の娼婦が出会い、それぞれの想いを重ねていくラブストーリーである。

 原案の小竹氏と私は若かりし頃、横浜を舞台にした映画で同じ現場の空気を吸っていた仲で、あの頃の横浜は猥雑で哀愁のある雰囲気がよかったと回想したところから生まれた物語だ。小林直己の持つ肉体と雰囲気から、今まで自分が描いてこなかったキャラクターを創造してみたいという思いに駆られ、背に刺青を持つ寂しげなヤクザの刹那の物語が誕生した。

 私は短編映画を作るのが好きだ。短編にしかできない表現があるからだ。長編では描いたことがない冒険もできる、そんな映画を楽しんでいただければ幸いです。

■映画情報
・『その瞬間、僕は泣きたくなった-CINEMA FIGHTERS project-』
11月8日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほかにて全国公開

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回佂山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』、18年は岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』が公開。待機作として『窮鼠はチーズの夢を見る』と又吉直樹原作の『劇場』が2020年公開予定。


(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada

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