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グランドセイコーがミラノで見せた「時の本質」──クリエイターそれぞれの解釈

4月下旬に行われた「ミラノデザインウィーク2026」にグランドセイコー(GS)が今年も出展。気鋭のクリエイターたちとの協働を通じて、ブランドフィロソフィー「The Nature of Time」を体現するインスタレーションを展開した。現地でクリエイターたちに話を聞いた。

文字盤に焦点、それぞれが表現

「The Nature of Time」は、自然からインスピレーションを受ける感性と、それぞれの道を究めながらものづくりの本質に迫ろうとする匠の姿、この2つの精神性を重ねたもの。2021年度のジュネーブ時計グランプリ「メンズウォッチ」部門賞を受賞した白樺(しらかば)林をかたどったモデルなど、近年は感受性に富んだ文字盤表現がファンの支持を集めている。GSは2018年からミラノデザインウィークに出展し、「The Nature of Time」を起点に毎年異なる空間展示を行ってきた。

今回コラボレーションしたのは、インテリア分野を軸に活動するデザイナーの進藤篤氏、富山県の蛭谷(びるだん)和紙の唯一の継承者である川原隆邦氏、そしてストーリー性の高い映像表現で知られるCGディレクターの阿部伸吾氏。GSの文字盤に着目し、作品を通して「時の本質」をかたちにした。グランドセイコーが「新しい挑戦を続ける姿勢に共感した」と起用理由を明かすとおり、それぞれに異なる解釈が示された。川原氏と進藤氏に話を聞いた。

ミラノデザインウィーク2026 グランドセイコー
阿部伸吾氏の映像作品「story」。自然を写すダイヤルのテクスチャーがほどけ、光と影が繊細に変化する中で、「凝縮された時間」を映像として表現した

川原隆邦氏:原料栽培から自ら手がけ、新しい表現へ

「見たことのないほど緻密な作業、ネームバリューに頼らず、手仕事に向き合っている人たち。その姿勢に同じクラフトマンとして刺激を受け、自分も新しいチャレンジをしようと思いました」。そう穏やかに語る川原氏は、作品の構想に先立ってGSの文字盤制作の現場を訪れている。約400年の歴史を持つ蛭谷和紙を受け継ぎ、富山県の立山に移り住んで原料コウゾの栽培から和紙づくりまでを一貫して自ら手がけている。

ミラノデザインウィーク2026 グランドセイコー
川原氏の作品「aurora」

時計の文字盤が角度によって表情を変える様子に着想を得た「aurora」は、繭の中で光が移ろうような抽象作品だ。特筆すべきはそのスケールで、延べおよそ100メートルの和紙が用いられている。「和紙の伝統は、いまの世の中に必要とされているのか。古典技法ももちろん大事ですが、自分に求められているのは“これまでにないもの”だと感じています」。そうした考えのもと、川原氏は新たな表現のかたちを探り続けてきた。

ミラノデザインウィーク2026 グランドセイコー
「うつろい」

「うつろい」は白樺や満月をモチーフにした作品。写真のような臨場感と迫力があるこの作品について、「こういう具象的でダイナミックな表現も和紙でできることを伝えたかった」と語る。和紙を幾層にも重ねることで、黒と白のみで濃淡を生み出した。月の最前面に配された極薄の和紙は、望遠鏡で月を見た際の大気の揺らぎを表現している。川原氏が日本的な感性と認める「素材の美意識、余白の美意識」が静かに息づいていた。

進藤篤氏:移ろいの美しさを空間へ

進藤氏もまた、時計制作の現場を訪れている。「GSのダイヤルには多様な構造や表現が重なっている。まるで小さな宇宙のように感じました」。その小さな平面を大きな立体空間へと拡張したのが「PULSE OF TIME(時の脈)」だ。

酢酸セルロース樹脂を用い、時計のインデックスをモチーフにした曼荼羅(まんだら)のような積層構造を3Dプリンターで造形。出力条件を細かく調整しながら素材を剥がすことで「ほどけた時の脈」をかたちづくり、それらを奥行きのある空間に立ち並べた。そこに変化する光を重ね、季節や時間の移ろいを表現している。

ミラノデザインウィーク2026 グランドセイコー
3Dプリンターで造形された積層構造

「桜が芽吹いたような淡いピンク、降り注ぐ金色の光、冬の夜を思わせる深いブルー。日本の四季は明確に切り替わるものではなく、常に移ろい続けるもの。表面にわずかな変化が起きながら、少しずつ変わっていく光を表現しました」

作品を眺めていると、不規則な構造の中に光がふと溜(た)まるような瞬間がある。「同じ時計を見ていても、人それぞれに異なる時間が存在する。『さっきのコーヒーおいしかったな』みたいな、なんかこうキラッとしたりワクワクしたりする瞬間が色々なところで同時に起きるもの。GSの考え方とも重なる部分ですが、生活の中にある美しさも表現しました」。時間に対する捉え方は、どこか明るさを帯びている。

ミラノデザインウィーク2026 グランドセイコー
「PULSE OF TIME」

世界中から人が集まるミラノデザインウィークで、グランドセイコーはプロダクトの展示よりも、ブランドのあり方を空間として示すことを重視している。GSがセイコーブランドから独立してまもなく10年。国内外でさまざまな対話を重ねながら、少しずつその輪郭をかたちづくっている。

text: Shunya Namba @Paris Office

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