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原田マハと伊藤ハンスのブランド「エコール・ド・キュリオジテ」。物語からはじまる服づくり【前編】

2024年秋冬コレクションより、コートCAMERON

作家の原田マハさんとデザイナーの伊藤ハンスさんによる「ÉCOLE DE CURIOSITÉS(エコール・ド・キュリオジテ)」は、フランスのクチュールの技術を取り入れ、丁寧なものづくりを続けているブランドだ。コンセプトは「モードとアートと物語のレゾナンス(共鳴)」。毎シーズン、テーマを決めて原田さんが物語を書き、ハンスさんがデザインするという、他にはないスタイルをとっている。手間を惜しまず、ユニークな服作りを追求するブランドの秘密に迫った。

原田マハのつづる物語を起点に

「座付き作家のいるブランドなんて聞いたことないですよね?」と原田さんは言う。「エコール・ド・キュリオジテ」は、原田さんの書き下ろした物語を起点にコレクションづくりがスタートする。

東京都出身。美術館のキュレーターとして活躍した後、執筆活動を開始。2005年に『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し作家デビュー。「楽園のカンヴァス」、「たゆたえども沈まず」など、緻密な取材と美術への深い知識を活かした小説を数多く生み出している。

二人はもともと友人同士。デザイナーのハンスさんが「エコール・ド・キュリオジテ」の名を冠して、1930年のパリのガイドブックをくり抜いたクラッチバッグ「ラ・ブキニスト」を発表した時、原田さんは、プロダクトの着眼点とハンスさんのデザインセンスに強く引きつけられたという。「以前からブランドの構想は聞いていたし、彼は独特のセンスを持っていると感じていました。自分はキュレーターだったこともあり、一緒に何か始めたら、彼のポテンシャルをもっと引き出せるかも」と、ブランド設立を思い立った。

ブランドを本格的にスタートさせるにあたり、原田さんに「物語を提供してほしい」と提案したのはハンスさんだった。

最初のプロジェクトで製作されたクラッチバッグ “La Bouquiniste (ラ・ブキニスト)”

「ブランド名のエコールは直訳すると学校という意味ですが、チームという意味合いもあるんです。メゾンやハウスに比べて、エコールにはもう少し精神的なつながりという意味合いがある。キュリオジテは『好奇心』。この言葉の組み合わせがしっくりきて、チームで作っていけたらと、この名をつけました」

フランスの技術が息づく、物語から始まる服

テーマや物語づくりの過程には、予定調和も妥協もない。ブランドを立ち上げた時から、オールフランスメイド(ニットはイタリアンメイド)というルールを貫いている。

フランスの昔ながらの工場や伝統的な技術によって作りあげられる服は、手刺繍(ししゅう)、プリーツ、規則的な針目のピッチで仕立てられたシャツの縫製、デッドストックのボタンなど、細部にとことんこだわっている。

服作りもどんどん高度になっているが、始めた頃からサステナブルでありたいということは変わらないという。「過去には、縫製のミシンの糸もコットン糸でお願いしたいと結構無茶を言って、断られたこともありました。でも、ジッパーを使わずボタンで仕上げるなど、できることは継続しています。最初は意固地になっていたところもありましたが、ある程度自分たちで設けたルールが土台になっているような気がします」

ブランドを立ち上げて8年、ファッションビジネスが加速し、第三国が生産の一部を担うフランスのメゾンも増え続ける中、オールフランスメイドの服づくりをするブランドを見つけることは困難になってきた。そんな中で貫き通してきたルールが、「エコール・ド・キュリオジテ」の特徴のひとつになっている。

東京都出身、パリ在住。パリの服飾専門校サンディカ・パリクチュール校を卒業後、大手メゾンなどで経験を積み、2015年「エコール・ド・キュリオジテ」を始動。2017年、原田マハとともに「エコール・ド・キュリオジテ」を設立。

これに加えて、服づくりを強固なものとしているのが、アルチザン(職人)の存在だとハンスさんは言う。「たとえば、プロトタイプの製作をベテランの女性職人にお願いしてるんですけど、この仕事を楽しみにしてくれていて。いつも『今回はこうだったわね』と感想をくださるんです。彼女の気持ちが入り、仕上がりが際立つ感じがします」

各アイテムに人の名前が付けられていることも「エコール・ド・キュリオジテ」のルールの一つ。「名前をつけると服がただの服じゃなくなって、個性を持ち始める気がするんです」

いっそう愛着が深まるように積み重ねられたものづくりの過程とルール。原田さんもこうした積み重ねの基礎として物語の必要性を感じているという。「当たり前ですが、服って人間が着るものだから人間が中心であるべきだと思うんです。私がエコールのために書く物語は、自分たちのコレクションに強度をもたらすために必要だし、物語から始まる服が着る人それぞれの物語へとつながっていくことを願っています」

interview: Izumi Miyachi(マリ・クレールデジタル編集長), text: Mio Koumura

原田マハさんが案内するアートを巡る旅
シャルロット・シェネの“幸せな”ものづくりとは? 神保真珠で紡ぐ、湖のパールネックレス

エコール・ド・キュリオジテ
https://www.ecoledecuriosites.com/

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