ワイン造りは「民藝」をよりどころに【三澤彩奈のワインのある暮らし】
2024.5.3

山梨県の中央葡萄酒の醸造責任者として、豊かな自然の中で日々ブドウの栽培と醸造に向き合い、「甲州」の名を世界に広める三澤彩奈さん。今回は三澤さんのワイン造りのよりどころともなっている「民藝」との関係についてつづります。
2024.5.3

山梨県の中央葡萄酒の醸造責任者として、豊かな自然の中で日々ブドウの栽培と醸造に向き合い、「甲州」の名を世界に広める三澤彩奈さん。今回は三澤さんのワイン造りのよりどころともなっている「民藝」との関係についてつづります。

ブドウ畑では萌芽(ほうが)が始まり、若草色に彩られる季節となりました。連日キジや鹿の親子が訪れ、寂しかったブドウ畑もにぎやかになってきました。ブドウ畑にいると、自分自身が自然の小さな一部であることを感じます。有機栽培に転換して以来、その感覚はさらに強くなってきたように思います。
先日、ご縁をいただき、島根県を訪れる機会に恵まれました。出雲観光協会副会長の渡部稔さんにご案内いただき、初めて訪れた出雲大社や稲佐の浜は、幻想的なまでに美しく、民藝の聖地とも呼ばれる島根県で拝見した職人たちの手仕事に心を打たれました。
私は、自身のワイン造りにおいて、民藝の思想を取り込みたいと考えています。私が民藝に心酔するようになったのには、一冊の本との出会いがありました。海外留学や修業を終え、家族や故郷、日本固有のブドウ品種「甲州」を思い、実家のワイナリーに戻ることを決意したとき、背中を押してくれたのが、日本民藝の父と称される柳宗悦が記した「手仕事の日本」でした。そこには、島国ならではの気候の多様性や、勤勉さや器用さから生み出される、芸術とはまた異なり、使い手によって育まれる美意識「用の美」がうたわれていました。

海外でワイン造りに携わっていた頃、私は日本ワインのアイデンティティに私自身を重ね、「日本ワインとはなんであるのか」とずっと問いかけてきました。「手仕事の日本」につづられている民藝の神髄に触れたことで、日本でワインを造るのであれば、日本ワインの魅力を深く掘り下げてみたいと強く願ったのです。

例えば、ブドウの収穫や選果作業一つとっても、一つ一つが丁寧で、繊細で、最後の最後まで目を行き届かせることで、日本の美しさをワインに表現したいと考えています。すべての作業において、手ざわりや美しい手仕事を大切にしながらワインを造る私にとって、いつしか民藝は心のよりどころになっていきました。
島根県は、尊敬する陶工、河井寛次郎の生誕地でもあります。河井寛次郎の同窓に当たる父から、幾度となくその名を聞き育ちましたが、初めて作品を拝見したときにはものづくりの本質を突かれたような衝撃を受けました。新米醸造家だった当時の私は、彩り、文様、形状など、河井寛次郎作品の生きた美しさに心を打たれると同時に、「あとどれだけ努力を重ねたら、この境地に到達する日が来るのだろうか」と畏怖したことも思い出します。河井寛次郎が説く「美を追い求めるのではなく、美がついてくる」の精神は、私自身のワイン造りにおいて、今も多大な影響を与えてくれています。
河井寛次郎は、緻密(ちみつ)な技術を持ちながら技巧に頼らず、内なる世界を探求しながら美しい作品の数々を生み出した陶工です。日本の美しい手仕事だけではなく、自分に足りないものを突き詰めていく、そんな日本人の真摯(しんし)で美しい心も大切にしたいと思っています。
今回の島根への旅では、民藝の現場も拝見することがかないました。出西織を担う多々納昌子さんと朋美さん親子を訪れ、実際に自家栽培した木綿を手で紡ぎ、手仕事で染め上げた糸を手織りする姿を見学させていただきました。


朋美さんが、縦糸と横糸を堅牢(けんろう)に織り重ねていきます。同じ作業の繰り返しに見えても、すべての作業に意味があり、少しのあんばいが出来上がりを左右します。反復の様子を見ながら、ワイン造りのことを考えていました。私たち造り手はその微調整や細部に魂を宿します。そこにこそ造り手の人生が表現されているようにも感じるのです。
現在、世田谷美術館では、企画展として「民藝MINGEI-美は暮らしのなかにある」が開催されています。6月30日までに限られていますので、ぜひ足を運んでいただければうれしく思います。
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三澤彩奈さん
中央葡萄酒株式会社 栽培醸造責任者 山梨県の中央葡萄酒4代目オーナーの長女として生まれる。ボルドー大学ワイン醸造学部を卒業し「フランス栽培醸造上級技術者」の資格を取得。2007年に中央葡萄酒の醸造責任者に就任。栽培と醸造に取り組む。 2014年に世界的ワインコンクール「デキャンター・ワールドワイン・アワード」の金賞を日本で初めて受賞。甲州ワインの名を世界に。「グレイスワイン」は海外で最も飲まれる日本ワインに成長。2021年11月、「甲州」の新たな魅力を引き出した「三澤甲州2020」を発売。
「グレイスワイン」のウェブサイトはこちら
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