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京都・おやつ aoiの「月からうさぎ」【町家宿おかみの、たびする京都くらす京都。】

おやつ aoi の「月からうさぎ」

京都・洛北、紫野にある町家宿「karigane(かりがね)」。昭和初期に建てられた京町家をリノベーション、町家のたたずまいはそのままに、細部までこだわった内装で訪れた人を温かく迎え入れる。2017年の開業以来、和の情緒を満喫できる宿として人気だ。そんな「karigane」を夫とともに営む下岡莉香さんが、四季折々の京都の表情をスケッチします

おばあちゃんの味がルーツの朝生菓子たち

karigane 女将の下岡です。秋といえばお月見、今年の中秋の名月は9月21日でしたが、みなさまご覧になれましたでしょうか。

日本では昔から、月にぼんやりと浮かぶクレーターの模様をさして「月にうさぎが住んでいる」といわれてきました。しかしじつはこれ、インドから伝わった仏教説話が起源だそうです。

曰く、貧しい老人の空腹を満たすため、ある慈悲深いうさぎが自ら火の中に飛び込み、その肉を食べさせました。仏様がうさぎの自己犠牲の精神を称え、その姿を月に映すこととした、というお話です。

京都では、お月見の季節になると、うさぎをかたどった薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)を見かけます。私たちのお気に入りは、おやつ aoi さんによる「月からうさぎ」。厚みがあってふかふかの生地からはつくね芋の薫りがただよい、中にはきめ細かなこしあんがぎっしり詰まっています。一つ一つ手作りされるからこその奥ぶかい味わいと、どこか懐かしさを感じる素朴さが、人々に愛される所以です。

おやつ aoi 店主の土田葵さん

おやつ aoi店主の土田葵さんがつくるのは、いわゆる朝生菓子。どら焼きやモナカなど、「3 時のおやつ」にぴったりの身近な和菓子です。

季節の餡子をしのばせた「ネコ最中」。月に 1 度の通販でお取り寄せもできます

土田さんの原点は、子供のころにおばあちゃんが作ってくれたおはぎ。その美味しさに惹かれて、和菓子職人の道に入られました。ちなみに、おやつaoi さんの店頭におはぎが並ぶのは、年に 3 回だけ。「朝生菓子も、季節感を大切にしたいと思っています。お盆と春秋のお彼岸におはぎを食べることで、季節を感じてほしいので」という、土田さんの想いが詰まっています。

今月の「季節のお団子」はほんのりピンク色のイチヂク味。種のぷちぷち感がアクセントに
「イチヂクのあんみつ」に入るお餅は羽二重餅。寒天にほうじ茶寒天もくわえて、ここだけの味に仕上げてあります

「今は、新しいスイーツが頻繁に紹介され、手軽に買える時代になりました。和菓子も、古き良き日本の伝統を守りながらも新しい感覚を取り入れ、発信していきたい思っています」と土田さんはおっしゃいます。

例えば「おやつ aoi の月見箱」は、今回紹介したうさぎの薯蕷饅頭と、お月様にみたてたほんのり生姜風味の黄身しぐれに、オリジナルブレンドの野草茶と和紙プレートが一箱に納まっています。作法やしきたりなど難しいことはさておき、お月見という日本の伝統を気軽に楽しめる、嬉しいセットです。

これから作りたい和菓子について伺うと、「日本の地方の和菓子にも興味があるし、スパイスを使ったり、揚げ菓子や焼き菓子にも挑戦したい」と目を輝かせて話す土田さん。これからも、おやつaoiさんの朝生菓子から目が離せません。

撮影・構成:下岡広志郎

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おやつ aoi(オヤツアオイ) 住所:京都市北区紫竹下園生町 38-10 営業日:主に木・金・土曜日の 11 時~15 時。お休みの週もあるので、営業日は公式 Instagramをご覧ください。 Instagram:https://www.instagram.com/oyatsu.aoi/?hl=ja

Profile

下岡莉香

しもおかりか 大阪府出身。奈良女子大学卒業後、繊維商社で生地輸出を担当。より活躍できる場を求めて退社後、夫婦で1年5ヵ月44ヵ国世界一周の旅へ。日本文化の奥深さに目覚め、町家一棟貸しの宿kariganeを開業。一児の母。 karigane公式HP:https://rokushou.net/karigane/  Instagram:https://www.instagram.com/karigane.kyoto/?hl=ja

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