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帝国ホテル東京料理長・杉本雄が目指すラグジュアリーでサステナブルな食体験

帝国ホテル 第14代東京料理長。1999年、帝国ホテルに入社。2004年に退社し、渡仏。ヤニック・アレノ、アラン・デュカスなど世界な料理人のもとでシェフを務めた。12年には、フランスで最高の権威を誇る料理コンクール「プロスペール・モンタニエ料理コンクール」で日本人初の優勝。受賞歴多数。17年に帝国ホテルに再入社し、宴会調理課シェフを経て、19年、東京料理長に就任。

2020年に開業130周年を迎えた帝国ホテルは、約20年にわたり、環境に配慮した取り組みを続けている。今、新たに提案する「食材を最大限に生かす」料理とは。

2019年、38歳で東京料理長に就任した杉本雄氏。帝国ホテル東京で約350人の料理人を率いる。料理人としての基礎を帝国ホテルで学んだ後、渡仏して経験を積み、再入社したという異色の経歴だ。「ラグジュアリーでサステナブル」を指針に、食品ロスの削減など、新たな試みに挑戦している。環境問題へ関心が高まったのは、フランス滞在がきっかけだった。

「フランス料理は、地方料理の集合体です。地産地消が基本で、その土地で採れた野菜、育てられた牛や羊を存分に味わいます。『食材の恵みを最大限に生かし、使い切る』という考え方が根づいていて、たとえば牛のお肉を調理するなら、身はグリルに、そして骨や筋は出汁をとってソースを作る。食材を余すところなく使い、一皿を展開するのです」

杉本氏は食材のロスを減らすさまざまなアイディアを実現している。一つは、製造過程で余ってしまうパンの生地を利用した「みかんのフレンチトースト」。

「パンからパンへ~みかんのフレンチトースト」。パンの生地の
ロスをバゲットに作り替え、みかんと焼き上げた © Imperial Hotel

「フレンチトーストはフランス語で『パン・ペルデュ』と呼ばれます。『失われたパン』という意味で、もとは食べ頃を過ぎたパンをおいしく食べるために生まれたレシピです。帝国ホテルのベーカリーでは通常約80種類ほどのパンを用意しますが、型に入れて成形する際にどうしても余ってしまう生地があります。この『失われたパン』で、フレンチトーストを作ることにしました。みかんと一緒に焼き上げた爽やかな香りの一皿ですが、食材を無駄にしないという考えのもと、生まれたものなのです」

他には、果物や野菜の皮などを乾燥させ、パウダー状にして塩と合わせたフレーバーソルトもある。

「低温でじっくり乾かせるオーブンや細かく粉砕できるフードプロセッサーなど、調理機械が進歩したことに加え、環境に配慮する考え方が浸透してきた。今の時代だからこそ生まれた料理だと思います」

野菜や果物の捨ててしまいがちな部分を乾燥させ、パウダー
状にしたものを塩と合わせる © Imperial Hotel

当初は、ラグジュアリーとサステナブルの両立に逡巡もあったと語る。

「ラグジュアリーホテルは非日常を楽しんでいただく場所。レストランも最高の食材で作り上げた料理を提供します。たとえばお客様が最高級のヒレ肉を召し上がる際、その他の部分のことは思い浮かべず召し上がっていただきたい。サステナブルな考え方とは両立できないのではないかと悩みました」

そんな時、帝国ホテルの初代会長・渋沢栄一の言葉に立ち返った。

「赤座海老/モダンなサンドイッチ仕立て コライユのマヨネー
ズとマッシュルームのサラダと一緒に」。海老の頭、足、殻まで、余すことなく使う © Imperial Hotel

「『道徳と経済(ビジネス)の両輪を回し続けることなしに、その企業の発展はあり得ない』。その考えに触れ、心が決まりました。開業時よりフランス料理を提供し続けてきた帝国ホテルだからこそ、その根底にあるサステナブルな考え方を発信する意味がある。環境問題にも率先して取り組んだうえで、ビジネスを展開しなければなりません」

1日1組限定で杉本氏の特別メニューを味わえる「ル サロン アンティミテ」では、料理の背景にある思いをお客様に自ら伝える。動画配信や食育イベントなども積極的に行い、食材を最大限に生かす取り組みを発信〝。顔の見える料理長〞として、ホテル業界の未来を切り拓いている。

帝国ホテル 東京
お問い合わせ先

帝国ホテル 東京
東京都千代田区内幸町1-1-1
tel: 03-3504-1111
公式HP:https://www.imperialhotel.co.jp/j/tokyo/

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