戦後の長崎を描いたカズオ・イシグロ『遠い山なみの光』が広瀬すず主演で映画化。石川慶監督が語る制作秘話
2025.9.2
2025.9.2
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──終戦80年を迎え、戦争体験者から話を聞いたことがない若い世代も増えています。
自分はぎりぎり戦争を体験した方のお話を聞けた世代で、下の世代の人たちにとっては、「記憶」ではなく「歴史」になりつつあると思うんです。そう考えると、自分たちが果たさなくてはいけない役割は大きい気がしていて。語られたことの記録は残っています。でも、その人とお会いした時、生でどう語ったか。途中、言葉に詰まった時のことが記憶に残ったりする。何を語って何を語らなかったかも大きいと思うんですよね。映画に限らず、僕たちが下の世代にバトンを渡していかないといけないなと思います。
──本作はイギリスとポーランドとの合作です。戦争について日本とは異なる視点もありましたか。
たとえば戦後の長崎を描くうえで、ポーランドの人たちは「もっとビルが壊れたりしていなくていいのか?」と聞くんです。でも、7年たって復興している時点なんですね。原爆後の長崎に対するイメージの違いもあるでしょうし、ポーランドの人たちは瓦礫(がれき)になったワルシャワを体験しているので、誤解もあれば共鳴もあると感じました。イギリス人のプロデューサーは、日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)が2024年のノーベル平和賞を受賞した時に、「本当に素晴らしいね」とすぐメールをくれて。自分ごととして捉えている感じがありましたね。
また、この作品は日本だけではなく、世界中の人たちが共鳴する何かがある。イシグロさんは新しく時代が動く時の戸惑いなど、普遍的な視点で人物像を描かれています。戦争のことだけではなく、広く響くものを探しながら映画化できた気がしていますね。

──石川監督の作品には、ある種の不穏さが漂っているように思われます。本作も過去の記憶を辿るミステリーで、謎に引き込まれていきました。
どういう映画を作るにしても、広義ではミステリーだと思っている部分があります。シーン一つとっても、最初から全部がわかっているより、たとえば寄りから入って、そこからこれは何だろうと探っていくようにカメラワークを組み立てるとか。答えをどんと出すよりも、これは何だろうと思いながらすべてのシーン、フレームを見てほしいなと。
──本作を貫く大きな問いは何でしょうか。
ニキが、母親がなぜ長崎の記憶を自分と共有してくれなかったんだろうという問いを、一つ一つひもといていく物語なのかなと思っています。おそらく誰もが親のすべてを知っているわけではなく、共有してもらっているわけでもない。話してくれたからといって、全部わかるわけではない。でも、理解しようとする行為は普遍的だと思います。たとえ曖昧だったとしても、その人がどう語ったかを記憶していく。過去の出来事を受け継ぐうえで、そういうバトンのつなぎ方が大事なのかなと思います。
text: Saya Tsukahara photo: Tomoko Hagimoto
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