究極のチャイを求めて<後編> どこにもない、スパイススープのようなチャイレシピ【お茶で世界を、覗こう】
東京・目黒の碑文谷にある世界中のお茶を集めたティーアトリエ「MATRA」を主宰する、中村文聡さん。日本やインド、台湾、中国、ベトナムなど、世界中からお茶をセレクトし続ける彼がつづる、連載「お茶で世界を、覗こう」。第5回は、究極のチャイを探しにインドへ<後編>。お茶の集積地コルカタのチャイスタンドを巡った前編に続き、後編では飲み歩いた結果、たどりついた、究極のチャイレシピをご紹介。
大都市の街角で、田舎の路上で、ホテルで、レストランで、個人のお宅で。本場インドで多くのチャイに出会い、飲み続けている中で常に感じていたことは、まだここにないチャイへの更なる憧れでした。
もちろん前回紹介したコルカタのチャイスタンドのチャイはどれも感動的においしいものばかりでしたし、日本にも素晴らしいチャイを出すお店はたくさんあります。
思えば最初に日本でチャイを飲んだ時に感じた、自分の中で大きく広がりすぎたチャイへの妄想に取りつかれているのかもしれません。
イメージとしては、インドの街の中、繁華街から離れた路地にひっそりと佇(たたず)む専門店で、選り抜きのスパイスと紅茶をふんだんに使って出汁をとるように、職人が丹念に作るスープ仕立ての濃厚なチャイ。
実際に出会ったことはないのですが、チャイを飲み続けながら追い求めた妄想を現実にした、究極のチャイの作り方をご紹介します。
アーユルヴェーダ的な効果・効能も考えに入れず、ただ世界を回ったお茶のバイヤーが「こんな風味のチャイに出会いたい!」という思いだけにこだわって作りました。
今までに出会った事のない、まさにインドのチャイ職人が作った、という風味になることはお約束しますので、ぜひ試してみてください。
こんなチャイに出会いたい。スパイススープのような「チャイ」の作り方
今回は出来上がりが500ml~600mlになるようなイメージでご紹介します。
まず、鍋に450mlの水を入れて火にかけ、沸騰したら弱火にして、砕いたスパイスを入れていきます。スープの出汁をとるように深みを出したいので、スパイスは風味の飛びやすいパウダーではなく、原形をとどめたホールのものを鍋に入れる直前にミルやすり鉢で少し砕いて使用するのがベストです。
突き抜けるような清涼な香りのグリーンカルダモンが一番多く約3g、甘さ、辛味、うまみを加えるクローブ・黒コショウ・クミンシードをその半分の約1.5g、香り立ちのすばらしいスリランカ産のセイロンシナモンを約0.6g、ローレル(ベイリーフ)、カレーリーフを一かけら入れて、最後に生のショウガを5回ほどすり金ですりおろして加え、弱火のまま3分間煮出します。
スパイスの良い香りが部屋中に充満したら、続いて紅茶を20g入れて1~2分ほど、鍋の底が見えなくなるくらいまで煮出します。
究極のチャイを作るには、インド、アッサム産のCTC(Crush Tear Curlの略)紅茶が欠かせません。
アッサムはインドでも最東端、バングラデシュの真北に位置する地域で、ジャングルに囲まれた平坦(へいたん)で肥沃(ひよく)な大地を象の群れがのし歩く広大な茶園がどこまでも続く最大の紅茶産地。強い日差しで育った大振り茶葉はタンニンというポリフェノールを多く含み、紅茶特有の深い紅色と強いコクを生み出します。つぶして(Crush)引き裂いて(Tear)丸められた(Curl)紅茶はこの成分をあますところなく抽出し、チャイの濃厚な風味を作ってくれます。
紅茶が抽出されたら、砂糖20g(白砂糖でもOKですが、適度に深みを増せるきび糖がおすすめです。黒砂糖はクセが強いので避けてください)を溶かしこんで前半が終了です。
いよいよ後半、今まで弱火にしていた火を最大火力にし、ミルクを300ml入れていきます。
一般的な無調整牛乳がおすすめです。今回の作り方ではパスチャライズなどのこだわりタイプも避けた方がおいしく作ることができます。
最大のポイントは20回以上沸騰させること。
強火にかけた鍋にミルクを入れると次第に泡立って、吹き上がり始めます。泡が鍋の縁から吹きこぼれる直前で火から離し、落ち着いたらまた強火にかけて吹き上げる。この動作を20回以上繰り返すことで、通常のチャイとは大きく異なる特徴が出てきます。
まず、ミルク特有のリッチな味わいと乳脂肪分由来の濃密な香り(くさみ)が飛ばされていき、紅茶と完全に一体化していきます。紅茶にミルクをたらす、いわゆるミルクティーとの違いはここにあると思っています。さらに、前半で溶かしこんだ砂糖がカラメル化していくため、全体に自然なコクが加わります。
吹き上げる前と、2〜3回吹き上がった頃、20回以上の吹き上げた後で、ぜひ味見をしてみてください。吹き上げる前はカフェラテのようにミルクのリッチ感が前面に出てきます。日本で紹介されるレシピのほとんどが、「チャイはミルクを入れたら沸騰させる直前で止めましょう」としているのはこの風味を大切にしているからです。
実際これはこれでとてもおいしいので、アイスチャイを作る際にはここで止めて冷やしてもよいと思います。
2〜3回吹き上げた状態で味見をすると、あたためた牛乳特有のもわっとした香りと味わいが強すぎ、バランスがあまりよくありません。
しかし、ここを乗り越えて吹き上がりが20回を超えた後に味見をすると、そこにはこれまで体験してきたチャイとは違う世界が広がっています。
口当たりは驚くほど軽やかで非常に飲みやすく、飲んだ後から体にしみわたったスパイスと紅茶の香気が戻って来るかのように、深く、あまく、絶妙なさわやかさとほろ苦さと辛味を伴って広がる感動。
出来上がったチャイは、茶こしで茶葉とスパイスを漉(こ)しながらポットに移し替え、保温して少しずつ楽しみましょう。
インド式にやや高いところからグラスやカップに細く注いで泡立てると、より風味がよくなります。
最後にサフランを2〜3本上に浮かべると、最高に豪華な香りが加わり、完璧です。
◼️チャイ
産地:インド (シナモンのみスリランカ産を使用)
おすすめの飲み方:
①水を450ml沸かし、弱火にする
②カルダモン3g、クローブ・黒コショウ・クミン1.5g、スリランカ産シナモン0.6g、ローレル・カレーリーフ1かけらと、すりおろしショウガをすり金5本分(お好みで調整しても)入れる
③弱火のまま3分煮出す
④アッサム産CTC紅茶を20g入れさらに1〜2分煮出す
⑤砂糖(きび糖がおすすめ)を20g(お好みで調整しても)入れて強火にする
⑥牛乳を300ml入れる
⑦火から離したり近づけたり、吹きこぼれる直前まで20回以上ぶくぶくと沸騰させる(ここがポイント! この間に紅茶とミルクが絶妙に溶け合っておいしくなります)
⑧味見をして好みの味になったらOK
⑨茶こしで茶葉とスパイスを濾(こ)して、できるだけ泡立てながらカップに注ぎ、お好みでサフランをのせて出来上がり
新鮮なインドスパイスを砕いてCTC紅茶とブレンドしたオリジナルチャイミックスもオンラインストアで販売中です。
text: Fumitoshi Nakamura
・究極のチャイを求めて<前編> コルカタのチャイスタンド巡り【お茶で世界を、覗こう】
・異端が引き出す世界基準の香り 五ヶ瀬の釜炒り茶【お茶で世界を、覗こう】