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究極のチャイを求めて<前編> コルカタのチャイスタンド巡り【お茶で世界を、覗こう】

東京・目黒の碑文谷にある世界中のお茶を集めたティーアトリエ「MATRA」を主宰する、中村文聡さん。日本やインド、台湾、中国、ベトナムなど、世界中からお茶をセレクトし続ける彼がつづる、連載「お茶で世界を、覗こう」。第4回は、究極のチャイを探しにインドへ。前編となる今回は、お茶の集積地コルカタのチャイスタンドの数々を巡る飲み歩きの旅をお届けする。

夏が終わり秋の訪れを感じると、チャイが恋しくなると同時に、チャイを求めて訪れたインドの旅を思い出す。濃密な湿気を帯びた空気に太陽の光が降り注ぎ、あいさつを交わすように絶え間なく鳴り続ける車のクラクション、人々の話し声と南方のアジア特有の甘いジャスミンの香水の香り漂う喧噪(けんそう)。

世界第1位の紅茶生産国インドの中でも、バングラデシュに近い東側、ベンガル湾を望む歴史的大都市コルカタは、北にダージリン、東にアッサムという有数の茶産地を抱えるお茶の一大集積地。

街中にはいたるところに紅茶をミルクと砂糖で濃厚に煮出した「チャイ」の店が立ち並び、それぞれがお茶にうるさいコルカタ人客を集めるために工夫をこらし、しのぎを削っている。

ビジネス街には、インドスナックの定番サモサではなく、お茶(チャイ)請けにイギリス式にトーストを出す人気のスタンドがある。

トーストといってもザラメの入った甘いクリームが塗ってあるのがインドらしいが、チャイにはスパイスが入っておらず甘さも他店に比べ心なしか控えめ。

新聞やスマホを片手にチャイとトーストをほおばるパリッとした服装のお客さんたちの様子は、歴史的背景やそれにより様々な文化が混ざりあっているさまを見ているようで興味深い。

人の行き来がひときわ多い商店街には、混雑でただでさえ歩くのが大変な道路をふさぐかのように、長蛇の列を作り出すチャイの繁盛店がある。

何が他の屋台と違うのかとのぞいてみると、次々と出来上がるチャイの上には黒い斑点が。

はじめは黒コショウでもかかっているのかなと思ったが、お客さんの話によると、なんとコーヒーの粉だということ。

チャイにコーヒーをかけるという日本人にはない発想に驚きつつ、口に含んでみるとこれがまた衝撃的においしい。

このコーヒー、豆を挽(ひ)いたものでもなくネスカフェのインスタントコーヒーだったのだが、焙煎(ばいせん)された絶妙に香ばしい香りが鼻に抜けてチャイ全体の味わいを引き締めるいいアクセントになっている。日本に帰ってからまねをして何度か作ってみたけれど、どうにも味が締まらずいろいろなインスタントコーヒーで試したが未(いま)だにその時の感動は再現できていない。

お茶の生産者におすすめされて行った繁華街から適度に離れた一角にある小さなスタンドでは、値段が通常のチャイの3倍以上もする、高級なサフランを浮かべたチャイに出会った。

インドでは結婚式などお祝い事の時にサフランをチャイに浮かべて楽しむことがあるようだが、飲んだ瞬間に黄金に輝くマハラジャの宮殿に飛ばされたかのような豪華な気分が味わえるのでおすすめだ。花のめしべだけを丁寧に集めて作るサフラン、生産国インドでも高級品であるその香り立ちのすばらしさを一番堪能できる使い方だと思う。

サモサがおいしいチャイスタンドは人気がある。日本でもスイーツがおいしいカフェがそうであるように。

最後に紹介するチャイの店は、大通りの角地にある大きなレストランに近いタイプ。

日よけの赤いパラソルが並ぶ店の正面には、チャイ職人に並んで大型のフライヤーが何台も置かれていてひっきりなしにサモサが揚げられては配られていく。

チャイはジンジャーがピリッと効いていて、日本でいう真夏日の気温の中で揚げたてのジューシーなサモサをかじりチャイを飲めば、体に入りきらないほどのエネルギーが充電されていくのを感じる。

他にも、オフィスで出される砂糖が別添えにされたドライな味わいのチャイ、高級レストランで供されるスパイスが贅沢(ぜいたく)に使われた香り高いチャイ、各家庭にも独自のレシピがあり、カルダモン・シナモン・クローブの3種を基本にハーブ等も加えたりと様々なアレンジがされている。

スパイスを生産する南部に行くほどスパイスの量が増えたりと、地域差があるのも楽しい。

次回後編では、チャイにおすすめの紅茶と、チャイはもちろん様々な国のお茶を飲んできて辿り着いたオリジナルのスパイスレシピ、どこにもない究極のチャイの作り方を紹介する。

text: Fumitoshi Nakamura

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Profile

中村文聡

東京・目黒の碑文谷にある、MATRA tea atelier(マトラ ティーアトリエ)主宰。「人がお茶と出会い、その空間が変化する」そういう瞬間が好きでお茶の世界に飛び込み、15年間、大手お茶専門店でバイヤーとして世界中を飛び回り、2024年に独立。「お茶で世界を、覗こう」をテーマに特別な茶器を使わず、シンプルなグラスのみで、世界各地のお茶をボーダレスに楽しむ、“glass tea(グラスティー)”を提唱。

HP:https://www.instagram.com/matra_tea/

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