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本橋成一とロベール・ドアノー、あるいは中平卓馬と森山大道。2人展を通して、見慣れた写真が違って見えてくる様を恵比寿と葉山で堪能する

「挑発」によって表現される写真の臨界点

美術館の前に掲示されている「中平×森山」展のビジュアル。圧倒的な迫力に展示への期待が膨らむ(撮影・高橋直彦)

一方、「交差」とは対極的に、中平卓馬(1938~2015年)と森山大道(1938年~)による「挑発」をテーマにした2人展を開いているのが神奈川県立近代美術館 葉山。雑誌の編集者の中平と写真家として活動を始めた森山は、写真家の東松照明の紹介で1964年に出会っている。2人とも同い年生まれで、神奈川県逗子市に住んでいたこともあって頻繁に会うようになり、後に伝説的な写真誌『PROVOKE』の同人として、文字通り「挑発」しながら、独自の写真表現を模索していった。その活動は日本にとどまらず、海外のアートにも広く影響を与えてきた。

中平と森山の組み合わせによる史上初の2人展

中平卓馬『来たるべき言葉のために』(1970年)より © Gen Nakahira Courtesy of Osiris
森山大道《東京都 新宿区》1966年 © Daido Moriyama Photo Foundation

実際、いずれの写真家も2人展とは相性がよく、森山は東京オペラシティアートギャラリーで荒木経惟と『森山・新宿・荒木』展(2005年)、ロンドンのテート・モダンで『William Klein + Daido Moriyama』展(2012年)などを開いている。両展ともに観ているが、見慣れていると思い込んでいた森山の写真が荒木やクラインの写真と並べて展示してあるだけで、まったく異なった作品に見えることに驚いた記憶がある。中平も1977年に篠山紀信と写真論を闘わせた『決闘写真論』を刊行。それだけに、中平と森山との2人展はすでに何度か開かれていると思っていたが、今展が史上初めての企画だという。

中平卓馬《Untitled》『Documentary』(2011年)より © Gen Nakahira Courtesy of Osiris
森山大道《神奈川県 逗子市》1969年 © Daido Moriyama Photo Foundation

テキストも展示され、時代の熱気が伝わってくる

『PROVOKE』には中平と森山も同人として参加した。日本語で「挑発」を意味する(撮影・高橋直彦)

「神奈川県立」の施設らしく、2人が多くの時間を過ごした神奈川県内で撮影した写真を中心に展示してあるのが見所だ。さらにプリントだけでなく、2人が作品を発表した写真雑誌や写真集、さらに評論などのテキストを読める形で展示してあるのも面白い。例えば、中平が1970年代前半に発表した評論『なぜ、植物図鑑か』の全文が32画面に分割され、展示室の壁一面にプロジェクションされている。1960年代以降の種々雑多な印刷物から、時代の熱気が感じられ、展示してある写真を様々な意味で「挑発」している。2024年2月から、東京国立近代美術館で中平の没後初となる本格的な回顧展も予告されており、葉山での2人展での写真の見え方とどう違ってくるのかを確認するのも面白いだろう。

写真に加え、数多くのテキスト類が展示され、「読む写真展」としても楽しめる(撮影・高橋直彦)

9月24日までの展示に悠然と急いで駆け付ける

葉山で展示を観てからの帰途、中平と森山がよく話し込んでいたというJR逗子駅近くの喫茶店「珠屋」でお茶をするのもいい。ただし、写真美術館の展示も含めて会期は9月24日まで。プリントされた写真の見え方が一様ではなく、時代や展示方法などによって多彩な表情を見せてくれることを体感できる貴重な機会。美のありようにすこぶる敏感な『マリ・クレール』フォロワーなら、多少の雑事などこの際構わず両展に駆けつけてほしい。

創業1950年の珠屋。湘南方面に遊びに行くとかなりの確率で立ち寄っていたが、中平と森山もひいきだったとは……(撮影・高橋直彦)

text: Naohiko Takahashi

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