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ウクライナ政府軍vs親ロシア派の対立を描くアクション映画『バンデラス』

日々緊迫の度合いを深めるくウクライナ。この国が置かれてきた社会的・地理的・歴史的背景を理解する一助となりそうな映像作品を紹介しています。二作目はニュースでもよく耳にする「ドネツク州」が舞台の映画です。

ロシアの影響が色濃い地域で続く「忘れられた戦争」

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからというもの、ウクライナ東部にある「ドネツク州」の名前を頻繁に見聞きする。

2月26日、ドネツク州にある病院にクラスター弾を搭載した弾道ミサイルが着弾し、民間人や医療従事者に死傷者が出た衝撃的なニュースが報じられた。その後も同州には激しい攻撃が続き、3月9日には産婦人科・小児科病院が空爆を受ける。ウクライナ政府はロシアの攻撃を非難。一方、ロシアは西側による情報操作だと反論。混迷の一途を辿っている。

サイェンコ大尉(オレグ・シュルガ、写真中央)率いる特殊部隊は、本当の任務を隠してヴェセレ村に駐屯する政府軍部隊に入る

もともとウクライナ東部は、政府軍と親ロシア派武装勢力の睨み合いが続く地だった。なかでもドネツク州は、先に紹介したドキュメンタリー『ウィンター・オン・ファイヤー ウクライナ、自由への闘い』にも登場するヴィクトル・ヤヌコーヴィチ元大統領の地元でもあり、ロシアの影響が色濃い地域だ。

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2014年2月、ウクライナ革命の騒乱によって、ヤヌコーヴィチは大統領を解任されるが、ドネツク州では西側への融合に舵を切る新政府に反発した親ロシア派が武装蜂起して州庁舎を占拠。ウクライナからの独立と「ドネツク人民共和国」の建国を一方的に宣言した。そこからウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力による内戦が勃発し、延々と衝突が続いている。

そんな地域を舞台に、極秘ミッションを託された男が、ウクライナ政府軍に潜入するロシア人スパイの企みを阻止するべく孤軍奮闘する姿を描いたのが、2018年に公開された戦闘アクション映画『バンデラス ウクライナの英雄』だ。

サイェンコ大尉が村に到着してすぐに、新たな殺人事件が起こる

2014年9月、ウクライナ政府軍と、独立を主張する親ロシア分離派が激しく対立するドネツク州ヴェセレ村で、政府軍の仕業に見せかけた民間バス襲撃事件が発生、多数の犠牲者を出した。

政府軍上層部は、村の近くに駐屯する軍の内部に潜入しているロシア人活動家“ホドック”が、政府軍の信頼失墜と休戦会議を混乱に陥れるために行った謀略だと断定。ヴェセレ村出身で アントン・サイェンコ大尉(オレグ・シュルガ)、コードネーム“バンデラス”率いる特殊部隊を現場に派遣する。アントンたちがスパイの正体を突き止めようと探る中、新たな事件が発生。それは“ホドック”が再び動き出したことを示していた——。

親ロシア分離派による激しい砲撃を受ける政府軍の駐屯基地

エンタテインメント仕立てになっているものの、ウクライナ東部では政府とロシアと通じる勢力が対立し、長期化し過ぎて国際社会の関心が薄れていたことから「忘れられた戦争」と称されるほどの紛争が続いていたことを、本作によって窺い知ることができる。そして、ウクライナが単純な構造ではないことも。

サイェンコの恋人ジェニャがボランティアとして基地を訪れるが、激しい戦いに巻き込まれる

ニュースなどで戦況が伝えられる今、わずか4年前に公開されたウクライナ製作の本作を、単純なエンターテインメント映画として観ることはできない。

「バンデラス ウクライナの英雄」DVD発売中  発売元:トランスワールドアソシエイツ Prime Videoで配信中

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香月友里

かづき ゆり。フリーライター。出版社の編集者を経てライターに。同居する5匹の犬猫たちにお仕えしながら、映画とドラマと演劇とJ-POPにどっぷり浸る日々を送る

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