きれいをつくる女性たち 「ゴーレム」 川端奈那
コスメティックの世界にも「顔が見えるものづくり」が広がりつつある。原料や産地とのつながりへのこだわりは、「美しさとは自然と人の関係そのもの」という価値観の表れであり、地域の新たな活路ともなりうる。それを体現するブランドのつくり手をたずね、肌に届くまでのストーリーを聞いたインタビュー連載。第3回はクレイ、オイル、アクアフォーミュラを自分仕様に組み合わせる素材コスメ『GOLEM(ゴーレム)』 の主宰者・川端奈那が、故郷・静岡県森町と再びつながるまでの足取り。
泥パックへの愛があふれてブランドへと発展
肌が本来備える力を引き出すため、余計なものを足さずに素材そのものをかたちにする『ゴーレム 』。澄んだ白、深いグリーン、やわらかなイエローのパッケージは天然クレイの個性が反映されている。主宰者・川端奈那の探究心が結実し、2022年に誕生した。
── クレイの魅力に目覚めたきっかけは? 子どものアトピー性皮膚炎です。薬での治療が長引くなかで、自然のものでやわらげる方法はないものかと調べました。まず知ったのは、ハーブやアロマを用いる植物療法です。でも、これはすぐに挫折しました。症状や体質によって禁忌もあるため、正しく把握していないと使えない。ずぼらな私にはアレンジする自信がありませんでした。 そこで、ふと、以前泥パックしたことを思い出したんです。改めて深掘りすると粘土は誰でも扱いやすいことが分かり、娘と一緒にスキンケアに取り入れました。そしたら、2人とも肌トラブルは改善し、さらにはバイタリティも出てきた。子どものために始めたケアで、育児で心身ともに疲れ果てていた私も救われたのです。周りからも肌ツヤを褒められ、手入れ法を聞かれる機会が増えました。けれど、医療事務の仕事をしていた2016年当時は今よりもニッチな存在で、購入できるショップも少なかった。クレイの素晴らしさを広めたくて、扱い方を伝えるワークショップを開くようになりました。
── この時点で『ゴーレム』を設立する青写真があったのですか? いえ、なかったです。知る人ぞ知る存在であっても、素敵なブランドは既にたくさんあるので、私はガイド役として長所を伝えることだけを考えていました。気になるメーカーにはコンタクトを取って、いろんな話を聞いていたものです。
── すごい行動力ですね。 好きになると追究しちゃうんです(笑)。
── 2020年には著書『はじめてのクレイケア』(グラフィック社)も刊行されています。 コロナ下で行っていたオンラインのワークショップに参加した編集者から、お声がけをいただいて。タイトルの如く初めての出版なので、右往左往しながら制作しました。著書に掲載してあるケアアイテムのレシピは、親交のあるブランドの方々と相談しながら考案していきました。
── 日頃の交流が発展したわけですね。 はい。制作の過程で『ゴーレム』を立ち上げる設立する決意をしました。メーカーの方たちに私の価値観を押し付け過ぎているかもしれないと感じることがあって、だったら自分でブランドを作った方がいいという結論に達したんです。
── これまでコスメ業界に身を置いた経験は? ありません。どちらかというと美容に無頓着なくらい(笑)。ただ、この時点でニュージーランドの鉱山オーナーとつながっていたので、挑戦することに迷いはなかったです。
── どうやって関係を築いていたのですか? かねてよりオーストラリアのクレイを愛用していたのですが、日本での流通が少なくて、充実する手立てはないかと考えていたのです。奇しくも『ゴーレム』を始動することになったので、自分で仕入れられる環境が整った。ただ、それだけでは存在感が薄いような気がして、隣国のニュージーランドを調べてみたのです。そしたら、氷河期時代に形成された粘土鉱物「ノントロナイト」があることが分かりました。ちなみにこのクレイは世界でも産出量が少ないです。所有者に連絡をしてみると、鉱山を購入したばかりで、粘土の特質を知らなかった。そこで、私が活用法をレクチャーする代わりに輸入させてほしいと交渉すると、承諾していただけました。
素材を追った先で、故郷の風景が重なった
── 『ゴーレム』を運営するうえで最も大事にしている点は? 「素材をそのまま使う」ということです。クレイを筆頭にオイル、アロマウォーターといったスキンケアに必要な原料をそろえています。なかでも、ティーシードオイルとの出合いは私の在り方を変えました。
── 何が起こったのですか? ティーシードオイルを求めて製造元の茶問屋『白形傳四郎商店』を訪れました。聞けば、茶の実オイルは手つかずになった畑を再活用する取り組みとして生まれたもの。静岡市近郊の茶畑では、後継者不足により耕作放棄地が増えているのだといいます。その試みに感銘を受けたと同時に、ふるさとである森町(静岡県)の茶畑を思い出しました。気になって、地元の方にたずねると、やはり同じ問題を抱えていました。
9〜11月に成熟する実は茶葉を生産する畑では目にしない光景だ
── 故郷の窮地を初めて知ったのですね。 そうです。10代の私は外の世界を見たい一心で、都会に出ました。離れてからは森町の情報を得ようともせずにいた。だからこそ、突きつけられた現実に胸を掴(つか)まれるような感覚があって。何かしなくては、と自然に思ったのです。
── 具体的にはどんなことを始めたのですか? 森町で荒廃茶園の整備を行う「南戸綿TMOプロジェクト」の村松英男さん、加代子さんと出会い、2025年秋には茶の実の収穫イベントを実施しました。年末にはオイルの圧搾にも挑戦。まだ始まったばかりで商品化には至っていませんが、いずれは地域の活性の一助になっていきたい。
30名ほどが集まった茶の実収穫イベントは、静岡県内だけでなく東京から訪れた人もいたそう
「南戸綿TMOプロジェクト」を進める村松加代子さん。森町にある休耕地の手入れをしている
── 今後の展望を教えてもらえますか。 アイテムを増やす計画はありません。一方で、国内で原料を生産しながら自社ブランドも運営する作り手とつながるプロジェクト「HERVEST TO HANDS」をはじめました。東京・神宮前にある『ゴーレム』のオフィスを拠点に、各地の素材と出合うイベントを開催していきたい。そしてゆくゆくは、各ブランドの原料の収穫を共に体験できる場をつくれたらと思っています。
GOLEM 粘土鉱物に魅せられた川端奈那が、2022年に東京で創業。ニュージーランドやオーストラリアのクレイ、茶の実オイルなど、原料そのものの力を生かしたアイテムをそろえる。自分のコンディションやなりたい肌に合わせて、手入れに使う素材を選び、カスタマイズできるラインアップが特徴だ。
photo: Tomoko Hagimoto(ポートレート)、HIMENO(畑、村松さん) text: Mako Matsuoka