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【安藤忠雄建築×ミシュラン美食】美術館のような京都の隠れ家ホテルThe Shinmonzen

京都・祇園白川に佇(たたず)む、スモールラグジュアリーホテル「The Shinmonzen(ザ シンモンゼン)」。わずか9室のひっそりとした外観の趣とは異なり、世界中からコニサー(目利き)たちがこぞって訪れる京都のHOT PLACEだ。 このホテル誕生も、オーナーの情熱がかなえたもの。真のラグジュアリーを知る人にこそ、ぜひ訪れてほしい一軒である。

安藤忠雄建築の真骨頂

こだわり抜いた、のれんの黒と藍のあわいの色に注目を

海外では、本当は人に教えたくないようなお気に入りのホテルを“hidden jem(隠れた宝石)”と称することがあるが、ザ シンモンゼンはまさにその例えがふさわしいだろう。

外観には、ホテル名を伝える標識は一切ない。京都の町屋を思わせる建物と「シンモンゼン」の頭文字である「S」を染め抜いたのれんがかかっているだけ。近くを歩いたことがある人なら、「ここは一体、どんな場所なのだろうか」と不思議に思うはずだ。

“京都の町屋を思わせる”と書いたのは、新築されたものだから。古くからそこにあるかのように、京都の風情に馴染(なじ)んでいるのは建材に絶妙なエイジングが施されているからだ。

手がけたのは、世界的建築家の安藤忠雄氏。オーナーから「伝統的な旅館の現代版」というお題をいただき、現在の姿に行き着いた。「意図したのは、古都の伝統を忠実に守りつつ、現代のライフスタイルにあるような空間を創ること。歴史と現代、未来の融合。そして、京都という地域を表現しつつ、世界に開かれた世界を創ることを目指しました。新たな古都の魅力を発見してほしい」と語っている。京都で最も美しいとされる白川の水の流れや煌(きら)めきを楽しめるような工夫も行ったそうだ。

館内は、現代アートと日本の骨董(こっとう)とが融合した空間

のれんの「S」の字も、安藤氏が自ら筆をとった。同様に、のれんの地も黒と藍の狭間のような色合いと透け感を細かく指定し、完成された。

現代の数寄者ともいえるオーナーとは?

2021年に完成をみたザ シンモンゼン。コロナ禍にもかかわらず、たちまち口コミで評判は広がり、予約が困難なホテルに。今では、桜の季節をはじめ繁忙期にはリピーターですぐに満室になる。建築愛好家はもちろん、世界的な芸術作品を間近に見ながら滞在が楽しめるということで、アート愛好家に選ばれることが多い。

館内やサービスの詳細は、先に譲るとして、まずは、これだけのホテルを作り上げたオーナーに触れたい。

オーナーであるアイルランド出身のパディ・マッキレン氏は、投資家であり、世界的なホテル経営の第一人者で知られている。ロンドンの「クラリッジス」「ザ・コンノート」「ザ・バークレー」および、それらを傘下におさめるグループに始まり、現在は南仏プロヴァンスのワイナリー「シャトー・ラ・コスト」と敷地内のホテル「ヴィラ・ラ・コスト」を所有している。ザ シンモンゼンは、このヴィラ・ラ・コストの姉妹ホテルという位置付けになる。

イギリス人の著名な現代アーティスト、ダミアン・ハーストとマッキレン氏は親交が深い。桜の時期になると館内のアプローチに、桜を描いた作品が飾られる
photo: The Shinmonzen

ポール・セザンヌの故郷であるエクス・アン・プロヴァンスの歴史的な街と、有名なリュベロン地方自然公園の中間に位置するヴィラ・ラ・コストは、28室のヴィラ・スイートで構成される。広大な敷地に、バイオダイナミック農法を行うワイナリー「シャトー・ラ・コスト」はアートが共存する楽園だ。アートのエリアは「ヨーロッパ最大の屋外型美術館」ともいわれ、かの現代アーティスト、ダミアン・ハーストの特別展をプライベートに行える世界で唯一の場所だという。安藤忠雄氏は、シャトー・ラ・コストの設計にもたずさわっていた縁から、ザ シンモンゼンでも声がかかった。

館内に置かれた赤い椅子は、マッキレン氏がデザイン

ザ シンモンゼンの建築も、館内を彩る数々のアート作品も、こうしてマッキレン氏が個人的に築き上げてきたネットワークが生きている。古美術も含まれているが、ほとんどは新門前通の古美術商に通い詰めて集めたものだ。その年月は20年以上。すっかり、彼はこの地に魅せられ、10年以上かけて、地域との関係を深めたうえで、ホテルの創設への布石が打たれた。

館内に心地よさを生む珠玉のアートたち

こうして、マッキレン氏が時間をかけて大切に集めたアートコレクションが、惜しげもなく飾られているのがザ シンモンゼンの最大の魅力である。ダミアン・ハースト、杉本博司、ルイーズ・ブルジョワ、ゲルハルト・リヒターなど錚々(そうそう)たる現代アーティストの名前が連なる。それも、個人的にオーダーしたものなので、珍しい作風のものが多い。そうかと思えば、知り合いの無名のアーティストの作品や新門前通で見つけた古美術が並列されていて、発見がある。美術展でも、プライベートコレクションの展覧会ほど個性が出て面白いものはないように、選んだ人の感性が見えてきて興味深い。

各階に異なるアートが。右の絵画は、日本人アーティスト・大舩真言の「ステイケーション」
日本人アーティスト、清川あさみの写真と刺繍(ししゅう)糸による「LIFE-青春」
日本人アーティスト、名和晃平の作品

そして、建築は安藤忠雄氏。9室という限られた部屋数だからこそ、それぞれのアートとの距離も近いプライベート美術館に特別に宿泊させてもらっているエクスクルーシブ感は、他にはない体験だ。

まず、Sののれんをくぐって、一歩中に入ると奥へと続く、長いアプローチが現れる。“うなぎの寝床”と呼ばれる京町屋らしい演出だ。右は格子で、左はコンクリートの打ちっぱなしでいかにも安藤建築らしい。日中は格子を通した光が幻想的な雰囲気を醸し出し、別世界へと誘われるようだ。

アプローチの奥ではアートが迎えてくれる

空間演出も、オーナーのマッキレン氏の友人たちが手がけている。

アプローチを抜けると、明るい雰囲気の「ライブラリー」へと出る。宿泊者専用のラウンジにあたり、季節のドリンクやスイーツが無料で提供されている。アートに囲まれ、書棚に並ぶアート関係の書籍をめくりながら、ひとときのティータイム。窓に目をやれば、白川の流れは目の前で、なんとも豊かな気分にひたることができる。

ライブラリーの空間。左の壁にかかるのはダミアン・ハーストの「Spot Painting」
ベトナム人アーティスト、ティア トゥイ・グエンの刺繍作品

このライブラリーには24時間スタッフが常駐しているが、そのデスクもシャルロット・ペリアンの作品。ペリアンは、ル・コルビュジエと協業したことで知られる建築家であり、家具のデザイナー。その貴重な作品を、日常に使用しているところに、「アートを身近に感じてほしい」というマッキレン氏の思いが息づいている。

日仏のおもてなし美学が融合した全室スイートルーム

テラスでは、時間ごとに異なる風景が楽しめる
テラスに用意されている草履

ザ シンモンゼンは4階建ての構造で、客室は9室。意匠はそれぞれ異なるが、全室スイートルームでバルコニー付きというのは共通している。白川が眺められるバルコニーには、テーブルとチェアが備えられていて、ルームサービスの朝食をここで楽しむこともできる。東向きのため、朝日が心地よい。

部屋に入ると、ホテルのパティシエによるウェルカムスイーツとフルーツ、季節のウェルカムドリンクが用意され、旅の疲れを癒やしてくれる。ソファにゆったりと腰を下ろして、一枚板のテーブルに置かれた軽食で小腹を満たしながら、これからの旅の計画を立ててはいかがだろうか。

花と特製スイーツのお迎えがうれしい
リビングエリアには、部屋ごとに異なるアートが掛けられている。写真は、イギリス生まれのアニー・モリスの「グリッド11」。一枚板のテーブルもイギリス生まれのポール・ロンブレのもの

寝室には障子があり、フローリングと畳を調和させたしつらいが旅館のような趣で心和む。バスタブは香りがよい檜(ひのき)風呂で、洗面台はフランスから直輸入した大理石と、東洋と西洋の素材が美しくミックスされている。

朝は、障子から朝日が柔らかく光が差し込み、目覚めも爽やか

調度品は、プラスチックフリーで、竹、石、漆などの自然素材が選ばれているが、これはエコの視点だけではなく、自然には神々が宿るという日本古来の考え方に基づくものだ。京都の老舗の職人技も生きている。アメニティが収められた竹のボックスは、老舗の竹工房「公長齋小菅(こうちょうさいこすが)」、組み紐は「伊藤組紐店」が制作した。

日本の伝統の職人技で作られたアメニティボックス

リネンはオーガニックでヴィラ・ラ・コストのものと同じものを使用。歯ブラシも竹素材で、サステナブルへの配慮も忘れていない。

机の上に、京都の黒谷和紙製のロゴ入りメモとペンが置かれているのは、「ここからアーティストが生まれるかもしれない。アートが生まれるときは、紙とペンが必要」というマッキレン氏の思いからというのがユニークだ。

メモが置かれたデスク。このデスクとチェアも、ベトナム人デザイナー、ダレン・チュウの作品

ミニバーのドリンク、お茶、お菓子はすべてフリー。ザ シンモンゼンのオリジナルの味もあり、目移りしてしまう。全室バリアフリーのデザインというのもうれしい配慮といえる。

ミニバーに用意されている水は京都のもので、2種類ある。一つはスパークリングウォーターだ
ミニバーのお菓子は、チョコレートやおかきなど、部屋で一杯というときのアテになりそうなものが多い
鍵は桜のモチーフにSの文字が組み合わされたデザイン。周辺のマップもあるので、この地図を片手に散策しても

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