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戦後の長崎を描いたカズオ・イシグロ『遠い山なみの光』が広瀬すず主演で映画化。石川慶監督が語る制作秘話

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

映画『遠い山なみの光』が9月5日(金)に公開される。原作は、ノーベル文学賞受賞作家であるカズオ・イシグロが1982年に刊行した長編小説デビュー作だ。自身の出生地・長崎とイギリスを舞台に、ある女性が胸に秘めた戦後の記憶を辿(たど)る。監督を務めるのは、『ある男』(2022年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞など8部門を受賞した石川慶。主演の広瀬すずほか、二階堂ふみ、吉田羊、松下洸平、三浦友和らをキャストに迎えた。戦後80年を迎えた今年、1980年代に書かれた物語をどうスクリーンに描き出すのか。石川監督に聞いた。

40年前の小説を映画化するうえで変化させた視点

──本作の企画はいつ頃から始動したのですか。

今朝メールを確認したら、始まりは2020年9月1日でした。ちょうど5年前ですね。もともとカズオ・イシグロさんの作品を愛読していて、いつか映画化に挑戦したいと思っていました。実現できるかどうか未知数でしたが、まずはプロットを書いてお送りしてみようと。

──刊行から40年を経て映画化するうえで、プロットではどのような提案をされたのでしょうか。

今の観客に届けるにあたって、40年を埋める必要があります。原作は、長崎で原爆を経験し、戦後イギリスに渡った悦子の語りに近い形で展開しますが、今、映画化するなら、80年代を生きる悦子の娘・ニキの目線で物語を描いたほうがよいのではないかと。それで、ニキが母親の記憶から何を発見していくのかを軸にしました。

小説をうまく要約したところで、イシグロさんはいいとおっしゃらないだろうと思うんです。現在の日本で生きる自分がどういうものを作りたいのか、プロットから見えている必要があります。イシグロさんはニキの視点で描くことについて「すごくいいね」と言ってくださって、そこから進んでいきました。

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

──世界中に読者がいる作品を映画化することに、プレッシャーは感じましたか。

基本的に、原作ものはアウェーでサッカーの試合をやるような感覚があります。原作のファンの方々にいろいろ言われてしまうだろうというのは覚悟のうえです。でも、誰よりもこの原作を読んでいるし、誰よりも行間を読んで考えていると思えるくらい読み込む。そういった原作へのリスペクトを拠りどころにしています。

一方で、原作に忖度(そんたく)しすぎると映画は絶対にいいものになりません。いい小説から悪い映画ができることは多い。イシグロさんからは「これはあなたの映画なので、あなたがこう思うということがあれば、それが正解です。そのまま進みなさい」というふうに背中を押していただきました。

──カズオ・イシグロさんは本作にエグゼクティブ・プロデューサーとして参加されています。どのように関わっていらっしゃるのですか。

原作者がエグゼクティブ・プロデューサーとして入るのは、海外の小説を映画化する際には、結構よくあるケースなんです。ただ、イシグロさんはものすごいシネフィルの方で。実際にお会いすると、日本映画の話が止まらないんです。小津安二郎や成瀬巳喜男の影響も感じられる。そういう面もあって、個人的にとてもサポートしていただいた感覚がありますね。

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