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「映画とは何か」「表現とは何か」真摯に向き合い続けるジュリエット・ビノシュ

今年5月、カンヌ国際映画祭の審査委員長を務めたフランス人俳優ジュリエット・ビノシュ。1985年の初参加から40年を経て、彼女は改めて「映画とは何か」「表現とは何か」に向き合っている。グローバルに活躍する一方で、社会的な声にも敏感に反応する姿勢、そして俳優としての飽くなき探究心は、今なお進化を続けている。審査委員長としての視点、ドキュメンタリー映画制作の舞台裏、そして彼女の“変わらない信念”について聞いた。

ジュリエット・ビノシュ
photo: Damon BAKER
realization: Jeanne LE BAULT
hair: John Nollet
make-up: Céline Planchenault
manicure: Magali Sanzey
styling assistant: Sonia Montout
photo assistant: Célia Marjolet, Louis Chauvet
production: Maximilien Dupont, Guillaume Pennec
Canvas jacket, cotton shirt, pants, belt: Prada
Ethical gold Ice Cube earrings and clip-on earrings: Chopard

1985年、アンドレ・テシネ監督作『ランデヴー』で初めてカンヌに姿を現したジュリエット・ビノシュは、当時まだ無名の若手俳優だった。「何もかもが新しくて、写真を求められて浴槽の中でポーズを取ったり、海辺でふざけたりしてた。ただ雰囲気に身を任せていたの」と笑う。

ジュリエットは「私はカンヌで生まれたの」と語る。ミヒャエル・ハネケ、オリヴィエ・アサイヤス、アッバス・キアロスタミ、ホウ・シャオシェンなど、名だたる監督たちとの作品で幾度となくカンヌに戻り、2010年には女優賞も手にしている。だが、その歩みは栄光だけでなく、挑戦と対話の連続だった。

「審査はジャッジする場ではない。耳を傾けること、対話することが大切なの」。そう語る彼女の姿勢は、俳優としてのキャリアにも通じている。2010年の授賞式では、イランで収監されていた監督ジャファル・パナヒの名を記したプレートを壇上で掲げて話し、3日後に彼は釈放された。「意図して政治的だったわけじゃない。ただ、心からの行動だったの」

ジュリエット・ビノシュ
ジャケット、パンツ(ともにロエベ/ロエベ ジャパン クライアントサービス) ブーツ(プラダ/プラダ クライアントサービス)リング、イヤリング、イヤーカフ(すべてショパール)
photo: Damon BAKER

今、彼女が力を注いでいるのが、自身初の長編ドキュメンタリー制作だ。振付師アクラム・カーンと2008年に制作したダンス作品『In-I』とその舞台裏を記録した『Creating In-I』の2作品を同時に編集している。

「俳優のロバート・レッドフォードが『これは映画にすべき』と言ってくれたのが始まり。妹と一緒に37日間撮り続けた映像と、150時間分のリハーサル映像を使って、2本の映画を同時に仕上げているの」

「編集作業はセラピーのようだった。カメラは顔や表情、呼吸や汗までも捉える。舞台では見えない“真実”を映したかった」と語る彼女にとって、映画とは最も生々しい表現のかたちだ。自分の中に生まれる衝動を、外に向けて動かす。その過程こそが、演技であり、踊りであり、生きることそのものなのだ。

ジュリエット・ビノシュ
カンヌ国際映画祭2025でオフィシャルパートナーを務める「ショパール」のジュエリーをまとって登場したジュリエット・ビノシュ。オープニングセレモニーではシャンデリアのように流れるダイヤモンドイヤリングを着用
© Chopard

ジュリエット・ビノシュが尊敬する元女性審査委員長はノルウェーの俳優・映画監督のリヴ・ウルマンだ。「彼女の作品と公私ともにパートナーだったイングマール・ベルイマン(映画監督)との関係は、私にとって大きな学びだった」と語りながら、「女性が審査委員長を務めることを“特別な出来事”として祝う風潮には違和感がある」とも話す。「私が女性として8人目の審査委員長であることを喜ぶよりも、それ以前に70人以上の男性がこの役を務めてきた事実を見つめるべき」とジェンダーの単純化には距離を置く。

現在も彼女は表現者として挑戦を続けている。ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」をリメイクした、ウベルト・パゾリーニ監督の『The Return』ではオデュッセウスの妻のペネロペ役を演じ、古代神話を現代に重ねた。「失われた島で権力と愛が崩壊する世界を描き、今の時代にも通じる物語。ペネロペは暴力を憎みながら、夫の帰還を待ち続けた」

ジュリエット・ビノシュ
クロージングセレモニーでは「ショパール」のダイヤモンドのフープピアスを着用
© Chopard

そして、カンヌ閉幕の翌日からはギリシャ・エピダウロスでの舞台公演の準備に入る。「いつだって、すべてに“イエス”と言い続ける覚悟があるの。そうでなければ、役者という仕事は成立しない。自己を捧げるからこそ、誰かの心に届くのよ」

“表現する”とは、即ち自分のすべてを懸けること。ジュリエット・ビノシュのその姿勢は、私たち観る側にも真摯さと勇気を問いかけてくる。

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Profile

ジュリエット・ビノシュ

1964年3月9日生まれ、パリ出身。1983年に映画デビューし、『トリコロール/青の愛』(1993年)でヴェネツィア国際映画祭女優賞、1996年『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー助演女優賞、2010年『トスカーナの贋作』でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞し、世界三大映画祭すべてで女優賞を獲得。舞台や社会活動にも積極的で、2025年カンヌ国際映画祭では審査委員長を務めた。

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