「ヴァシュロン・コンスタンタン」の創造性溢れる最新作
「ヴァシュロン・コンスタンタン」は4月にスイスで開催された「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(W&WG)」で、“エジェリー”のコンセプトモデルとなる“エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイム”と、100本限定生産の“エジェリー・ムーンフェイズ”を発表した。いずれの新作もメゾンが2018年より掲げる「One of Not Many(少数精鋭の一員)」のメンバーである、オートクチュールデザイナーのイーキン・インとのコラボレーション。開発にかけた想いを、プロダクトマーケティング・アンド・イノベーションディレクターを務めるサンドリン・ドンガイにW&WGの会場で聞いた。
“エジェリー”から2つのタイムピースが誕生
オートクチュールデザイナー イーキン・イン
2020年に女性のためのコレクションとして誕生した“エジェリー”は、「オートクチュールと高級時計製造」が融合された華やかなコレクションと形容されてきた。今回、イーキンとの協業によって生まれた“エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイム”は市場に出ないコンセプトモデルだが、そこに「パフューム」という要素を融合して、コレクションの歴史に新しい1ページを加えた。
熟練調香師のドミニク・ロピオンが、イーキンとの対話を重ねながら創作した香りをナノカプセルに閉じ込め、それをマザーオブパールの小片がちりばめられたストラップに組み込んだ。そうすることで手首の動きに応じ、淡い芳香を放つ。「香りという特別な思い出を時の中に刻むことができた」とドミニクはコメントを残している。
直径37ミリのピンクゴールドのケースを58個のダイヤモンドが縁取り、ライラック色のマザーオブパールのダイヤルが優美さを引き立てる。
一方、“エジェリー・ムーンフェイズ”は3本の付け替え可能なストラップが付属し、100本限定で生産。繊細なプリーツ模様が施されたダイヤルは、イーキンが創作するオートクチュールのスタイルを思わせる。
2時位置にリュウズとムーンフェイズ、8時位置には「VACHERON CONSTANTIN」と配され、メゾンが本コレクションにおいて大切にする「非対称性」を表現。ピンクゴールドのケースに自社キャリバーを搭載し、シースルーバックからマルタ十字をかたどったゴールドのローターを含む精密な機構を鑑賞することもできる。
「私の直感的な創造性を、厳格な時計製造の現場に吹き込み、時間から解放された感情を掻き立てるような作品を目指した。私の伝えたかった、時の寛大な力強さを表現することができたと思っている」とイーキンは今回の創作の過程を振り返りながら話している。
〈左 〉“エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイム”[ケース: PG×ダイヤモンド、文字盤:マザーオブパール×PG×ダイヤモンド、ケース径37㎜、ストラップ/バックル: マザーオブパールの小片と香りのカプセルを入れ込み、シルク糸の刺繍で飾られたカーフスキンストラップ、機械式自動巻き]非売品 〈右 〉“エジェリー・ムーンフェイズ”[ケース: PG×ダイヤモンド、文字盤: マザーオブパール×PG×ダイヤモンド、ケース径37㎜、ストラップ/バックル: ライラック色のミシシッピアリゲーターレザー、パウダーピンクのグレイン仕上げカーフスキンレザー、ミッドナイトブルーのサテン仕上げカーフスキンレザーの3本の付け替え可能なストラップが付属。各ストラップにPGのピンバックルを装備、機械式自動巻き]¥6,160,000[予定価格、100本限定、個別シリアルナンバーを刻印](ともにヴァシュロン・コンスタンタン)
異なる分野の才能を発見し、結合することで革新的な作品へ
オートクチュールデザイナー イーキン・イン
私の仕事は点と点を結び付けて、新たなクリエイションの地平を切り開いていくこと――。「ヴァシュロン・コンスタンタン」で製品開発の責任者を務めるサンドリンはそう話す。つまり、こういうことだ。彼女は異なる分野のクリエイティブな才能という「点」を発見し、それらを注意深く結合することで革新的な作品にまとめ上げていく。
今回発表した“エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイム”もメゾンの強みである精密な高級時計製造の伝統と、イーキンが創造する華やかなオートクチュールの世界、そしてドミニクによるパフュームの複雑な調香が絶妙に融合し、「ヴァシュロン・コンスタンタン」にしか作ることのできない革新的な1本に仕上がった。
調香師 ドミニク・ロピオン
しかし、なぜパフュームなのか? 「香り」と「時」は一見無関係のようだが、いずれも目には見えず、ある瞬間に強烈な記憶を蘇らせるという共通点があるという。サンドリンの話を聞いていて、「プルーストの『失われた時を求めて』のよう」とつぶやくと、彼女も優しくうなずいた。小説の冒頭、主人公の少年が紅茶に浸したマドレーヌを口にした瞬間、昔の記憶が鮮やかに蘇る一節があるからだ。
化粧品業界や他の時計メゾンなどでキャリアを重ね、2018年に「ヴァシュロン・コンスタンタン」に入社したサンドリンにとって、2020年に誕生した“エジェリー”コレクションは、とりわけ思い入れのある時計だという。「機械式時計は男性のものというイメージが強いけれど、メゾンは19世紀末から女性のための腕時計製作に創造性を発揮し続けている。“エジェリー”もそのDNAを確実に受け継いでいる」
ヴァシュロン・コンスタンタン プロダクトマーケティング・アンド・イノベーションディレクター サンドリン・ドンガイ
そうした“エジェリー”の輝かしい歴史に新しいページを書き加えるために力を借りたのが、「One of Not Many」のタレントでもあるイーキンだった。「彼女が時計製作の技術的なリミットに馴染みのなかったことが、かえってコラボレーションを豊かなものにした」とサンドリンは振り返る。
実際、イーキンによるオートクチュールでの優雅なフォルムや繊細な色合いの探求が“エジェリー・ムーンフェイズ”の随所に息づいている。「例えば、ダイヤルに用いられたライラック色のマザーオブパール。プリーツ模様が施され、光を複雑に反射する色合いは、イーキンのドレスに用いられる優しいパステルの色合いを思い出させるはず」
「そんな“エジェリー”の新作に込めた私たちの想いや美意識を、日本の女性たちは直感的に理解してくれるのが何よりもうれしい」とサンドリンは話す。「マニュファクチュールとオートクチュールのデザイナーが協力することで生まれた新しい“エジェリー”の魅惑的な世界を一人でも多くの女性に体感してほしい」
photos: ©VACHERON CONSTANTIN text: Naohiko Takahashi
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