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Lifestyle

47歳で作家デビュー。ベストセラー作家・青山美智子が描きたかった「見えないつながり」

『木曜日にはココアを』(宝島社)でデビューしてから、その温かい読了感で多くのファンを増やし続けている作家の青山美智子さん。11月に発売されたばかりの新刊『月の立つ林で』(ポプラ社)で「コロナ禍で感じた空気感をどうしても書き残したかった」という思いを語る。

「月」に込められた見えないつながり

——長年勤めた病院を辞め転職活動をする元看護師、宅配員をしながら夢を諦めきれない芸人、突然結婚した娘との心の距離に悩む父親、親から離れて早く自立したいと願う女子高生……etc. 『月の立つ林で』は、どこか閉塞感のある日々を送る登場人物たちが、「見えない存在=新月」をテーマに展開していく物語である。

「もともと、コロナ禍で感じた先が見えない状況を書き残したい、という気持ちがありました。とはいえコロナそのものよりも、例えば水道の蛇口をひねると水が出たりとか、スイッチを押すと電気がついたりとか……。家にひとりで居ても、その先に見えないたくさんの人がいて、その誰かとつながっている、ということを題材にしたいと思ったんです」(以下、青山美智子さん)

インタビューに応じる作家の青山美智子さん

——見えない誰かに支えられて日常が回っている。そのことについて書きたい思いを編集者と話しているうちに、“見えないけど確かにいる存在=新月という考えに行き着いたそう。

「私、昔から月が好きなんです。太陽と違って、月っていくらでも見ていられるんですよね。特に新月は、その姿は見えなくてもそこに存在してくれているものであって、満ち欠けの始まり。まるで、コロナ禍で感じた人との距離のように思えました」

——近くにいても見えない存在として描かれているのが、家族のストーリー。作品の中で描かれる姉と弟、父と娘、娘と母親、妻と夫との関係にも、思わず心震えるシーンがたびたび登場する。

「宅配便(置き配)やポッドキャストのように、その姿を見ることがないから見えないというのも一つのテーマではあったのですが、家族のように近すぎて見えないというのも、隠しテーマではありました。あまりにも近すぎて、居ることが当たり前で見えないということも書きたかったんです」

コロナ禍で、恵みの雨と感じたSNS

——作品の中で、登場人物たちはみんな月に関する語りのポッドキャストに耳を傾ける。青山さんがコロナを通して感じたもう一つの見えないつながり、それは“SNS”だった。

「コロナ禍で急速に進んだものとして、SNSやITがありますよね。ZOOMもそう。それらも書き残したいと思いました。5年前だったらきっと違っていたし、5年後にはもっといろんなものが出てきたりするんだろうなぁ、と。なかでも、ポッドキャストは“耳”のSNS。動画や画像、文字があふれるSNSの中でひときわ新鮮に感じて」

——まるで月のように日々変容していく時代の中で、SNSやITの進化は必然だった、と振り返る。しかし、SNSには見えない誰かと簡単につながれる一方、恐ろしさもある。それを青山さんは“海”に喩えた。

「SNSって海のようなものだと思うんです。深く入っていくとおぼれちゃう。でも波打ち際にいると平和でこんなに楽しいことはなくて。『いいね』ひとつで、その瞬間だけでも私のことを考えてくれたのかなとか、すごく救われたりします。生きていて人と直接会える機会なんて本当に限られている中で、世界中どこにいてもゆるくでもつながれるSNSというのは、今の時代のメリットだと思うんです」

関連情報

  • 『月の立つ林で』(ポプラ社) 定価¥1,760

    自分の生き方に迷いを感じたり、身近な人との関係に悩んだり……つまずいてばかりの日々を送る登場人物たちがそれぞれ共通して耳にしたのは、タケトリ・オキナという男性が月について語るポッドキャスト『ツキない話』だった。
    「月の立つ」というのは、新月を表す言葉。彼ら自身も、彼らの思いも満ち欠けを繰り返し、似ているようでまったく違う新しい毎日を紡いでいく…。







Profile

青山美智子

1970年生まれ、愛知県出身。横浜市在住。大学卒業後、シドニーの日系の新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入る。『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』で2021・2022年本屋大賞ともに第2位を受賞。
Twitter@michicoming

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