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ファッションデザイナー皆川明さん 服作りと料理や器の関係は?

魚もテキスタイルも、向き合うのが楽しい

――2014年に「今日のまかない」(マガジンハウス刊)も出版。皆川さんが作るまかない料理を紹介しています。料理がお好きなんですか。

得意というより好きです。20代後半に魚市場で働き始めてからです。両親が共働きだったこともあるのでしょうが、料理に無頓着でした。自分もさほど関心がありませんでしたが、魚市場で働き、そして自分のブランドも少しずつ始まっていたことで、素材への関心を持つようになったんです.

――料理はお上手だったんですか。

食べられるものを作っていたといったほうがいいかも。人生の急展開ですが、突然のきっかけで急にはまりました。陸上以外で初めて強い関心を持ったんです。それが料理の魚であり、テキスタイルであり、素材と向き合うのが楽しいって思いました。

――だんだん料理にはまっていった?

たぶん釣りをする人が自分でルアーや釣り竿を作ったりするというようなことなんでしょう。趣味が細部につながっていきました。器もそうです。

エッセー&写真集「おいしい景色」
サンマの炊き込みご飯(左)と卵サンド(写真・日置武晴)

――新刊の「おいしい景色」は意外なものを料理の器として使うという、驚きがありましたね。

アートピースに近いようなビンテージの器を使ったりもしました。サンマの炊き込みご飯は沖縄の大嶺實清さんの器を使いました。縁に大きな亀裂がはいったものです。普通にいえば、作品にならないかもしれない。でも勢いがあってすばらしく、これはあらなど魚で捨てられてしまう部位とかを塩焼きとかに合うかもと思っていました。

――陶芸家の安藤雅信さんの壁掛けも器として使っています。

ふだんは壁にかけている陶板ですが、卵サンドの四角い感じと合わせると面白いと思いました。周りに庭の草をおいて、鳥の巣みたいにしてみようと考えました。

服も食も心地よさを考える

――料理と器の関係は、服作りと何か共通する点があるのでしょうか。

料理の記憶への関与はとても興味深いものがあります。その日食べてなくなってしまうことが、逆に洋服とか建築にも匹敵する強さがあると思っています。なくなるから記憶がなくなるのではなく、短い瞬間に強い記憶を生む。料理ってすごいなと思います。

きのこのペースト(写真・日置武晴)

――今、食べ物と出会うと記憶や思考に結びついていくのでしょうか。

例えば寿司屋に行って、とてもしっとりした白身魚に出会う。大将に、どんな風に仕込んだんですかという話を聞いたら、塩をふって昆布で寝かせて今日で10日目でしょうかねっておっしゃられる。お客さんに合わせて仕込みをするその様子を、自分たちの仕事にあてはめると何なのだろうとか、自分の人生だとどういうことだろうと思考する。いろいろ置き換えて考えるきっかけになっています。

――やはり仕事につながっていく?

僕は洋服をデザインするのがもちろん仕事ですが、自分はそれによってしか社会的な存在意義がないんじゃないかと思うんです。義務とか生活の糧のためにやっているというより、よりどころなので、どうしても自分に置き換えて考えます。

――「ミナ ペルホネン」は東京・馬喰町で食堂も開いているほか、皆川さんは音楽家の小林武史さんとともに、今秋、千葉県木更津市に宿泊施設「コクーン(COCOON)」をオープンさせます。食と関係した仕事も増えていますね。

よくいろんな分野でお仕事されますねと言われますが、僕にとって、視界はひとつ。分かれていません。服も食も家具も。暮らしのバランスが整っているか、心地よいかを考える。プラニングすべてがデザインだと思っています。

「おいしい景色」特設サイトはこちら

Profile

宮智 泉

読売新聞東京本社編集委員 四半世紀にわたってファッションを取材。ものづくりに携わる人が大好き。読売新聞の生活面に長く携わり、食や女性の生き方についても執筆。

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