為末大が語る『人とのつながりを生み、幸福感を高めるスポーツの力』

心身ともにリフレッシュするスポーツ。参加することも観ることも、ウェルビーイングを促進するといわれる。人との交流やスポーツを取り巻くカルチャーは、アクティブで楽しい時間をもたらす。トップアスリートとして活躍してきた為末大は、スポーツについて多角的な視点で発信している。人生を豊かにする向き合い方とは?

心身ともにリフレッシュするスポーツ。参加することも観ることも、ウェルビーイングを促進するといわれる。人との交流やスポーツを取り巻くカルチャーは、アクティブで楽しい時間をもたらす。トップアスリートとして活躍してきた為末大は、スポーツについて多角的な視点で発信している。人生を豊かにする向き合い方とは?
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為末大は現在、執筆活動などを通して、幅広い層に向けてスポーツのもたらす豊かさを伝えている。
「アスリートは引退後、選手の育成に力を注ぐ人がほとんどですが、僕はむしろ、スポーツにあまり親しみがない人たちを支援したいと思っています。たとえば、学生時代の体育でスポーツが嫌いになってしまった人は世の中にたくさんいると思うんです」
スポーツ庁が令和6年度に実施したスポーツ実施率に関する調査を見ると、20歳以上で週1日以上スポーツを実施する人の平均は52.5%。20~50代の働く世代は実施率が低い傾向にある。

「働いている頃は忙しく、仕事を引退された後、年齢的にも健康に関心が向いてスポーツを始める方が多いのでしょう。また、日本ではスポーツと学校教育の結びつきが強く、学校を卒業した後にやめてしまいがちです。『やるならちゃんとやらなきゃいけない』という意識が強く、気軽に取り組みづらい面もありますね」
なぜ「ちゃんとやらなきゃいけない」と思うようになるのだろうか。
「理由の一つとして、日本のスポーツ界は競争に重きを置いていることが考えられます。甲子園などもそうですが、日本ではトーナメント制が一般的で、勝ち上がらないと試合のチャンスを得られない。一方、ヨーロッパではトーナメント制はあまり行われていません。たとえばドイツでは高校までの全国大会が禁止されていて、地域の中で自分のレベルに応じた相手と試合をします。スポーツ人口のうち、五輪を目指すような人たちはごくわずか。競争よりもスポーツを通して楽しい経験をすることが、生涯運動を続けることにつながるのではないかと思います」
そもそもスポーツの定義とは何だろうか。実は明確に定まっていないと為末は語る。
「sportの語源は、ラテン語のdeportare。うさを晴らす、日常から離れるという意味があります。詩を詠んだりすることも含まれていたようです。『スポーツとは勝敗やルールがあり、指導者がいるものだと思っていた』という方が結構多いのですが、散歩で十分。大切なのは楽しいかどうかだと思います。健康維持のためだけに続けられる人もあまりいないでしょう」
日常的に体を動かすことの効用はさまざまある。第一に、体力の向上。体力があってこそ、あらゆる活動は維持される。
「文字を読む時にも、目の筋力を使っています。この筋力が衰えると、本や書類を読むのがつらくなってしまう。認知機能や知能にも体力は関係しているのです」
姿勢のゆがみによる肩凝りなども、体力があれば起きづらいと指摘する。
「いい姿勢を手に入れることが一番大事だと思います。我々の体に影響を与えているのは重力。重力に対して、効率のいいポジションをとることが重要です。人間は四足歩行から進化して今に至りますが、四足歩行の名残があり、完全な直立ではないといわれています。首の位置が少し前に出ていたり、腰も湾曲していたりするのです」
日頃の姿勢について、こうアドバイスする。
「年齢を重ねると、背中の面積が広く見えるようになっていきがちです。後ろから見た時に背中が小さく見えるように姿勢を正すといいでしょう。また、床に寝た時、自分の背面がなるべく地面につくのがいい状態。腰は誰でも少し浮きますが、みぞおちあたりまで浮いてしまっている人も。老いは姿勢に表れます。いつまでもピンとしていたいですね」
第二に、スポーツはメンタルにおよぼす影響も大きい。有酸素運動をすることで、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンなどの神経伝達物質が分泌されるといわれる。
「さらに、人とのつながりが生まれ、幸福感が高まるという面がありますね。健康状態は人間関係と関わりが深いと思います。健康診断の数値が問題なくても、孤独感が大きいと果たして健康だといえるでしょうか。孤独が寿命を縮めるという研究結果もあります」
運動に集中することで、気持ちがリセットされる面もある。
「運動をしている時は、目の前のことに集中せざるを得ません。すると、その瞬間は過去の後悔や未来の心配が頭から消える。僕自身も実感しているメリットです。それから、スポーツをするとなると、前日はお酒を控えるとか、体調を整えなければなりませんよね。そういうリズムが生まれるのも心身によいと思います」
自分に合ったスポーツを選ぶには、ウェアをはじめ、取り巻くカルチャーに着目するのもおすすめだという。
「そのスポーツの周辺にいる人々の雰囲気が好きとか、そういうことも大事だと思いますね。年齢を重ねてからダンスを始めるのもいいでしょう。姿勢もきれいになりますし、いろいろな種類がある。どんどんうまくなる可能性があり、終わりがない世界です。月に1日でも自分が楽しめるスポーツに取り組むと、人生の質が向上すると思います」
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©︎marie claire/text: Saya Tsukahara
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