個性を活かすモノづくり。資生堂の「共創型フレグランス研究」とは
2025.2.3
2025.2.3
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──資生堂の香り研究で、これまでにこのようなアプローチはあったのでしょうか?
「当社ではダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの取り組みを積極的に推進していこうという流れもあり、香料研究としても新たな試みとなりました。嗅覚は人による感じ方の違いが大きく、文化や経験、住んでいる環境にも影響されるため、髙城さんの意見は大変参考になります」(濵田さん)
資生堂は創業当初から日本人の香りの志向を追求し、花をテーマにしたフレグランスを展開してきました。その後、バラの一種にリラックス効果があるという研究をきっかけに、植物の香りの効果を探索するアロマコロジー研究が1984年からスタート。脳波の測定やヒアリングといったさまざまな測定によって、肌や心、身体への効果が続々と明らかになっています。香りは単によい香り、と感じるのみならず、さまざまな効能があるのです」(森下さん)

──研究に関わってほしいというお話を受けて、髙城さんはどう感じましたか?
「初めてのことで緊張しましたが、研究員チームが真摯(しんし)に研究していることを知り、役に立ちたいという気持ちが強くなりました。サンプルを受け取って、好き嫌いや香りの微差について意見を述べたりするうちに、少しずつ自信のようなものが芽生えてきたのを実感しています」

「彼女が自身の強みを活かして活躍する姿は、支援事業所から見学者が来るなど、同じような悩みを抱える人たちの励みとなっているようです」と話すのは、普段の髙城さんを知る花椿ファクトリーの多羅尾さん。
「髙城さんは嗅覚が敏感だからこそ、ひとつひとつの違いを見定め、言語化する能力に優れています。研究者として大変参考になるので、毎回たくさんのサンプルを持って行きましたね」と振り返る。(濵田さん)
「私たちのような開発研究を行っている研究員としては、実際に自分が手がけた研究が、人の役に立っている様子がわかるのが嬉しかったです」(幸島さん)
「今回の取り組みに参加して、髙城さんの積極的な姿勢や、想いを伝える力に驚かされました。香りを選ぶときに、『苦手な香りをあえて混ぜてみると、好きになれるかもしれない』と果敢にチャレンジする姿に驚くことも。嗅覚が研ぎ澄まされているから、わずかな違いを嗅ぎ分けることに長けていて、かつ違いを表現する言語的センスも優れています。生活のしづらさを感じているという事実も、ひとつの個性であって、決して特別なことではないということがわかりました」(森下さん)
「苦手な香りを避けていたとしても、いつかは向き合わなければいけないと常々感じていました。同時に、自分が感じたことは周りに伝わるとは限らないので、言葉に出して伝えることが大切だということも実感しています。好きになれる香りを見つけて、自分自身の変化や成長を感じられたのがうれしかったですね」(髙城さん)
「今回、嗅覚の過敏さという『困りごと』を強みとして捉え直し、長所として活かすことで新たな価値を生み出しました。この取り組みは、真にインクルーシブな社会を目指すなかで重要な一歩に。違いを尊重しつつも、線引きすることなく、働きにくさを感じている人がその人らしさを活かせる環境をさらに整えていければと考えています」(上田さん)

今回の共創から着想を得て、どこか懐かしさを感じる蜜柑をイメージした香りと、自然を想起させる檜をイメージした香りの2種類を開発。その香りが2025年1月22日に資生堂研究所のオープンイノベーションプログラムfibona(フィボナ)より数量限定・期間限定で発売された香肌晶(かはだしょう)で活用された。共創から生まれた思いの詰まった香りは、どこか心地よいお守りのよう。


text: Kiriko Sano photo: Tomoko Hagimoto
資生堂グローバルイノベーションセンター
2019年に横浜に設立された資生堂の研究開発拠点。都市型オープンラボとして開かれた研究機関を目指し、新たな価値を創出。2025年1月22日に5つのラボを持ち、肌・身体・心がつながる先進サイエンスの体験や情報発信を行う施設として、1、2階をリニューアルオープン。
花椿ファクトリー株式会社
2006年に設立され、全国に9つの拠点を持つ資生堂の特例子会社。生活や仕事のしづらさを感じている人たちが、個性を活かして働きやすい環境を整え、資生堂グループの製品の加工・セット作業や、営業サポートなどのオフィスサービス業務を行っている。
資生堂企業情報 サステナビリティ 社会
https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/society/
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