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「42歳からのシングル移住」作者に聞く! 東京から鹿児島へ。人生後半のサバイブ術

バツイチ・ひとり暮らし・フリーランス編集者の藤原綾さんが、人生後半を見つめ直し、生まれ育った東京を離れて鹿児島へ移住した体験記を綴ったエッセイ『42歳からのシングル移住』(集英社)が話題だ。移りゆく東京という地、ライフシフトの勇気と恐怖、改めて見つめ直した“生活”とは──?

東京生まれの東京育ち。43歳の誕生日に購入した家は、鹿児島県霧島市にある畑付きの一軒家。40年以上暮らした東京を出て、鹿児島での暮らしをスタートした藤原綾さんは、「死んだ私を見つけてくれるのは誰なのか」という問いに向き合い、人生後半を霧島で過ごすことを決意した。

東京の30年後を見据えて……「逃げ移住」を実行!

コロナの副産物として急速にリモートワークが進み、実際に東京から郊外や地方へ移り住んだ人も多くいる。「東京の生活に疲れた」「丁寧な暮らしがしたい」「自給自足的な生活がしたい」「のんびりカフェを営みたい」……etc. さまざまな理由があるだろう。藤原さんの移住理由は何だったのだろう?

「2016年に、モノづくりをしている人たちに“豊かさと価値観について話を聞く”というようなプロジェクトに参加させてもらって。東京R不動産を手がけた林厚見さんをはじめ、経営者の方や若い藍染めのチームなど、さまざまな人にインタビューをしたんです。

もともと大学で政治経済を学んだこともあり、政治や経済の動向については興味を持っていたのですが、その時はもっと社会がソーシャルグッドな方向へ向かって行きそうな兆しがありました。しかし、実際はスクラップ&ビルドのスピードが増し、街の個性がなくなり、貧富の差も激しくなっていって……」

「このままものすごい速さで格差社会が進む東京に身を投じて、誰かを踏みつけながら暮らしていっていいのだろうか……」。東京が二極化という競争社会に向かっていくのを、ひしひしと感じながら、藤原さんは考え始めていた。

「なので、移住を考えたのは“今後、きっと東京に疲れていく、という予測に基づいた私なりのサバイブ術”なんです。私は “競争”は苦手で、どちらかというと“協力”のほうが向いているというか(笑)。30年後を見据えて、地域共同体が生きている場所に移りたいと考え始めました」

『42歳からのシングル移住』著者の藤原綾さん。©chihiro. 

仕事の拠点となる東京を離れる恐怖は?

もともと全国の温泉を巡るのが好きで、いつの日かは移住したいという気持ちもぼんやりとあったそう。その“いつか”を“今”として実行しようと思った決定打は、ずばり“タイミング”だったと振り返る。

「世の中がコロナ一色になって、リモートが広がって。鹿児島出身の祖母が亡くなり、父も亡くなって、いよいよ『東京で暮らす意味ってなんだろう?』と考えるようになったんです。コロナでいろんな条件が重なった結果、本当にその意味がないのなら、もういなくてもいいんじゃないかな、と」

移住を決意してからは、物件を探したり、免許を取得したり。目的に向けて、目の前にある課題をひとつひとつクリアしていく作業に進んでいったそう。しかし、故郷であり仕事の拠点となる東京を離れることに、恐怖感はなかったのだろうか?

「所詮、未来のことなんて誰もわからないと思うんです。未来は今の積み重ねでしかなく、自分の中で東京に住み続けるという選択肢がもうないのなら、『とりあえずやってみよう!』という気持ちでいました」

移住先の条件に欠かせなかった温泉。「霧島新燃荘。山のほうに行くと硫黄泉があちらこちらにあり、町のほうは炭酸水素塩泉がいっぱい」(藤原さん)

40代でスタートした鹿児島生活。最も大変だったことは?

鹿児島での暮らしがスタートしても、仕事は東京のものがほとんど。現在も、月に一週間ほどは東京で過ごしているそう。東京と鹿児島、2つの拠点で生活する中で、最も大変だったことを尋ねると──。

「あえて言うなら、“時間の流れが違いすぎること”ですね。東京の仕事のスケジューリングは分刻みで、徹夜で仕事をすることもしばしば。メールの返信がその日中にできなければ、“仕事が遅い人レッテル”を貼られてしまう。無駄を省いていく一方で、スピードがとにかく速いんです。

一方の鹿児島では、今朝も近所のおばあちゃんが突然訪ねてきて、30分くらいお茶飲んでいってくれて。『筍をもらったんだけど、米ぬかがないんですよ』と話したら、『普通にお米でいいのよ』なんて生活の知恵を教えてくれたり。東京だったら、『そんなアポなしで来られても困ります!』とか言われたり、言ったりしちゃいますよね(笑)」

若尊鼻から見る桜島。「仕事で煮詰まったときは、海を見ながらぼーっとすることも」(藤原さん)

将来への不安は、東京にいた頃よりもむしろ減った

猛スピードで進む東京から離れて、仕事やお金、将来に対する不安はなかったのだろうか?

「将来への不安は、もちろん漠然とあります。仕事に関しても、東京にいた時よりも当然減っているので。ただ、収入が多い分消費も多いという大きいサイクルの中にいたけれど、今は収入も消費も抑えて小さいサイズで回っています。

それにもし今災害が起きたとしても、隣人が誰なのかわからない東京よりも、ここにいればみんな助け合うんだろうなと想像ができるので、やっぱり安心ですね。先のことは誰にも分からない。だからこそ、今最良だと思えることをやればいいのかなと。私の場合は東京にいた頃よりも、心の中にあった不安は確実に減っているんです」

関連情報
  • 『42歳からのシングル移住』(集英社)¥1,650
    バツイチ、子なし、ひとり暮らしの中年女性が人生後半戦を見つめ直し、生まれ育った40数年暮らした東京を離れ、鹿児島県霧島へ。戸建て物件探し、引っ越し、リフォーム、ご近所付き合い、畑仕事、仕事先の東京との往復を綴った移住ルポ。


    42歳からのシングル移住 移住ルポ シングル移住  

Profile

藤原 綾

ふじわら・あや。1978年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社を経て出版社に転職。ファッション誌の編集に携わった後、2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙と幅広い分野で編集・執筆活動を行う。
Twitter@ayafujiwara6868

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