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最古の時計メゾンの心臓部を特別取材 ヴァシュロン・コンスタンタンのジュネーブ本社工房の裏側

ジュネーブ郊外にあるヴァシュロン・コンスタンタン本社工房。右側の建物はメゾンのロゴにもなっている「マルタ十字」をモチーフにしている

現存する最古の時計メゾンとして知られるヴァシュロン・コンスタンタン。愛好家たちの根強い支持があるのはもちろんのこと、上品で装いやすいデザインの新作も多く、近年ジェンダーレスにファンのすそ野を広げている。特別に取材が許され、その本社工房の心臓部を訪ねた。

創業の地、スイス・ジュネーブ郊外のプラン=レ=ズゥアトという町にその本社工房はある。訪れたのは4月初め。空が透き通るように青く、アルプスの山々が近くに感じられる清々しい日だった。プラン=レ=ズゥアトはジュネーブの中心駅から車で25分ほど。人口1万人ほどの小さな町に名門時計メゾンの本社が立ち並ぶ。町に入るなり時計産業のエネルギーを感じるが、ヴァシュロン・コンスタンタンの本社工房は中でもひときわ大きく、威容を誇っている。

今回、本社工房を案内してくれたのは、ヴァシュロン・コンスタンタンの職人として長年活躍し、最近ではホスピタリティチームにてメゾンの魅力を自ら発信しているハイマーさん。ハイマーさんによると、ここでは約200人の職人が働いているという。

本社工房に入ってすぐの吹き抜け階段。ここにも美意識が宿る
本社工房に入ってすぐの吹き抜け階段。ここにも美意識が宿る

時計の心臓にあたるムーブメントを製造する部屋では、大勢の時計師たちが集中して自らの手先に向き合っていた。大きな天窓からの自然光とLED照明によって、明るさは均一に保たれている。より難しい工程を担えるようになるまでは平均して10年以上かかるようだ。経験がものをいうため、ここでは熟練の時計師から若手に対し、技の継承も行われている。一見すると肩の凝るような作業だが、観察していると、時折、会話が生まれたり、音楽を聴いて集中したり、意外にもリラックスした雰囲気であることに驚いた。

ムーブメントの製造を行う時計師たち。写真左手にある天井の大きい丸からは自然光が差し込む。 窓の奥にはアルプスの山々が見え、絶景が広がる。ハイマーさんいわく、いい景色が仕事に集中させ、 インスピレーションの源にもなるのだとか
ムーブメントを製造をする時計師たち。写真左手にある天井の大きい丸からは自然光が差し込む。 窓の奥にはアルプスの山々が見え、絶景が広がる。ハイマーさんいわく、いい景色が仕事に集中させ、 インスピレーションの源にもなるのだとか

一つの時計を構成する部品数は多いもので100以上もある。外から見えない内部の部品にも時間をかけてこだわっている。ヴァシュロン・コンスタンタンの時計に付される「ジュネーブ・シール」は完璧な時計の証しだ。

部品を丁寧に仕上げる時計師。外には見えない小さな部品だ
部品を丁寧に仕上げる時計師。外には見えない小さな部品だ

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ヴァシュロン・コンスタンタンを格別な存在たらしめているのが、エングレービングやエナメル装飾といった多彩な加飾技法における芸術性や技術の高さだ。もちろん、これもすべて専門技術を持った職人の手仕事。撮影は許されなかったが、特注のタイムピースにこうした加飾を施す仕事の様子を見ることができた。

エナメル装飾では、顔くらいのサイズの円形の見本を参照しながら、40mm前後の小さな文字盤にエナメルを塗り重ねていく。一つの文字盤のエナメル装飾が完成するのには3か月もかかるそうだ。塗布するエナメル素材そのものの希少価値も高いようで、エナメル師いわく、技術の高さだけでなく、どんなエナメル素材を持っているかも重要な要素だという。文字盤に使われる七宝は日本由来のものも多い。壁には様々な色合いの七宝が並んでいた。

エナメル装飾された文字盤とそのもとになる見本。繊細なタッチで時間をかけて塗り重ねる
エナメル装飾された文字盤とそのもとになる見本。繊細なタッチで時間をかけて塗り重ねる
壁に掛けられていた七宝の数々。色鮮やかで、見ているだけで楽しい
壁に掛けられていた七宝の数々。色鮮やかで、見ているだけで楽しい

アフターサービスにも一切の妥協を許さない。100年以上前の時計であっても修理を断ることは決してないという。時計師と修理師は職に就くためのカリキュラムが全く異なる。「修理師には枠からはみ出して考える力が必要」とハイマーさん。修理部門の部屋には古い機械や棚も並んでいた。充実したアフターサービスを提供するのは、有能な修理師を抱えている自信の表れだ。

修理部門の部屋にあった古めかしい機械や棚。その横では修理師が1875年製の時計を修理していた
修理部門の部屋にあった古めかしい機械や棚。その横では修理師が1875年製の時計を修理していた

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ハイマーさんの情熱に満ちた語りは止まらず、2時間の取材ツアーはあっという間に終了した。仕事中の職人たちの多くは、様子を見に行くと作業の手を止め、「私の仕事をぜひ見てよ」と言わんばかりにうれしそうに仕事を紹介してくれた。広い本社工房では、あらゆるところで「Ça va?」(フランス語で「元気かい?」)と明るい声が飛び交う。ヴァシュロン・コンスタンタンの中をのぞいて感じ取ることができたのは、時計づくりに対する情熱と自信、そして喜びであった。

柔らかい雰囲気の社員食堂。メニュー表にはスイス料理、フランス料理、地中海料理などが並んでいた
柔らかい雰囲気の社員食堂。メニュー表にはスイス料理、フランス料理、地中海料理などが並んでいた

ヴァシュロン・コンスタンタンは3月末に多数の新作を発表した。スポーティーな佇まいが人気の「オーヴァーシーズ」からは、小ぶりなサイズのステンレススティール製モデルが登場。レザーとラバーのストラップも付属し、自分で簡単に付け替えることができる。スタイリングに合わせて、違った印象を演出できるのがうれしいポイント。

「オーヴァーシーズ オートマティック」ピンク色の文字盤のモデル(左)には84個のラウンドカット・ダイヤ モンドがベゼルにセッティングされている。ケース径35mm、自動巻き、価格は要問合せ。ブルーの文字盤 のモデル(右)はミニマムなデザインがクールで上品。ケース径34.5mm、自動巻き、価格は要問合せ
「オーヴァーシーズ・ オートマティック」ピンク色の文字盤のモデル(左)には90個のラウンドカットダイヤ モンドがベゼルにセッティングされている。ケース径35mm、自動巻き。¥4,936,800(税込予価)ブルーの文字盤 のモデル(右)はミニマムなデザインがクールで上品。ケース径34.5mm、自動巻き、 ¥3,751,000(税込予価)、ブティック限定。

text: Shunya Namba

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