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【国際女性デー】境界を越えて躍進する女性アーティストの今 Part2:片山真理

世界各地で展覧会を開催し、国際的に注目される気鋭の女性アーティストたち。自分の道を切り開き、自身と世界を冷静に見据える彼女たちに、過去・現在・未来を聞いた。

片山真理 身体や社会と対話するセルフポートレート

片山真理は、自身の身体と装飾を施した義足、手縫いのオブジェを組み合わせたセルフポートレートで知られる。ロンドンのテート・モダン美術館に大学院の卒業制作《子供の足の私》《小さなハイヒールを履く私》を含む計61点が収蔵され、2023年10月から2026年1月にかけて展示された。現在は、同じくロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館でコミッションワークとなった《tree of life》5点が展示されている。

群馬のアトリエで(photo: Haruki Horikawa)

「テート・モダン美術館やヴィクトリア&アルバート博物館に展示されたことについては、正直に言えば、今でも少し距離を保ちながら受け止めています。私にとって重要なのは、『評価された』という事実以上に、個人的で未整理だった身体の感覚や問いが、時間や場所を超えて、他者の思考と接続し続けているということです。作品が私の手を離れ、公共の場で生きていることに、静かな実感を覚えています」

《I’m wearing little high heels / 小さなハイヒールを履く私》(2011)
大学院の卒業制作の写真作品がテート・モダン美術館に収蔵され、展示された
© Mari Katayama, courtesy of Mari Katayama Studio and Galerie Suzanne Tarasieve, Paris,Yutaka Kikutake Gallery.

創作の原点は幼少期にさかのぼる。裁縫好きの母と祖母のもと、針と糸でものを作り、水墨画が趣味の祖父に習って絵を描いた。9歳の頃に両足を切断し、義足との生活が始まる。肌の色に合う義足がなかったため、自分で色を塗るようになり、自然と絵を描き始めた。この絵が転機をもたらす。

「高校時代、小論文を書けずにいたら、先生が『その義足について書いてみては』と。書くと、今度は『美術の公募展があるから応募したら』と言うのです。文章が一次審査を通過すると二次に作品が必要になって、義足を使った作品を作りました」

そうして群馬青年ビエンナーレ’05に入賞。その後、東京藝術大学大学院で写真を中心に学んだ。現在までつながる表現はどのように生まれたのか。

「私の制作は手縫いのオブジェを作ることから始まります。元々、写真はそれらを説明的に見せるための手段で、身体はオブジェを見せるマネキンのような役割にすぎなかったのです。しかし、作品をインターネット上に公開し、他者の視線にさらされる中で、『誰が撮るのか』『誰の身体が写っているのか』『その像は誰のものになるのか』という問題に直面します。撮影者と被写体の間にあるパワーバランスや、イメージが所有されていく感覚への違和感が、セルフポートレートへと向かわせました。『自分自身の身体』が最も直接的に現実と接続できる素材で、『自分でシャッターを切る』という選択は立場を明確にするための行為でした。身体を差し出しながら、その関係性に責任を持つこと。そこに、この表現の動機があります」

自身にとってセルフポートレートは私小説的な表現ではない。

「私の身体は特別な物語を象徴するものではなく、社会的・身体的・感情的な条件が交差する場所です。そしてそれは、誰にとっても同じことだと考えています。セルフポートレートは、自分自身を主語にしながらも、『個人』に閉じるのではなく、社会の中で身体がどのように見られ、意味づけられるのかを問い返すための手段でした」

並行して取り組んできたのが、「ハイヒール・プロジェクト」だ。ジャズバーで歌手をしていた片山は、客から「ハイヒールを履かない女は女じゃない」と野次を飛ばされた。それを機に調べるうち、日本の社会福祉では装いの選択肢が非常に少ないことを実感する。そこで、すべての人に選択の自由が開かれることを目指し、ハイヒールを履ける義足を制作し、歩き、ステージに立った。

当事者に向けたプロジェクトとしての第一弾を経て、「セルジオ ロッシ」と協働する第二弾へ。セルジオ・ロッシ氏の「シューズは脚の延長である」という理念に片山が共鳴し、職人の手仕事で完全オーダーメイドの「Mari K」が完成。発信は広がっていく。

《high heels called Mari K #005》(2022)
イタリアのアドリア海沿岸部にある「セルジオ ロッシ」のファクトリーで、完成したハイヒール「Mari K」を履いて
© Mari Katayama, courtesy of Mari Katayama Studio and Galerie Suzanne Tarasieve, Paris,Yutaka Kikutake Gallery.

「私が知らない義足の情報も収集してくれ、何度も話し合ってテストして、デザインはもちろん安全性も両立した美しい靴が生まれました」

作品制作やプロジェクトを通して身体や他者、社会と対話してきた。現在、新作《tree of life》がニューヨーク、ロンドン、パリを巡っている最中で、この春に東京へやってくる。《tree of life》では、鏡張りの空間の中で身体やオブジェ、景色が反射、増殖し、どれが実体でどれが像か判別できない。

《tree of life #018》(2025)
© Mari Katayama, courtesy of Mari Katayama Studio and Galerie Suzanne Tarasieve, Paris,Yutaka Kikutake Gallery.
“tree of life #018” commissioned by the V&A Parasol Foundation Women in Photography project with support from the Parasol Foundation Trust.

「これまでの制作は『私の身体』が出発点でしたが、《tree of life》で身体はより関係的な存在として扱われています。自己を主張するのではなく、環境や他者、歴史や時間の中で、どのように生が編まれているのか、この10年で関心が移ってきました。『選択』や『所有』といった概念を、身体や社会、役割でどう引き受けていけるか。これはハイヒール・プロジェクトとも強くつながっています」

境界を越えて躍進する女性アーティストの今 Part1:江上越
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関連情報

Profile

片山真理

アーティスト。1987年、埼玉県生まれ。2012年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。木村伊兵衛写真賞ほか、多数の賞を受賞。最新作が各国を巡回中。
片山真理 個展:tree of life
2026年3月19日(木)~5月16日(土) Yutaka Kikutake Gallery Roppongi

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