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【国際女性デー】境界を越えて躍進する女性アーティストの今 Part1:江上越

世界各地で展覧会を開催し、国際的に注目される気鋭の女性アーティストたち。自分の道を切り開き、自身と世界を冷静に見据える彼女たちに、過去・現在・未来を聞いた。

江上越 虹色の線で描く人間の生命力

中国やドイツで学び、現在は制作拠点を日本、アメリカ、スイス、中国に持つ江上越。2021年、『Forbes Asia』が選ぶ「世界を変える30歳未満の30人」に選出された。代表作の肖像画シリーズでは、生命力を感じさせる大胆な線と虹のように鮮やかな色彩で人物の姿を描き出す。

書家で物理学者のJYを父に持ち、幼い頃から書やアートは身近で、人物の絵をよく描いた。中学生の頃に北京五輪が開催され、当時、中国の現代アートシーンの報道が増えたことが進路に影響したという。

「中国の現代アートは絵画が多かったんです。岸田劉生など日本の近代洋画が好きで、共通する部分を感じました。懐かしさもあればどこか違和感もあって、『これは何だろう、見てみたい』と。油絵は西洋で生まれたものですが、東洋的な油絵とは何なのか探究してみたいと思いました」

《川端康成》(2025)。JYの書と江上の油絵のコラボレーション。近代文学の作家たちを描いた

北京の中央美術学院に進学する。中国語で学ぶ日々のなか、言語コミュニケーションへの関心が高まっていく。

「『エガミエツ』と日本語の読み方で名前を伝えると、同級生が笑うんです。中国の東北地方の方言で『一袋の米』に聞こえると言うんですね。一つの言葉が音に還元された時、全く違うイメージになるのが面白いなと。そういう小さな隙間に無限のコミュニケーションの可能性があるのではないかと思い、『誤聴ゲーム』というプロジェクトを始めました」

さまざまな国の人に母国語以外で言葉を発してもらい記録するゲームで、インスタレーション《誤聴ゲームではない》に発展する。ミスコミュニケーションを題材に映像や絵画を制作し、「通じないこと」を可視化した。

「情報伝達のずれから、人間の本質や社会の構造を再考したいと思いました。個人の間であれば笑って済む話も、国家間など大きなコミュニティにおいては戦争や争いが生まれることもあるかもしれません。参加者の顔を描いた肖像画もあわせて展示しました。誤聴ゲームの参加者は悩みながら言葉を発しているので、表情や態度も大切な情報なのです」

その後はドイツのカールスルーエ造形大学へ。ディスカッションや社会調査を重視する授業が多く、新たな視座を得た。

「ディスカッションは結論が出ないことが多く、何をしているのだろうと悩みました。でも次第に物事を多面的に見ることが目的で、交わらなくてもいいんだと思ったのです。コミュニケーションのグレーゾーンでモヤモヤしてきたけれど、混ざり合わない平行線が美しいのだと」

その気づきが虹色の線で描く肖像画に反映され、代表作の「にじいろ」が生まれる。

《にじいろーバスキア》(2025)

「にじが持つ平行線は美しさ、多様性や希望の象徴でもある。描く時は骨に触れるようなイメージですね。認識とは何か、問いかけながら描いています」

線はつなぐものでも隔てるものでもあると語る。東洋絵画の真髄は線にあると捉え、近年、「生命線」「交差線」というタイトルで作品を展開し、線の豊かな可能性を示してきた。書と油絵のコラボレーションによって文豪や哲学者を表現し、言葉とイメージの関係性を模索してもいる。

「言葉はとても面白いですね。森羅万象をカテゴライズするけれど、氷山の一角でしかないのです」

昨年は韓国のOAR現代美術館の開館に際し、「大地の響き」をテーマに展示を開催。この制作が、自身をまた新たな方向へ導いている。

「6メートルほどの大きな作品で、女性たちを描きました。にじの中で踊り、皮膚の色はわからない。肖像画から身体的な表現に関心が向かっています。線が持つ身体性や時間性があり、絵画は止まっているようで止まっていません。ダンサーを最近描いていて、女性の持つ生命力を絵で表現したいという気持ちが大きくなっています。線は自然と強くなり、よりしなやかに変化していますね」

韓国OAR現代美術館開館展「江上越個展:大地の響き」

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Profile

江上越

アーティスト・杏林大学医学部客員教授。1994年、千葉県生まれ。2021年にForbes Asiaが選ぶ世界を変える30歳以下の30人、「アジア太平洋U30優秀若手リーダー2024」に選出。2024年、「ミス ディオール展覧会」で作品を展示、「DIOR」に収蔵された。ドイツのカールスルーエ州立美術館など世界各地の美術館に作品が収蔵されている。最新作品集は『交差線』。3月にはアート・バーゼル香港2026にて作品を展示。同時期に香港のTang Contemporaryにて個展開催予定。

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