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ヒゲの生えた実在の女性を描いた『ロザリー』、気鋭監督が明かす女性であることの苦労

第76回カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門に出品され、クィア・パルム賞にノミネートされたことでも注目を集めた話題の映画『ロザリー』。日本ではいよいよ5月2日より、公開される。

本作で監督を務めたのは、前作『ザ・ダンサー』(2016)で高い評価を得て、鮮烈なデビューを飾ったステファニー・ディ・ジュースト。フランスに実在した「ヒゲの貴婦人」と呼ばれた女性からインスピレーションを得て脚本を書き上げ、コンプレックスに悩む女性たちに贈るエンパワーメント・ムービーを完成させている。今回は、制作の裏側や女性監督としての苦労、そして日本に対する思いなどについて語ってもらった。

ステファニー・ディ・ジュースト
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──「ヒゲの生えた女性」として有名だったクレマンティーヌ・デレという女性に心をつかまれたことが本作制作のきっかけとのことですが、どういった部分に惹(ひ)かれたのでしょうか。

当時、私は父親を亡くして、本当に深い虚無感と焦燥感に襲われていました。そんなときに目にしたのが、クレマンティーヌ・デレの写真。彼女の顔を見た瞬間に、彼女の精神状態を表現したいというふうに感じました。「この人はどういう女性なんだろう?」という問いかけを自分にすることで、彼女の人間性を表現したいと思ったのです。

そこで、私はまずロザリーの人物像を作り上げていくことにしたのですが、クレマンティーヌを知るなかで惹かれたのは、彼女にしかない魅力や繊細さです。ただ、こういう女性を好きになって、愛することは1つの“チャレンジ”であるとも思ったので、男性からの視点も描けたらいいなと考えました。

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──ロザリーの人物像を作り上げるうえで、どのようなことを意識されましたか?

この映画において重要なのは、父親の目線。なぜなら、女性が生まれて最初に受ける男性の目線は父親から受けるものであって、それが自分をどういう女性か定義してくれるものだからです。私自身、父親がいない状態になったことで「自分はいったいどういう人間なんだろう」と改めて問いかけました。

そのほかに彼女の好きなところは、凡庸な見世物小屋で笑い者になることを拒絶し、女性として人生を生きると決めたこと。彼女は性に対しても執着が強い人だったので、そのあたりの描写も入れました。

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──脚本を書いていくなかで、こだわった部分についても教えてください。

最初にはっきりとお伝えしたいのは、本作はあくまでもクレマンティーヌから着想を得ただけで、彼女の生涯とは関係ありません。すべて私が無条件の絶対的なラブストーリーとして小説のように作り上げました。そして、クレマンティーヌは20世紀初頭に生きた女性ですが、本作では大人になった彼女が実際に体験した時代よりも少し前の1875年に設定しています。

なぜなら、1870年に起きた普仏戦争の5年後のフランスは暴力的な世の中で、戦争に負けたことによる恥ずかしさから人々は不信感を持ち、他人に対して大きな警戒心を抱いていたからです。さらに産業革命によって社会の画一化が行われていたので、こういった時代にこの物語を描くことはとても意味のあることだと考えました。

そして、いまも戦争のことを考えざるを得ない恐ろしい時代になっているので、そういう部分において現代とも共鳴するところがあるのではないかなと。こういう時代だからこそ、どれだけ人に寛容になれるのか、他人を愛することがどれだけ難しいことか、それが一番の“戦い”なのかもしれませんね。彼女が味わう感情には、羞恥心と暴力性が交ざっているので、経験するのは平凡な愛ではありませんが、むしろそれは愛以上のものだったと感じています。

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──劇中の時代に比べていまは多様性が重視されていますが、それでも偏見はなくなったとは言えませんので、ロザリーのようにコンプレックスを抱えながら生きている人は多いと思います。

確かにそうですね。ただ、いまはSNSのおかげで、自分の特殊性や違いを見せることができるので、それに関してはポジティブなことも増えたのではないでしょうか。とはいえ、SNSはすべての真実を伝えているわけではないですし、まだまだ偏見も支配的な考え方もたくさん残っていますよね。

SNSではクリック1つで人間を破壊することもできるので、自由がある反面、恐ろしい武器にもなるという意味では両刃(もろは)の剣だと考えています。自分の身を守るものを使って、簡単に相手を傷つけられるのは本当に危険だなと。昔から標準を超えるものをつぶそうとするのが“人間の本性”としてあるように感じています。

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──本作では、ロザリー以外の女性たちも女性であるが故に生きづらさを感じている姿が描かれていますが、ご自身もいまだに男社会とされる映画界で女性監督としての苦労を感じることもあるのでしょうか。

そうですね。「私は毎日戦っている」と言えると思います。特に女性監督がこういった野心的なテーマの作品を撮るときは、とても難しく、問題は増えるばかりですから……。1本目の長編を撮ったときは、まったく大変さを感じることはありませんでしたが、今回は非常に厳しい戦いでした。

時代は徐々に変わっているところなので、男女関係なくこういった難しいテーマの作品をスムーズに撮れるようになってほしいと願っているところです。現実は簡単ではありませんが、女性であることは“永遠の戦い”のようなものかもしれないですね。

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──前作で感じなかった難しさというのは、具体的にはどういったことが挙げられますか?

本作のプロデューサーは私の側に立って擁護してくれましたが、映画のテーマを発表したときから、周りの人たちは恐怖心を持ち、まったく支援してくれませんでした。なぜなら、題材が“タブー”とされているものだったからです。これまで隠していた部分を私が世の中に見せようとしていたので、そこに対する圧力のようなものもありました。

そういったことに対して私はずっと戦ってきましたが、最終的にカンヌ国際映画祭でも上映され、世界中の方々に観ていただくことができたので、本当によかったです。この映画は存在しない可能性もあったというのは、知っていただけたらと思います。

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──そういった裏事情には驚かされますが、そのなかでも監督の意思や作品の核となる部分を主演のナディア・テレスキウィッツさんが見事に表現されていたと感じました。彼女を抜擢(ばってき)したいきさつなどについてお聞かせください。

まず、今回時間がかかったのはキャスティング。たくさんの俳優たちに会いましたが、ヒゲをつけるとイメージが変わってしまう女性ばかりで、誰一人として私を納得させてくれる人がいませんでした。そんなときに、道端で偶然出会ったのが前作『ザ・ダンサー』にも出演してくれたナディアです。コロナ禍だったこともあって、マスクをしていたのですが、彼女の印象的な大きな目を見てすぐに気が付きました。

カメラテストに来てもらい、ヒゲをつけてもらったとき、彼女から感じたのは太陽のような明るくてピュアなエネルギー。恐怖心もなく、情熱的な姿はすでにロザリーのようだったので、その段階で彼女がこの役を受け入れたように見えました。

彼女に決まってからの数か月間は、まるで彫刻でロザリーを作っていくように、ヒゲや体毛を1本1本つけてバランスを考えていく作業の連続。毛の色や長さが少し違うだけでも、まったく違う印象を与えてしまうので、とても大変でした。

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──日本の女性たちもありのままの姿で自分らしく生きるロザリーから勇気をもらえると思います。生きづらさを感じている女性たちに向けて監督からメッセージをお願いします。

実は私もみなさんと一緒で、意外と思っていることをなかなか言えないタイプなんですよ! だから、その思いを表現するために、映画を撮っています。なので、日本のみなさんにもご自身が感じていることを表現する手段として、映画を撮ることをおすすめします(笑)。

私は昔から日本が大好きで、日本の文化に魅了されていますが、不思議なことに日本と私の間には親和性のようなものを感じています。日本の方にロザリーのような繊細さや羞恥心というものがあるように、私の作る映画にもそういった部分がありますから。とても印象的なことを叫ばずに伝える姿勢は、日本のみなさんと似ているところだなと思っています。

Interview & text: Masami Shimura

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ロザリー
監督・脚本:ステファニー・ディ・ジュースト 脚本協力:サンドリーヌ・ル・クストゥメル
出演:ナディア・テレスキウィッツ、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ、ギヨーム・グイ、ギュスタヴ・ケルヴェン、アンナ・ビオレ
2023 年|フランス・ベルギー|フランス語|115 分|シネマスコープ|5.1ch
原題:Rosalie|字幕翻訳:大城哲郎|PG12
配給:クロックワークス
© 2024 – TRÉSOR FILMS – GAUMONT – LAURENT DASSAULT ROND-POINT – ARTÉMIS PRODUCTIONS
公式サイト:https://klockworx.com/rosalie
公式 X:@rosaliemovie
5月2 日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
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