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ニコール・キッドマン主演の話題作『ベイビーガール』、ハリナ・ライン監督が語る女性の複雑さと欲望

ハリウッドの第一線を走り続ける俳優ニコール・キッドマンがヴェネチア国際映画祭の最優秀女優賞に輝いた主演最新作『ベイビーガール』が3月28日にいよいよ公開。愛する家族とキャリアの成功の両方を手に入れ、完璧な人生を歩んでいるように見える美しきCEOの女性ロミーが、満たされない欲望をインターンの青年サミュエルによってかき乱されていく姿を描いている。

新進気鋭のスタジオA24が贈る“新時代のエロティック・エンターテインメント”とも言われている話題作を手掛けたのは、俳優としても活躍していた注目の女性監督ハリナ・ライン。監督デビュー作である『Instinct』に感銘を受けたニコールが才能にほれ込み、自ら声をかけたことが本作の始まりだったという。タッグを組んだニコールの魅力、そして女性の欲望やセクシャリティに真っ向から挑んだ意欲作に込めた思いなどについて語ってもらった。

ベイビーガール ハリナ・ライン監督
『ベイビーガール』で監督・脚本を手がけたハリナ・ライン

──本作におけるニコールの存在感は大きかったと思いますが、現場での様子を目の当たりにされてみていかがでしたか?

今回の演技は、ニコールにしかできないものだったと考えています。なぜなら、彼女は繊細な一面を見せつつ、自分自身でも恐れているような新しい部分を探っていき、しかもそれを勇敢にもカメラの前で見せてくれたからです。これは大女優である彼女だからこそできたことだと感じています。

彼女もロミーも自信に満ちあふれている女性でありながら、次の瞬間に少女っぽい顔を見せるところがあるのですが、そういう部分においても、ニコールはこの役にピッタリだったと思いました。

──ニコールは役になりきるあまり、撮影の途中で勝手にタクシーに乗ってしまったハプニングなどもあったそうですが、ほかにも撮影中で印象的だったことがあれば、お聞かせください。

私が一番驚いたのは、ニコールとサミュエル役のハリス・ディキンソンのケミストリーです。これは誰にも予想できなかったことではないでしょうか。

それぞれ別々にキャスティングをしましたが、事前に2人の相性をテストする脚本の読み合わせもできなかったので、本当にギャンブルでした。でも、実際に現場で演じている彼らの様子を見ていたら、エロティックな部分だけでなく、パワープレーのシーンも、ユーモアセンスも、テンションの高さも、セックスシーンもすべてにおいて息がぴったり合っていたので、それを見て私自身もワクワクしたほどです。

──ご自身が俳優をされていたとき、舞台に上がる直前にはいつもニコールのことを頭に思い浮かべていたそうですが、その理由をお聞かせください。

以前、私が所属していた劇団では少し過激なテーマを扱っていたので、ステージに上がるのが怖いことがありました。そんなときに、過激な作品でも素直に自分をさらけだし、弱みを見せることも恐れずに大胆な決断をしてきた女性であるニコールのことを考えると自分のなかに勇気が湧いてくるのを感じられたのです。そういう部分で彼女からは多大な影響を受けていると思います。

ベイビーガール ハリナ・ライン監督
撮影の現場でのハリナ・ライン〈〉とニコール〈

──日本でもニコールに憧れている女性は多いですが、彼女の素顔について語るとしたらどんな魅力が挙げられますか?

ニコールといえば、つねに相手のことを考え、愛情を与えてくれる女性。先日も、家族と離れてニューヨークで暮らしている私のことを思って、盛大な誕生日パーティーを開いてくれました。そんなふうにすごく寛大な心を持っていると同時に、頭も良くて、ユーモアもあって、セラピストのような部分もあるんですよ。その一方で子どものような遊び心も持っているので、本当に魅力的な女性だと思います。

彼女とは最初から意気投合していましたが、この作品を通じて年齢を重ねることやセクシャリティ、死についてなど、人生観にまつわる深い話をしたこともあり、いまでは大親友と言えるほどになりました。

──本作のようなテーマというのは、これまで男性の監督や脚本家の手によって描かれることが多かったですが、女性監督だからこそ描けた部分について、ご自身で分析していただけますか?

今回のポイントは“女性の視点で描くこと”でしたが、その言葉通り、女性の複雑な側面というものを表現できたと思っています。いままではどちらかというと、母親像や処女性、魔性の女などのように、女性の一面的な部分しか描かれていなかったように感じていました。

そんななか、ロミーについては女性の強さだけでなく、内に抱える不安やセクシャルなファンタジー、嘘をつく姿など、何層にも複雑に絡んでいる人間像を描けたと考えています。それが現実というか、普通の女性は本来そのくらい複雑なものではないでしょうか。そういう部分がこれまでの映画では描写されていませんでしたが、本作ではそれらを描くことに成功したと信じています。

──劇中のセクシャルなシーンが注目されがちではありますが、撮影時に気を付けたことなどはありましたか?

セクシャルなシーンを描くというのは非常に緊張することですが、今回はインティマシーコーディネーターのおかげで、準備万全の状態で臨むことができたと思っています。特に、どこが境界線なのかということについて、事前にみんなで話し合っていたので、まるでダンスの振り付けのように撮影を行うことができました。

なので、現場では体を使ったセクシャルなシーンよりも、感情的な深みがあるセリフを言うエモーショナルなシーンを撮るほうが断然難しいと感じたほど。観ていただくとわかるかもしれませんが、セックスよりも会話や動きによってセクシャルな部分を表現していると感じる場面が多いと思います。

ベイビーガール ニコール・キッドマン

──こういったテーマと向き合ったことによって、ご自身のなかでも変化を感じることがあったのではないでしょうか。

この作品自体が、「自分の体に関する悩みやセクシャリティのアイデンティティについて自由に語っていいんだよ」というきっかけを観客に与えている作品。私自身も「セクシャルなテーマを作品で掘り下げてもいいんだ」と覚醒したような感覚はありました。

この作品を通して、さまざまな人たちと意見を交わすことになりましたが、そういったコミュニケーションが生まれること自体が今回の目的でもあったので、非常に満足しています。多くの方と会話をする過程で、自分が恐れていた部分や自信がなかった部分についても発言できるようになりました。

──監督自身も年齢を重ねることや外見的な美しさに対する悩みを抱えていた経験があったことも、こういった作品が生まれたきっかけの一つだったそうですね。

私が俳優をしていた頃は、「つねに若くて美しくいなければいけない!」という葛藤がありました。それだけに、俳優を引退したときは「やめた途端にお腹が出てきてヒゲがはえるんじゃないか」と心配したこともあったほどです(笑)。もちろんそんなことはありませんでしたが、それでも世間の目はいまだに気になるものですよね。

特に女性というのは、自分を鏡で見たときに自分だけではなくて男性からどう見られているのかという目線で考えてしまうところがありますから。それゆえに、自分を愛するというのはなかなか難しいことだと思います。

──確かに、多くの女性たちが同じように感じているかもしれません。

しかも、いまはインターネットやSNSによって完璧な女性像というものが強まっているので、以前よりも大変になっていますよね。私はもうすぐ50歳になろうとしていますが、それでもいまだに「自分を愛する方法を見つけたい」とか「年を重ねた自分の体を受け入れたい」と悩んでいるほどです。

だからこそ、今後もそういうことを語るような映画を作っていきたいですし、作品を通して若い女性たちにありのままの自分を受け入れる大切さをメッセージとして発信していきたいと考えています。

ベイビーガール ニコール・キッドマン

──ご自身の道を貫いていらっしゃる監督から、日本の女性たちにメッセージをお願いします。

舞台女優をしていたときから日本には何度も訪れていますが、とても居心地がよくて美しい国だと感じていました。たくさんのインスピレーションも受けてきたくらい私にとっては大切な国なので、ぜひ日本の女性のみなさんにもこの作品を楽しんでいただきたいです。

後ろめたい気持ちを抱くことなく、自分自身を貫くと同時に、本当の自分をさらけ出す喜びが伝わったらいいなと。そして自分を解放し、自分を愛することの大切さも実感してもらえたらと思っています。

Interview & text: Masami Shimura


ベイビーガール
3月28日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
原題:Babygirl
監督/脚本:ハリナ・ライン
出演:ニコール・キッドマン、ハリス・ディキンソン、アントニオ・バンデラス、ソフィー・ワイルド
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式HP:https://happinet-phantom.com/babygirl/
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Profile

ハリナ・ライン (監督/脚本/プロデューサー)

1975年、オランダ生まれ。ヴィジョナリーな監督、プロデューサー、俳優、脚本家であり、限界を押し広げる破壊的で挑発的な物語を創り出す才能で知られている。監督デビュー作『Instinct(原題)』(19)は、ロカルノ国際映画祭でプレミア上映され、ヨーロッパ映画賞最優秀新人賞にノミネート、アカデミー賞最優秀国際長編映画賞のオランダ代表作品となる。続くA24製作の『BODIES BODIES BODIES/ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』(22)はSXSWでワールドプレミア上映され、フィルム・インディペンデント・スピリット賞最優秀監督賞にノミネートされる。俳優としては、ポール・ヴァーホーヴェン監督の『ブラックブック』(06)、トム・クルーズと共演した『ワルキューレ』(08)に出演している。

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