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時代がようやく追いついた、ヒルマ・アフ・クリントの軌跡

没後70年を経て、彗星(すいせい)のごとく現れた画家で神秘主義者でもあったヒルマ・アフ・クリント。奇(く)しくもカンディンスキーやモンドリアンと同じ1944年に亡くなったアフ・クリントは、彼らに先駆けて抽象画を描いた画家として、美術史を書き換えるかもしれない存在として注目された。その比類ない作品と制作活動を読み直す展覧会が実現、ドキュメンタリー映画も再上映され、話題を呼んでいる。

ひとりの女性画家が美術史を書き換える!?

歴史を揺るがす存在は、ときに忘却の地層から静かに浮かび上がってくることがある。ヒルマ・アフ・クリントの遺(のこ)した抽象的かつモダンな絵画群は、ひと目で観る者の心を摑む不思議さと美しさを湛えて、私たちの前に現れた。画家であり神秘主義者でもあった彼女は、5人の女性だけのグループを構成し、降霊会を通じて、トランス状態において霊的存在からメッセージを受け取り、絵を描いた。スピリチュアリズムへの興味と形而上の探求は、エジソンによる電気の発明、レントゲンによるX線の発見、キュリー夫妻の放射線の研究など、同時代に科学の領域で起きた眼に見えない力への研究からも大きな影響を受けていたと思われる。

ヒルマ・アフ・クリント《10の最大物、グループIV、No.7、成人期》1907年
テンペラ・紙(キャンバスに貼付)315×235cm
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma

しかし、自身が時代をはるかに先行していると確信した彼女は、「死後20年間は一部の作品を公開しない」という遺言とともに1000点を超える作品や研究ノートを甥(おい)に託した。当時の男性優位の欧州美術界で、アートの中心地ではないスウェーデンの女性画家であり、スピリチュアリズムというアプローチから長らく評価の外にあったが、2010年代以降、ヨーロッパの巡回展で認知が高まり、2018年、ニューヨーク・グッゲンハイム美術館の回顧展では史上最多の60万人もの来場者数を記録する。アフ・クリントは新鮮な驚きを持って再発見され、美術史を書き直さねばならないとまで言わしめる存在となった。近年では絵画にとどまらず、厳密な体系性への志向に対する再評価も高まり、100年前の作家でありながら、驚くほど現代的な彼女への畏怖を抱かずにはいられない。

ヒルマ・アフ・クリント、ハムガータン(ストックホルム)のスタジオにて、1902年頃
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
ヒルマ・アフ・クリント《無題》1934年
水彩・紙 50×35cm
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation

抽象画の先駆者として、近年、注目を集めるヒルマ・アフ・クリント。ニューヨークのグッゲンハイム美術館、ロンドンのテート・モダンなど名だたる美術館で話題をさらい、アジア初の大回顧展となる本展では、彼女が建設を夢見た「神殿」のために描かれた高さ3mを超える10点組絵画をはじめ、スケッチや研究ノートなど約140点が一堂に会し、秘教思想や人智学に傾倒した彼女の思考の軌跡や謎に包まれた創作活動の全貌が明かされる。

ヒルマ・アフ・クリント《10の最大物、グループIV、No. 3、青年期》1907年
テンペラ・紙(キャンバスに貼付)321×240cm
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of a The Hilma af Klint Foundation
ヒルマ・アフ・クリント《祭壇画、グループX、No. 1》1915年
油彩、箔・キャンバス 237.5×179.5cm
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation

ヒルマ・アフ・クリント展
会場:東京国立近代美術館1F企画展ギャラリー
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1 
会期:6月15日(日)まで
開館時間:10:00 ~ 17:00(金曜・土曜は20:00まで)入館は閉館の30分前まで
料金:一般 2300円/大学生 1200円/高校生 700円/中学生以下無料
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://art.nikkei.com/hilmaafklint/


近年知名度が高まるアフ・クリントをめぐるドキュメンタリー映画は、なぜ美術史がこの稀代(きだい)のアーティストを無き存在としてきたかという今日的な問題の視点で語られる。男性中心に編まれた美術史という布の“装飾”に過ぎなかった女性作家たち。その中でも「霊媒師の作品」と言われ、退けられたアフ・クリントが見つめたものとはなんだったのかをキュレーター、美術史家、科学史家、遺族らの証言から読み解く。

見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界
4月5日(土)~11日(金)・5月3日(土・祝)~9日(金)・6月7日(土)~13日(金)ユーロスペース
監督:ハリナ・ディルシュカ
出演:イーリス・ミュラー=ヴェスターマン、ユリア・フォス、ジョサイア・マケルヘニー、ヨハン・アフ・クリント、エルンスト・ペーター・フィッシャー、ペトラ・フォン・デ・フート
配給:トレノバ
後援:スウェーデン大使館


女性アーティストに光を当てるウェブサイト「AWARE」

AWARE(Archives of Women Artists, Research & Exhibitions)」は女性アーティストたちの功績に光を当てることを目的に、フランスのキュレーター・美術史家のカミーユ・モリノーらが発足した唯一無二のアーカイブサイト。世界500人以上の専門家が参加、1,300人もの作家略歴や解説を掲載、毎月15万人以上のアクセスを誇る。10周年を迎えた2024年には日本語の新セクションを開設、日本人アーティストの紹介が充実した。

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