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新生『エマニュエル』が誕生! 未知のエロティシズムにフランスの新鋭女性監督が挑む

1974年に、世界中を熱狂させた映画『エマニエル夫人』。日本では、大人のみならず女子高生までも劇場に押し寄せるほどの社会現象を巻き起こした。官能的な映像と甘美な音楽はいまなお我々の心をかき乱すが、公開から50年を経て新たに誕生したのは、現代に舞台を変えて描く最新作『エマニュエル』 。

監督と脚本は、前作『あのこと』で一躍脚光を浴びたフランスの新鋭オードレイ・ディヴァンが手掛けている。現在のフランス映画界において、欠かせない女性監督の一人となった彼女に、2025年1月10日からの日本公開を前に本作の舞台裏や欲望を探求したい女性たちに伝えたいことなどについて、語ってもらった。

オードレイ・ディヴァン1
©Richard Giannoro

──今回はプロデューサーから渡された原作を読んだことが始まりのようですが、なぜ映画化したいと思われたのでしょうか?

最初は前作に対するアンチテーゼとして、フェミニズム的な視点を掘り下げたいと思いました。そのあとに、もう1つのテーマとしていまの時代において、人々の欲望が枯渇している現象についても扱いたいと考えたのがきっかけです。

──本作では1974年の『エマニエル夫人』とはヒロインの描き方を変えていることもあり、「リメイクとは考えていない」とおっしゃっていますが、違いを意識されたことはありましたか?

今回、私が影響を受けたのは、どちらかというと映画よりも原作。なぜなら、原作は若い女性が自分の欲望を探求することをテーマに、第一人称で書かれているからです。それに比べて映画では女性が“オブジェ”のように描かれていたので、本作では原作と同じように主人公が主語になるような作品に戻したいと考えました。

──とはいえ、世界を熱狂させた魅力についてはどう感じていますか?

やはりそれは、いままで隠されていたものがようやく目の前に開かれることに対して、興奮を覚える部分はあったと思います。「見てはいけない」とされていたものを見ることができる映画でもあるので。

ただ、私は本作においては「あえて見せない」という選択を取りました。そうすることで、観客のイマジネーションを掻(か)き立てることができると思ったので、逆の方向からアプローチをしています。

──以前、ほかのフランス人女性監督と「女性のセクシュアリティと欲望」について話をした際、「フランスにはセクシュアリティを主張する土壌はあるが、まだまだ男性の“幻想”に女性が追随して応えようとしている」「社会に批判される目を気にしている」とおっしゃっていて意外に感じたことがありました。監督ご自身は本作を通して、問題に直面したことはありましたか?

この映画を作ることになったとき、フランス映画界とは思っていた以上の軋轢(あつれき)が生じたので、簡単ではありませんでした。特に女性が自分の欲望や快楽について語ろうとする際、「観客をワクワクさせたり、ゾクゾクさせたりするものならいいよ」みたいなところはいまだにありますから……。

特に本作に関しては、前作を1974年当時リアルタイムで観ていた世代が現在のフランス映画界のトップにいることもあり、ちょっとした抵抗があったのだと思います。そういったこともあって、進んでいるように見えるフランスでも、女性には乗り越えなければいけない壁があるのが現状です。

──この作品を撮ったことによって、セクシュアリティや欲望に対する考え方に影響を受けた部分はありますか?

普段、私は脚本を書く際、個人的な記憶のなかから引き出して正直に書いているので、そういう意味では今回も「私の快楽はどこにあるのか」「何が私をストップさせてしまうのか」といったことを自問自答しました。そんななかで、冒頭のエマニュエルのように身体と頭が分離してしまうこともありましたが、自分の体験を振り返ることが脚本や演出にも生かされたと感じています。

オードレイ・ディヴァン

──女性たちがそういったことを自由に語れるようになるためには、社会だけでなく、女性自身も変わらなければいけない部分があると思いますが、女性たちに伝えたいことはありますか?

私はアドバイスを言えるような立場ではありませんが、もしみなさんが躊躇(ちゅうちょ)することがあるのであれば、「その理由は何なのか」「障害となっているものは何なのか」について考えてみてください。そして、自分が本当に言いたいことは何なのかを一人一人が見つけて、個性を大切にしてほしいと思います。

──また、本作ではエロティシズムをどう描くかというのが大きなテーマでもあったと思いますが、どのように表現したいと考えましたか?

エロティシズムというのは、あくまでも素材の1つだと考えています。ただ、それをそのまま見せるのではなく、大事なのは空気感やムードをいかに醸し出すことができるか。今回は香港で撮影しましたが、同じ香港を舞台にしているウォン・カーウァイ監督の『花様年華』ではエロティシズムにおける定義の1つが描かれていると思っています。

それは何かというと、男と女が身体を触れ合う様子を見せないことによって、見えていないところで何が起きているのかを感じさせるという方法。そうすることで、重苦しい空気感に込められた欲望を私たちに伝えているのです。とはいえ、美しく見せなければいけなかったので、どうやって表現するのかには気を配りました。

──そういった部分を映像にする難しさもあったと思いますが、どういうところにこだわりましたか?

まず考えたのは、観客に女性の感覚を同時に体験してもらうこと。そのために、エマニュエルが布を触るときの音やバスタブに入っているときの水の音など、サウンドにはこだわっています。といっても、単なる音ではなく、重視したのはリズム感。それこそが、エマニュエルの感覚へと誘(いざな)ってくれるうえで大きな役割を果たしているのです。

ほかにも色をはじめとするアートディレクションを工夫することによって、観ている方々の五感を目覚めさせ、客席でエマニュエルを体感してもらえるようにしています。

──また、エマニュエルが身に着けている衣装や下着も素敵でしたが、そのあたりにも込められたメッセージがあるのでは?

そうですね。彼女が身に着ける物に関しても、美しさだけでなく、物語的な機能も持たせています。たとえば、初めはあまり身体が自由に動かない鎧(よろい)のような洋服を着ていますが、気持ちが解放へと向かっていくにつれて、生地をしなやかな素材に変更。そうやって彼女が自由になっていく心地よさも衣装で表現しているのです。

──エマニュエルが悦(よろこ)びを得ていく過程において、女性のオーガズムをどう表現するかも重要だったと思います。主演のノエミ・メルランさんとはどのようにして、“答え”にたどり着いたのかをお聞かせください。

ノエミも演技としてオーガズムを表現しなければいけないので、非常に難しかったと思います。なかでも私が求めていたのは、自制心の解放。そのために、彼女には頭のなかで働いている制御装置をストップさせるように伝えました。

──撮影では苦労されたシーンもあったのではないでしょうか?

オーガズムを表現するラストシーンに関しては、撮り終えるだけでも10時間近くかかったので、とても大変でしたね。それだけ時間をかけられたのはぜいたくなことかもしれませんが、撮影しては「これじゃない」というのを繰り返しました。

はじめは別室で指示を出していた私たちも疲労困憊(こんぱい)の状態になってしまったので、「もう成り行きに任せよう」となったとき、ノエミが微笑みながら甘美のため息を吐いたのです。その瞬間に、「これで撮れたね!」とお互いに顔を見合わせました。

──セックスシーンに関しては、インティマシー・コーディネーターも含めて、さまざまな話し合いを重ねたそうですが、裏側についてもお聞かせください。

インティマシー・コーディネーターさんにはすごく助けてもらいましたが、それぞれのセックスシーンにどのような意味があるのかを考えるところから取り組みました。その過程で、ノエミにはあるエクササイズをしてもらったのですが、それは部屋のなかで目を閉じてもらって動くというもの。そうすることで、感覚が覚醒され、自分の身体にも信頼を置くことができるようになるのです。

──監督は男性にも共感していただきたいと考えているようですが、反響などはあったのでしょうか?

「女性と同じように感じた」という人もいれば、「この映画は何を語っているのかわからない」という人もいて、かなり意見が分かれましたね。これに関しては、年齢は一切関係なく、メンタリティーの問題ではないかなと。日本の男性たちもどのような反応をされるのか、とても興味があります。

──現在フランス映画界で、もっとも注目されている女性監督だと思うので、今後の展望についてもお聞かせください。

いま私が描きたいテーマは2つありますが、1つ目は16世紀を舞台に若い女性が時代の体制にあらがう物語です。もしかしたら女性たちがいまなお閉鎖的な部分を持っている原点はこれなのではないかと考えているほど、強い関心を持っています。

そして、もう1つは私にとっては新しい領域となりますが、世界の終わりを描いた作品。おそらくこれは壮大で哲学的な問いかけになるのではないかと考えているところです。

text: Masami Shimura

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エマニュエル
2025 年 1 月 10 日(金)TOHO シネマズ 日比谷他全国公開
監督:オードレイ・ディヴァン『あのこと』
原案:エマニエル・アルサン著「エマニエル夫人」
脚本:オードレイ・ディヴァン、レベッカ・ズロトヴスキ
出演:ノエミ・メルラン『燃ゆる女の肖像』『TAR/ター』ウィル・シャープ、ジェイミー・キャンベル・バウアー、チャチャ・ホアン、アンソニー・ウォン、ナオミ・ワッツ
原題:EMMANUELLE|2024|フランス|カラー|シネスコ|5.1ch デジタル|105 分|
字幕翻訳:牧野琴子|R15+|
配給:ギャガ
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