“フランスの至宝”イザベル・ユペールが語る、最新作『不思議の国のシドニ』で発見した日本の魅力
2024.11.29
©︎masahiro miki
50年以上にわたって映画界の第一線を走り続け、フランスが誇る国際派俳優として唯一無二の存在感を放つイザベル・ユペール。ミヒャエル・ハネケやフランソワ・オゾン、マルコ・ベロッキオなど各国を代表する巨匠たちから愛され、幅広い役柄で世界中の観客をとりこにしてきた。
2024.11.29
©︎masahiro miki
50年以上にわたって映画界の第一線を走り続け、フランスが誇る国際派俳優として唯一無二の存在感を放つイザベル・ユペール。ミヒャエル・ハネケやフランソワ・オゾン、マルコ・ベロッキオなど各国を代表する巨匠たちから愛され、幅広い役柄で世界中の観客をとりこにしてきた。
精力的に活動を続けるなか、主演最新作となる『不思議の国のシドニ』が12月13日より公開を迎える。本作では、フランス人作家シドニが見知らぬ国である日本で、喪失感を抱える編集者や愛する亡き夫の幽霊と出会うことによって新たな一歩を踏み出す姿を描いていく。日本で行われた撮影を通して感じた日本の魅力や変わらぬ恋愛観、そして仕事への飽くなき情熱について語ってもらった。

──エリーズ・ジラール監督は、ユペールさんをイメージして脚本を書かれたようですが、出演を決めた理由についてお聞かせください。
私の娘であるロリータ(・シャマー)とタッグを組んだ『静かなふたり』はすごく好きな作品でしたし、長編デビュー作の『ベルヴィル・トーキョー』も気に入っていたので、以前からエリーズのことは評価していました。
そんなときに私をあてがきした作品を準備していると聞き、早速脚本を読んでみると、どのセリフも素晴らしい。エリーズは映画監督としてだけでなく、作家としての文才もあると感じました。私にインスピレーションを与えてくれる作品に違いないと思ったので、ぜひ出演したいなと。あとは、大好きな日本で撮影できるということも、私のやる気に火をつけてくれた要素です。

──ご自身を意識して作り上げられたキャラクターということで、感情移入しやすい役でもあったのでしょうか。
もちろんそういった部分もありますが、「あてがきされている役だから簡単」みたいな決まりは私のなかにはありません。というのも、もともと私はスッと役に入っていけるタイプの俳優なので、どんな作品でも、どんなキャラクターでも実はあまり努力をしたことがないんですよ(笑)。
なぜなら、私には役を演じている意識はなく、ただその人になりきっているだけだから。フランソワ・オゾン監督の『私がやりました』のような作品の場合は、作り込みも必要ですが、私の演技方法において人物造形をすることは基本的にありません。だから、演じることは私にとって難しいことではないんですよ。
──ユペールさんにとって、俳優はまさに天職ですね。
そうだと思います。私自身がキャラクターを作るのではなく、映画がその人物を私のなかに自然と作り出してくれるような感覚なので、セットのなかにいるだけで私との間に化学反応が起きるのを感じます。例えるならば、光や水を浴びながらどんどん成長していく花のようなイメージですね。
──素晴らしいですね。今回は京都、奈良、直島などで撮影をされていますが、気に入っている場所といえば?
どこも全部よかったですが、いままで鹿とたわむれることができる経験はあり得ないことだったので、奈良の東大寺は印象に残っています。2022年のコロナ禍で撮影していたこともあり、観光客がいなかったことも大きかったですね。
あとは、直島も素敵でしたが、すべてを見ることができたわけではないので、もう一度行っていろいろと探求したいと思っています。ほかにも夜の京都を散歩したり、神戸に行ったりして楽しかったです。それまで日本の地方都市といえば京都しか知らなかったので、いろんな場所を訪れるたびに、さまざまなサプライズがありました。

──日本での撮影ということもあり、フランスとの違いに驚くこともあったのではないでしょうか。
もちろんフランスと日本はまったく違う国ではありますが、撮影現場という小さなスペースにおいては、あまり違いは感じませんでした。そういう意味で、現場というのはユニバーサルな場所だなと改めて思いました。
──劇中では日本人俳優の伊原剛志さんとのシーンが大半でしたが、共演の感想をお聞かせください。
まず、フランス語の習得に関して、彼はものすごい努力をされていました。もし私があれだけのセリフを日本語で覚えろと言われても、おそらく無理でしょうね。しかも、セリフにきちんと感情も込められていたので、本当に素晴らしい仕事をしてくれました。現場は彼のおかげでスムーズに進んだと思っています。そのほかに日本の方もたくさん出ていましたが、エキストラであっても、みなさんしっかりと演技をしてくださいました。

──以前、「日本の映画に出演したい」とおっしゃっていましたが、今回の日本での撮影を経て、その気持ちは強くなりましたか?
フランスをはじめ、ヨーロッパの国々では、日本映画に対する期待がすごく高いと感じています。実際、是枝裕和監督や濱口竜介監督、黒沢清監督、北野武監督といった日本人監督たちの新作をみんな心待ちにしていますから。私自身も日本の監督と仕事をしたいという気持ちを熱く抱いています。ジャンルや役にはこだわりがないので、どんな作品でもいいから挑戦してみたいです。
──日本映画のどういったところに魅力を感じてくださっているのでしょうか。
まずは素晴らしい才能を持っている監督がいることも大きいですが、私たちにとって“見知らぬ世界”を発見できる部分にひかれているのだと思います。しかも、そこには必ず人間の姿という普遍的なものも描かれていますよね。日本映画では1人1人のキャラクターによって、生き方や社会の在り方というものがしっかりと表現されている印象です。
──精力的に映画や舞台に出演をされていますが、作品選びの基準についてはいかがですか?
いろんな要素がありますが、私の場合は監督です。経験豊富な監督もいれば、新人もいますが、そこが一番重要だと考えています。たとえ新人だとしても、「この人にかけてみよう」と思った監督で失敗したことはありません。
というのも、映画作りというのは集団の作業なので、監督が新人でもプロデューサーや俳優陣、技術スタッフといった全体を見て大丈夫だと判断すればどんな監督の作品でも出ます。そういった総合的な視点で見ているので、間違いだったと思ったことはないのかなと。私自身はいい運命をたどっていると思っています。
──本作では大人の恋愛模様も描かれていますが、フランス映画に比べると、日本の作品では年を重ねた女性の恋愛が描かれることは少ないように感じています。ユペールさんはこれまでの作品でも恋愛を楽しむさまざまな女性の姿を演じられていますが、年代によって表現などを演じ分けている部分もあるのでしょうか。
私は若い頃と何も変えていませんよ。だから、「年齢によって恋愛に違いがあるのか」と聞かれること自体が不思議というか、意味がわからないくらいです(笑)。

──そういった思いがあるからこそ、ユペールさんが演じてきた女性たちの恋する姿に説得力があるのも頷けます。多くの女性たちがユペールさんに憧れていますが、ご自身のなかで貫いていることや意識されていることもあるのでしょうか。
秘訣を言ってしまったら秘密ではなくなってしまうので、それは教えられないですね(笑)。特に何もないと言っておきます。「すべてを打ち明けないこと」というのが、私の信念のようなところもあるくらいなので。
──そのミステリアスさこそ、誰もがユペールさんのとりこになってしまう理由ですね。では、ご自身にとってインスピレーションを与えてくれる源は教えていただけますか?
私は演じることにやりがいを感じているので、「映画を撮る」ということ自体が源と言えるかもしれません。あとは旅をすることが大好きなので、世界中で舞台の公演や撮影を行うことによって、私の欲望がすべて満たされている感覚になります。
だから、仕事をやめてしまったら、逆に疲れてしまうかもしれないですね。というのも、私は決められた作品の枠組みのなかで生きているため、もしそれが取り払われてしまったら、世界が私のなかに一気に入ってきて混乱してしまう気がするので……。映画でも舞台でも、そのなかにいるおかげで私は好きなことをできていると感じています。

──それでは最後に、観客に向けてのメッセージをお願いします。
本作は悲しみのトーンからはじまったあと、ファンタジーや軽やかさ、そしてほろりとする要素がある映画になりました。なので、月並みかもしれませんが、この作品を観て感動してくださったらうれしいです。さまざまな感情が見事に融合されているので、ぜひ繊細な部分を楽しんでいただけたらと思っています。
interview&text: Masami Shimura
・フランス政府による国際広報キャンペーン「MAKE IT ICONIC. Choose France」
・俳優・菊地凛子、磯村勇斗、プロデューサー・岡野真紀子を迎えた、ケリング「ウーマン・イン・モーション」のトークをリポート
『不思議の国のシドニ』
12月13日(金) シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
監督:エリーズ・ジラール
出演:イザベル・ユペール 伊原剛志 アウグスト・ディール
原題:Sidonie au Japon|2023 年|フランス・ドイツ・スイス・日本|カラー|ビスタ|5.1ch|96 分
提供:東映 配給:ギャガ
©2023 10:15! PRODUCTIONS / LUPA FILM / BOX PRODUCTIONS / FILM-IN-EVOLUTION / FOURIER FILMS / MIKINO / LES FILMS DU CAMÉLIA
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