俳優・菊地凛子、磯村勇斗、プロデューサー・岡野真紀子を迎えた、ケリング「ウーマン・イン・モーション」のトークをリポート
〈左から〉是枝裕和、菊地凛子、岡野真紀子、磯村勇斗
グローバル・ラグジュアリー・グループのケリングは、2015 年のカンヌ国際映画祭で、映像業界で活躍する女性たちに光を当てることを目的に、同映画祭公式プログラム「ウーマン・イン・モーション」を発足した。11月1日、第37回東京国際映画祭で開催されたウーマン・イン・モーションのトーク・セッションをリポートする。俳優・菊地凛子、磯村勇斗、プロデューサー・岡野真紀子、ファシリテーター・立田敦子が登壇し、日本の映像業界について率直に意見を交わした(文中敬称略)。
是枝裕和監督「スタッフが人生設計できる環境作りが急務」
東京国際映画祭でケリング「ウーマン・イン・モーション」のトーク・セッションが開催されるのは、今年で4回目。まずは、映像業界の啓発、人材育成や教育などに精力的に取り組む是枝裕和監督がオープニング・スピーチを行った。
「3年前、監督有志で『action4cinema』という団体を作りました。日本の映画制作現場が世界基準に少しでも近づき、働きやすい環境になるように、日本映画製作者連盟に働きかけたり、経済産業省や文化庁と勉強会を重ねたりしています。今日登壇される磯村さんも、現状の問題点などを話し合う勉強会に参加してくれている仲間です」
「action4cinema」は是枝裕和監督と諏訪敦彦監督が共同代表を務める。映画界の教育支援、労働環境保全、製作支援、流通支援のため、基金の設立などを目指して活動してきた。
「僕たちが一番に考えなければいけないのは、まず、子どもたちが映画に触れる機会を用意する“映画教育”。もう一つは、映画の制作現場を働きやすい場所に変えていくことです。女性が出産を経て戻ってこられる場にする。この2点は待ったなしで取り組まなければなりません。僕は監督であり、プロデューサーであることも多い。いい映画を作ることはもちろんですが、参加してくれたスタッフがきちんと人生設計できる環境作りをする責任があります」
続いて、ファシリテーター・立田敦子の案内のもと、俳優・菊地凛子、磯村勇斗、プロデューサー・岡野真紀子が登壇した。菊地は『バベル』や『パシフィック・リム』といったハリウッド映画、アメリカのHBO MaxとWOWOWが共同制作したTVシリーズ「TOKYO VICE」など、海外の現場を多く経験してきた。磯村は俳優デビューして10年目となり、現場の女性スタッフが増えてきたのを実感しているという。岡野はNetflixのエグゼクティブプロデューサーとして、日本発のオリジナル作品を手がける。3人がそれぞれの立場から、映像業界の働く環境について語り合った。
中でも、Netflixで行われている「リスペクト・トレーニング」や、近年日本でも取り入れられるようになった「インティマシー・コーディネーター」を中心に、トークを紹介する。
すべてのキャスト、スタッフが受ける「リスペクト・トレーニング」
リスペクト・トレーニングとは、Netflix が開発したワークショップ型のトレーニングだ。セクハラやパワハラなどに対する理解を深め、さまざまなケースについて受講者がディスカッションする。
岡野真紀子
岡野:「すべてのスタッフ、キャストに受けていただく講習です。お互いにプロとしてリスペクトを持って、現場でクリエイティブに集中できる環境を作りましょう、ということがモットー。何がハラスメントになり、何に人は傷つくのかといったことをあらためて話し合う場です。現場は予期せぬことが起こるし、焦ることもあるんですね。この間も現場で、雪でお弁当が遅れてパニックみたいになったことがあって。その時に一人が『リスペクト!』って声を上げたんです。そしたらみんなが『そうだよね、雪だもんね』というふうに、落ち着いた空気に変わりました」
磯村:「実際にトレーニングを受けてみて、すごくいい取り組みだと思いましたね。全員が受けているので、みんなが共通した意識を持っている。現場が変わっていくだろうなと感じました」
岡野:「講習は1時間くらいで、講師の方がいらして『こういうことがハラスメントの可能性があります』『こういうことに注意が必要です』と説明し、みんなで話し合います。受けたら終わりではなく、そこで学んだり実感したりしたことをどう現場で実行していくかが大切です」
菊地:「けっこう具体的な内容もあって、『私はこんなことを知らなかったんだ』と気づいて、ショックを受けたりもしました」
立田:「菊地さんは海外の現場を多く経験されていますが、働きやすさという点で日本と比較するといかがでしたか?」
菊地:「予算にもよりますが、スケジュールが緩やかだったりはしますね。土日が必ずお休みであるとか。いろいろな国のいろいろな立場の人が働いているので、(日本とは)違う風景を見られるなと感じています」
菊地凛子
立田:「磯村さんも最近海外で撮影されたそうですが、いかがでしたか?」
磯村:「やっぱり休みを大事にする文化がありますね。日本の撮休は稼働しているスタッフがいたりもするんですけど、(海外の現場は)みんなが休みをとれていた。皆さんの心の余裕が違ったなと思います。人種や性別に関してもオープンマインドな方が多いですし、心地いい現場でしたね」
岡野:「Netflixでも、『完休』といって全員が休む日をスケジュールに入れています。映像業界の仕事はスケジュールが読めない傾向がありますが、決まった休みがあると、家族と過ごせたり健康診断を入れられたりしますよね」
立田:「子育てとの両立も課題です。Netflixの現場ではどんなことをなさっていますか?」
岡野:「作品にもよりますが、ベビーシッターをつけたり、お子さんとベビーシッターさんが一緒に待てる場所を用意したりしています。やっぱりいかに産後復帰しやすくするかが重要だと思っていて。『この作品をすごくやりたいけれど、子育ての事情で難しい』という方もいらっしゃる。サポートすれば喜んで作品に挑んでもらえるのなら、クリエイティブに集中できる環境を用意したいですね」
俳優にとって「インティマシー・コーディネーター」の存在は
近年、日本の映像業界でも、インティマシー・コーディネーターの参加する現場が増えてきた。セックスシーンやヌードシーンなどの「インティマシー・シーン」を専門としたコーディネーターで、制作側の意向を理解して俳優に伝え、俳優を身体的、精神的にサポートする。
岡野:「ラブシーンにかかわらず、少しでも不安を感じるようなシーンがあった場合、俳優と監督の間に入ってもらいます。俳優には、今どう思っていて、ストレスにならないためにどうすればいいのかを聞く。監督には、何を撮りたくて、どういうクリエイティブを実現したいのかを聞く。両者にとってストレスのない現場を作るために存在します」
立田:「インティマシー・コーディネーターが入る作品、入らない作品はどのように決めるのですか?」
岡野:「私がNetflixに入って担当した作品で、入っていないものはないですね。台本も全部読んでいただきます。私がインティマシー・シーンだと思わなくても、俳優はそう感じるかもしれませんので」
菊地:「俳優としては、いてくださったほうが絶対にやりやすいですね。役だとはいえ演じるのは自分自身ですし、自分だけでなく相手やクルーを守るためでもあります。そっと来てくれて『大丈夫ですか? 何か気になることはないですか?』と聞いていただけると、心が軽くなる。『根性でがんばります!』みたいなことでは絶対にないので。デリケートなことをきちんとデリケートに捉える人がいてくれることはすごく大事だと思います」
磯村勇斗
磯村:「インティマシー・コーディネーターの方がいない現場でそういったシーンがある時に、『やりますよ』『大丈夫』と言って演じるんですが、自分がどこか傷ついている感覚もあるんです。カッターで薄く切ったような傷、というか。たとえば裸でタオルも何もかかっていなくて、はたから見たら絶対おかしいよな、と。インティマシー・コーディネーターさんが入ると、細かいことまで寄り添っていただけて不安が減っていきます。何度か現場を重ねるなかで、今後、男性のインティマシー・コーディネーターも増えていくと、俳優と監督、スタッフのディスカッションがよりスムーズに進むかもしれないと感じました」
立田:「海外で、LGBTQ専門のインティマシー・コーディネーターが活躍されているという話も聞きますね。最近、『HOW TO HAVE SEX』という10代の青春映画(イギリスとギリシャ合作)では、インティマシー・コーディネーターだけでなく、カウンセラーをつけたという話もあります」
岡野:「私も学園ドラマを制作した時に、今までで一番『インティマシー・コーディネーターがいてくれてよかった』という声を聞きました。キスシーンが初めてという俳優もいますし、キャリアや世代に合ったサポートも必要だと思いますね」
若い世代のために、今できること
物語における男性像/女性像の変化、映像業界のジェネレーションギャップなど、さまざまな角度から盛り上がったトーク・セッション。最後にこれからの映像業界のためにできることを語り、幕を閉じた。
磯村:「男性の立場からすると、女性が働きやすい環境を作るためにまずは理解することが大事ですし、お互いにサポートしていく必要があると思います。自分が発信したり働きかけたりできることがあればしていきたいですね。(オープニングで是枝監督の発言にあった)勉強会は、自分たちから見た労働環境の問題点などを挙げながら何ができるのかをディスカッションする場で、俳優の仲野太賀くんから連絡をもらって参加しました。是枝監督のように開拓してくださる方や、同じ思いを持った役者の仲間がまわりにたくさんいるので心強いです。若い世代の人たちにこの業界で働きたいと思ってもらえるように、しっかり声を上げていきたいと思います」
菊地:「今日のトークのような知るきっかけになる場は大事だと思います。やっぱり知らないと言葉にできないんですよね。『これが問題だ』ということがわからずになんとなく日々を過ごし、でも、心はざわついている。そこに的確な言葉を見つけ、伝えていくのは大変なことですよね。問題提起には時間も勇気も必要です。こういう場を設けて皆さんで話すことで、一つひとつ意識していけるといいのかなと思いますね」
岡野:「こういう場も含めて、お互いを知り、話していくことがすごく大事だと思います。どうしても目の前のことに集中しがちですが、よりサステナブルに、5年後、10年後、20年後にこの業界に入る皆さんはどうなんだろうというところまで意識したい。未来を思いながら、サポート体制を考えていくことが重要なのかなと思います」
text: Saya Tsukahara
・黒木華、優しく美しい言葉の響きを演じる力の源に。映画『アイミタガイ』で主演
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