これはサスペンス? ファッション業界の光と闇を描く『ファッション!!』

『ファッション!!』©︎はるな檸檬/シュークリーム
東京、ミラノ、パリとファッションウィークが続々と開幕する9月。今回紹介する、はるな檸檬(れもん)の『ファッション!!』(文藝春秋出版)はファッション業界の光だけではなく闇の部分にも着目する、ある意味サスペンス物語。もちろんフィクションだが、ページをめくればめくるほど、もしかしたら? と思わせる裏側が待っている。

『ファッション!!』©︎はるな檸檬/シュークリーム
東京、ミラノ、パリとファッションウィークが続々と開幕する9月。今回紹介する、はるな檸檬(れもん)の『ファッション!!』(文藝春秋出版)はファッション業界の光だけではなく闇の部分にも着目する、ある意味サスペンス物語。もちろんフィクションだが、ページをめくればめくるほど、もしかしたら? と思わせる裏側が待っている。
主人公は専門学校で服飾を学ぶ留学生 ジャン。彼はまぎれもなく“ファッションの天才”だ。ただ、この「ファッション」は、服やスタイルではない。ジャンがかぶっている皮のことだ。

ことの始まりは、元ファッション業界の人間である36歳の新道 開が、友人とともに訪れた展示会。開は、真摯(しんし)さと情熱以外はまだ何も持たぬ新人デザイナーのジャンに心を動かされ、彼を手伝うようになる。
情熱だけではファッション業界では生き残れない。かつての開も、ある出来事で挫折した経験がある。ジャンのような誠実な若き才能こそ力を発揮できる業界であるべきだ。開はそう考え、妻の桜子を巻き込んで、生活も人脈もスキルも全てを捧げていく。

持たざる者同士の出会いから始まる、ファッション業界成り上がり物語。しかし、読者はすぐに気づかされるだろう。ジャンが時折見せる不穏な表情、情熱的に見えて何も伴っていない行動。これは危険人物だ。
だが、彼の人の心を掴(つか)む能力だけは天才的だ。登場人物も、時に不穏な何かをジャンから感じとる場面もあるが、最悪なかたちで運がジャンに味方する。

登場人物たちはジャンを信じ、夢に向かってあらゆる努力を惜しまず突き進む。本来なら美しい流れだ。
読者であるこちら側はジャンの本当の姿を知っているだけに、描かれる希望あふれる風景がとてつもなく不安なものとして映る。ぐらついたジェンガの上に、続々とパーツを積み上げられていく様子を、手も足も出せない状態で見せつけられるのだ。
成り上がり物語ではなく、恐怖すら感じるスリルとサスペンス。開たちがいつ真実に気づくのか? あと戻りできないところまで登りつめた先にあるのは破滅なのか、それとも別の何かなのか。

まるで、恋愛リアリティーショーならぬ夢追いリアリティーショーだ。読者は外野から見守ることしかできない。怖いのに展開から目が離せなくなる。誰かと恐怖を分かち合いながら、見届けたくなる物語だ。
text: Ayaka Kawamata
・“好き”を集めて家を心地良くするのは自分を愛すること『家が好きな人』
・夫と死別し65歳で映画の道へ。漫画『海が走るエンドロール』で触れる、人生を変える力
ファッション!!
https://shu-cream.com/fashion/
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