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上海の編集者が立ち上げた京都のアート系出版社・青艸堂。独自のギャラリーで台湾の写真家馮君藍のポートレート作品を展示中

アート系出版社やギャラリーなどが多く点在する京都で、日本の出版社ながら中国大陸をメインマーケットとする異色の出版社として知られる青艸堂。代表の夏楠(シャ・ナン)は中国で雑誌編集者としてキャリアを積み、39歳の時に単身で京都に移り住み、出版社を設立した。最初に発行した写真家の秋山亮二による『你好小朋友-中国の子供達』(1983年)の復刻版が大ヒットし、一昨年からギャラリー空間も構え、現在は台湾の写真家・馮君藍の展覧会を開催中。青艸堂が目指す未来と本展覧会について話を聞いた。

――2012年に越後妻有の「大地の芸術祭」の取材で日本に来たのが、日本との出会いだったそうですね。その後、出版社を立ち上げるまでの簡単な経緯をおしえてください。

新潟の芸術祭や京都でのお茶の取材、また奈良への旅などがきっかけで日本が、特に京都がとても好きになりました。それ以前は上海で雑誌の編集者として働いていましたが、仕事にすっかり疲れてしまって、それで当時携わっていた『生活LIFE MAGAZINE』というカルチャー誌を2016年に辞めて、その3ヶ月後に京都に引っ越しました。 その時、私は39歳で、ユングの素晴らしい言葉に出会いました。「人生には午前と午後がある」。つまり人生は二度あるということです。最初は他人のために生き、二度目は自分のために生きる。それで私はまず今の環境から離れ、どこか別の場所でゼロから始めようと思ったんです。

――京都に引っ越して出版社を設立するまでの間は何をしていたんですか?

1年半くらいは日本語を学びながら、展覧会に行ったり、書店に足を運んだり、寺院を訪れたりしていました。そんな中で、中国でずっと雑誌を通してさまざまな文化を伝えてきたので、これからは京都を拠点に出版を通して、自分なりに二つの国の文化をつなげたいと思うようになりました、何度も一緒に取材をするなどしてきた旧知の日本人編集者の友人が、一緒に出版社の立ち上げに参画してくれました。

京都上京区の御所近くにある青艸堂のギャラリーSeisodo Studioの入り口

――秋山亮二氏の『你好小朋友-中国の子供達』(1983年)の復刻版が青艸堂の最初の出版物となり、中国で大ヒットしたそうですね。

80年代初頭の中国を撮影したこの写真集は、2015年頃から中国のSNSで“幻の写真集”と話題になっていて、いろいろなご縁から2019年に青艸堂で復刻版を出版できることになりました。発売後は写真集に載っている当時の子供たちを探すプロジェクトが中国のメディアで立ち上がり、実際に10人が探し出され、大人になった彼らと秋山さんが再会する様子は、中国ではもちろん、日本のNHKでもドキュメンタリーとなって紹介されました。この写真集はその後、未発表作を紹介する形で計4冊のシリーズ作品となりました。この本で出版社をスタートすることができて、本当に幸運だったと思います。その後、土門拳、木村伊兵衛という日本写真界の大御所の作品も出版しています。

現在もロングセラーになっている秋山亮二「你好小朋友-中国の子供達」(復刻版)

――なぜ写真集メインの出版社にしようと思ったのですか?

中国と日本で出版することを考えた時、それ自体が共通言語となる写真がいいと思いました。また、私自身がもともと写真が好きだということもありますが、読者に本そのものを大事にとっておいてもらいたいという気持ちもあります。いい写真集や画集は、大切に持っていたいという気持ちを喚起しますよね。何でもネットで読めてしまう時代だからこそ、紙の書物の価値を高めたかったという思いもありました。

――青艸堂は上海でデザイン・印刷製本を行い、刷り部数の90%は中国で販売しています。そのようなスタイルで中国で本を売ることの利点、また逆に苦労する点はありますか?

そういう方法で中国で本を売る出版社がなかったので、参考にすべきものがなく、すべてが手探りでした。中国はマーケットが大きいという利点がありますが、日本の出版社の本を販売するには、中国の外国語図書に関する厳格な管理規定に従って、とても煩雑な手続きを行わなければなりません。一歩一歩経験を積み重ねながら何とか進んできました。でも、他に誰もやっていないからこそ、やりがいも感じています。

――今はギャラリー空間も所有し展覧会も開催していますね。今、展示が行われている台湾の写真家・馮君藍についておしえてください。

馮君藍は写真家であり、またプロテスタント教会の牧師でもあって、彼が教会で信徒たちを撮影したポートレートシリーズ「微塵聖像」を、今回展示しています。同名の写真集を昨年、青艸堂で出版しました。

彼との出会いはもう14年ほど前になります。台湾の有名な写真家の先生の紹介で、「微塵聖像」の初期の作品を最初に見た時に、その中の「The Prepared Virgin」という作品に衝撃を受けました。その写真を見つめていると、知らぬ間に涙が頬を伝って落ちていました。続けて他の写真も見終えて、これは真に心を揺さぶるポートレイト作品だと実感しました。

当時、在籍していた雑誌で「The Prepared Virgin」を表紙に使ったことがきっかけで、このシリーズは中国本土でも注目を集め始めました。それで個人で出資し、1年かけて限定1000部の作品集「微塵聖像」をつくりました。それは本という形態ではなく、印刷した20枚の写真を書箱に収めたスタイルのものでした。 その後、京都で自分の出版社を立ち上げて、より多くの作品を収録した写真集「微塵聖像」を昨年出版し、展覧会を開くこともできました。彼にとってはこれが日本初の個展になります。

2024年に青艸堂より出版された馮君藍の写真集「微塵聖像DUST ICON」。表紙の写真は「The Prepared Virgin」

――4つの空間を使ったシンプルな展示設営となっていますね。

馮君藍はとても寛容で、「わざわざキュレーターを呼ぶ必要はない。自分たちでどう展示するかを決めればいい」と、打ち合わせもシンプルでした。彼にとっては牧師としての伝道が大切な仕事なので、こちらのスケジュールに沿って何らかのコンセプトを出すように求めることはできません。台北での彼の展覧会も、いつも数日前になってようやく展示の見せ方を考えるのだそうです。だから私も肩の力を抜くことにしました。展示構成については2回だけ話し合いをしました。実際の展示作業は馮君藍本人と友人やアシスタントたちと一緒に2~3日かけて自分たちで行いました。展覧会は12月28日までやっていますので、ぜひ多くの方に見に来ていただきたいです。

写真家の馮君藍と夏楠。Seisodo Studioにて
Seisodo Studioには野外も入れて4つの展示空間がある

――日本の作家の作品を中国に紹介するだけでなく、中国の作家の作品を日本に紹介するという役目もあると思っていますか?

はい。これまでに中国の若手の作品集なども出版しています。京都という場所で、自分にしかできないことをやっていきたいです。

――では最後に、次に出版予定の写真集についておしえてください。

濱田英明さんの「Haru and Mina」を12月中旬に出版します。Haru とMinaというのは、濱田さんの2人のお子さんのことで、10年以上前に同名の写真集が台湾で出版されています。濱田さんがはその後もずっとこのシリーズを撮り続けていて、今回の写真集には2009年から2020年の間に撮影された作品が収録されています。ページ数は504ページと、私たちがこれまで手がけた中で最も厚い写真集になります。 2人の子どもが幼い頃から少しずつ成長していく過程を、作者は常に一定の距離を保ちながらも深い愛情を込めて見つめています。色調もまた濱田さんならではの独特な持ち味で仕上がっています。濱田さんは日本でもとても人気のある写真家ですので、青艸堂のこれまでの写真集とは違って、中国だけでなく日本でもかなりの冊数を販売する予定で、それは私たちにとっても新たな試みとなります。

Information
馮君藍作品展微塵聖像DUST ICON
会期:12月28日(日)まで
開廊:平日13:30〜17:30 土日13:30〜18:00 月曜休廊
Seisodo Studio:京都市上京区讃州寺町244-2(西洞院通り一条下がる)

text: Sauser Miho

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Profile

夏楠Xia Nan

1977年中国湖北省出身。武漢の華中理工大学卒業。2002年から広州の『新週刊』の編集記者。2005年にモダンメディア社のカルチャー誌『生活』の創刊に携わり、2016年10月まで同誌の編集部に在籍。編集ディレクター、アソシエイトパブリッシャーなどを務める。2016年に台湾の写真家・馮君藍の1000部限定の特装版写真集『微塵聖像』を制作プロデュース。写真のキュレーターとしての仕事も開始。2017年1月に京都に移住。2018年6月に出版社「青艸堂」を設立。京都と上海を行き来しつつ日中をつなぐ出版やイベントを行う。
https://www.seisodokyoto.com/

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