「クロード・モネが描きたいと思う庭をつくる」 高知県の「北川村『モネの庭』マルモッタン」チーフガーデナー町田結香さんの挑戦
高知県には、印象派の巨匠クロード・モネの愛したフランス・ジヴェルニーの庭を再現した「北川村『モネの庭』マルモッタン」がある。ジヴェルニー以外で、世界でただ1か所、「モネの庭」と名乗ることを認められた場所だ。今年、開園25周年を迎えた同園のチーフガーデナーを務めるのが町田結香さん。モネの精神を受け継ぐ庭造りに取り組んでいる。
ジヴェルニーのモネの庭をモデルにできたこの場所では、スイレン、太鼓橋、藤棚、バラのアーチなど、モネの絵に描かれた風景を楽しむことができる。数々の草花はまるでモネの点描のように植えられ、季節と共に花や緑が変化し、姿を変えていく。
池に映る草花に太鼓橋。モネの絵そのものだ
町田さんは昨秋、チーフガーデナーに就任した。高知県出身。島根大学で植物病理学を学んだ。2011年に卒業後、徳島県内の牧場や郵便局でアルバイトをした。植物は特別好きだと意識していなかったが、常に身近な存在だった。
そんな町田さんが知り合いの縁で「モネの庭」を運営する会社に入社したのは、2016年。庭造りに2002年から携わってきたチーフガーデナーの川上裕さんのもとで、庭造りを学んだ。
モネといえば、世界的に有名で、日本でも大人気の画家だ。本も数多く出版され、研究も多い。それだけに、モネの感性を入れ込んだ庭を造ることは難しく、プレッシャーでもある。しかも、植物相手ゆえ、思うようにならないこともある。
川上さんはフランスの「モネの庭」に行き、多くを吸収してきた。植物園でもない、植物名の表示もしない。画家のモネが庭で表現しようとしたものがどういうものか。職人かたぎの川上さんと一緒に作業していると、庭造りに込めた内なる思いが伝わってきた。
「川上さんが『ここはほかの庭とは違う。大変で難しく、面白い』と話していたのが強く記憶に残っています」
色とりどりの花が咲き乱れる「花の庭」
ガーデナーとしての経験を重ねていくうえで、川上さんから学ぶことは多く、時には何げないひとことに気付かされることもあったという。それが自分なりの庭造り、モネと向き合う姿勢や視点を育てていくことにもなったという。
モネを深く理解するために、川上さんから「本物の絵を見てこい」というアドバイスをもらった。神奈川県箱根町のポーラ美術館をはじめ、モネの作品が見られるところに足を運んだ。作品を眺めていると、これまでわからなかったものが見えてくる。絵画なのに本物の水があるように感じる。「光の画家」とも呼ばれたモネの作品の光のとらえ方の機微も少しずつわかるようになってきた。
使い込んだはさみなどが仕事の相棒
夕暮れに水の庭で作業しながら、「この光景、パリのオランジュリー美術館にある作品にあったなあ」と思ったりする。「本物の絵を見ることによって、作業していると、ふと気付くことがある。作品の透明感がこういうことだったのか、とか。モネの目に映ったものが見えてくる感じがするのです」
2019年、ジヴェルニーに研修に行った。時は冬季閉園の直前である10月末。フランスの庭には特有の雰囲気があり、植物の立ち姿や重厚感が違った。すべてがすばらしかった。
「でも、いいなと感じながらも、私たちの庭も負けてないと思ったんです」
2024年8月末に川上さんは引退し、町田さんがすべてを引き継いだ。ジヴェルニーと気候が違う北川村で庭を維持、管理していくのは難しい。雨の日も風の日も植物の様子を見て回る。12月初めから2月末までの冬季閉園期間中のメンテナンスも重要な仕事だ。育苗の担当者と今後の計画を立てていく。庭は造ってから、見応えのあるものに成長していくまでに数年かかる。
来年の閉園期間には、水の庭の池の周りの植栽を変えていくことも予定しているという。さまざまな植物や空が水にどう映り込むか、その加減も大事な要素だ。
「ジヴェルニーの庭では、スイレンを見るために池と通路までの距離が近い。そのために水面を近くに感じられる場所を増やす予定です」
夏に咲く青いスイレン
高知の気候を生かして、水の庭では夏になると青いスイレンが咲く。そしてジヴェルニーではできない「ボルディゲラの庭」で地中海の雰囲気も味わえる。モネの庭に一日たりとも同じ風景はない。絶えず変化し続ける庭には、ゴールもない。決してジヴェルニーの庭のまねではなく、モネの感性を理解し、庭の魅力を深化させる。「モネが描きたいと思う庭を造る」を胸に、植物と向き合う。
text & photo : 宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)
・「モネの庭」をはじめ、豊かな自然あふれるユズの里 高知県北川村へ
・「世界一幸福な国」にみる、幸せになるためのささやかな3つのヒント