多様な世界があるパリ【マリ・クレールデジタル編集長のパリコレ日記】
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2025-26年秋冬パリ・ファッションウィークが3月3日から11日まで開催されました。期間中、公式スケジュールで100余のブランドが最新作をショー形式やプレゼンテーションなどで発表しました。この期間はファッション関連のイベントも行われていました。ファッションだけでなく、街で見かけた面白いモノやコトをつづっていきます。今回はDAY 9。
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2025-26年秋冬パリ・ファッションウィークが3月3日から11日まで開催されました。期間中、公式スケジュールで100余のブランドが最新作をショー形式やプレゼンテーションなどで発表しました。この期間はファッション関連のイベントも行われていました。ファッションだけでなく、街で見かけた面白いモノやコトをつづっていきます。今回はDAY 9。
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ファッションウィーク最終日はシャネルから。1900年のパリ万博の会場となった歴史的建造物のグラン・パレが会場です。入っていくと、ガラスの天井に向かって伸びる大きな黒いインスタレーション。何だろうと思ったら、シャネルを象徴するもののひとつ、黒いリボンでした。



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今回は、クリエイションスタジオがリボンやパール、ボウタイなど、シャネルには欠かせない要素を再解釈したのだそうです。いつもとは違うバランスやサイズでこれらの要素を用い、新しい風を吹き込みます。また、透ける素材が軽やかさを表現。1粒のパールのヒールや、おおぶりのパールネックレスのようなクロスボディーバッグなどは人気が出そうです。


ルイ・ヴィトンから新しいフレグランスが登場するということで、発表会に行ってきました。すてきな空間演出の中、目に入ってきたのは「eLVes ルイ・ヴィトン」。実にシンプルなボトルです。しかもパープル。自由な女性に向けたこのフレグランスはお仕着せの女らしさなど無縁。「自分らしく」を応援してくれるような香りです。バラに加えて、ルイ・ヴィトンのフレグランス史上初めて、スズランを採用したのだそうです。アクセントにシナモンやジンジャーを加え、最後の仕上げに少量のパチョリを追加。優しく、力強い香りでもありました。
ミウッチャ・プラダが手がけるミュウミュウのテーマは「FEMININITIES(女性らしさ)」。コレクションノートには「衣服を通して女性であることの意味を表現し、議論を引き起こし、新たな考えを生み出そうとしています」とありました。加えて、「着る人の体形を問わないフォルムの衣服は、体から程良い距離を保ち、女性らしさを象徴するシルエットを生み出します。アイテムそのものをカーブさせたり、見えない部分に曲線を潜ませたり、服を操り、折り畳み、フォルムを変化させることで、女性らしいカーブが形作られています。女性らしさには、男性的な制約から私たちを解き放つパワーがあります。それは男性的な服をも変身させることができるのです」と書かれていました。



1950年代、60年代風のちょっとクラシックな雰囲気を感じさせながらも、とがったブラが新しいフォルムを作るなど、先鋭的なデザインでもあります。そして女性のボディーに対する敬意が感じられるものでした。
今、大人気のミュウミュウは単にかわいいとかかっこいいというだけでなく、ミウッチャ・プラダの精神が宿っています。


会場にはTWICEのMOMOやIVEのウォニョンも登場。撮影しようと試み、途中でどうなるかと思うほどもみくちゃになりました。
作家の原田マハさんとデザイナーの伊藤ハンスさんによるブランド「ÉCOLE DE CURIOSITÉS(エコール・ド・キュリオジテ)」の2025-26年秋冬の展示会へ。トレンドとは一線を画し、手の込んだ、丁寧な服作りをしているブランドです。いつも静かで、でも存在感のある服です。

今回のテーマは、小説家の森茉莉(まり)(1903-1987)。森鴎外の長女で、溺愛されて育ちました。父の紹介でフランス文学者と結婚し、渡仏。しかし、父は亡くなり、夫とも離婚。その後、エッセーなどを書いて暮らしていました。『父の帽子』『贅沢(ぜいたく)貧乏』などが有名です。
父に大切に育てられ、フランスに渡り、独自の美学を持ち、暮らしぶりは豊かでなくなっても自身の生き方を通したという森茉莉に思いをはせ、原田さんが文章を書き、伊藤さんが服を作りました。



幼い頃ワンピースについていたような、パールがついたかわいらしいつけ襟、ギャザーがいっぱいのワンピースや、茶色のツイードのジャケットや淡いブルーのフリルやボウがついたブラウス。幼い頃だけでなく、パリで見た世界から形成された彼女の美学を服で表現するとこんなだったのかもと、思うような服の数々です。そして、いつも通り、見えない部分まで手が込んでいる。
森茉莉は料理好きだったそうで、その様子はエッセーにも登場しますが、「ここでちょっとやってみませんか」と伊藤さんから提案がありました。そのエッセーがこちら。
「そういう私にも、ドコンジョーとヤッタルデで取り組むことがたった一つだけある。それは自分のたべるものを造(こし)らえることで、目下三日おきに造っている常用のお菓子にはドコンジョーで立ち向かっている。板チョコを好みのこまかさに砕いて、次に角砂糖を下ろし金で三分の二程すりおろし、その粉を砕いたチョコレエトにまぶす。残りの三分の一の角砂糖を、板チョコと同じ位の細かさに砕いて、それも混ぜるのである。切り出しで割るのに、むずかしい大きさの好みがあるので、それを造っている間は全ドコンジョーがその作業に集中している」
伊藤さんが森茉莉の世界の一端を再現してくれました。目の前でチョコレートを割り、角砂糖を下ろし金ですり下ろし、チョコレートにまぶす。こんな食べ方、考えたこともありません。甘い。楽しい。彼女は何を思って、こんなことを考え出したのか。紅茶をいただきながらチョコを食べ、服を見ると、服と森茉莉の世界が重なってくる感じがします。

ちなみに、伊藤さんが選んでくれたのは最高級のパトリック・ロジェのチョコレートで、角砂糖も高品質のブラウンシュガー。私が食べたのは、森茉莉が食べたのより格段においしいはず。
エコール・ド・キュリオジテが作る服の魅力は、毎回のテーマをもとに想像の世界を広げ、それを服に落とし込んでいくこと。いろんなストーリーが服に含まれており、それが垣間見えるのがうれしいし、着てみるとそれがほわっと伝わってきます。初日に古書店のウインドーで見た服の世界が、ここにありました。
text: 宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)
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